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列島縦断ネットワーキング

[滋賀]

甲賀郡における知的障害者の生活支援サービスについて

牛谷正人

 「この子が生まれてから一度もゆっくりと美容院に行ったことがないわ。」

 3年前に信楽青年寮が行った実態調査で訪問した時、こんなお母さんの話を聞いた。

●地域生活の不安

 信楽青年寮が、地域で暮らす知的障害をもつ人の家庭に対して支援サービスを始めるにあたって、1993年秋、信楽町の地域で暮らす障害者の家庭の状況調査を行った。そのなかで地域で暮らす障害者の家庭は、想像以上に介護に対する孤独感・孤立感をもち、一方で「入所機能」ではない「施設」への期待感があることがわかった。つまり母親を核とした家族中心の介護の疲れと、タイムケアへのニーズの高さである。

●レスパイト・サービスの開始

 そこで障害者を介護する家族のサポートを中心とした「レスパイト・サービス」として、①ヘルパー派遣によるタイムケアの実施、②ショートステイの積極的受け入れを、94年7月より開始した。これは青年寮とサービスを希望する家庭との私的契約で、年会費1万円(保険料を含む)、1時間700円でサービスを行うというものだった。

 94年度は、24世帯の登録、約250件の派遣を、翌95年度は、43世帯の登録、約800件の派遣と、家族のニーズに即した生活支援サービスは、これまでの施設中心の施策ではない地域生活支援のあり方として地域に徐々に受け入れられていった。

 サービスの利用者からはおおむね好評で、「いざという時の安心感が大きい」「ちょっとの外出が不安だったが、電話一本で頼めるのがうれしい」などの声が寄せられた。

●より安定したサービスの提供に向けて

 滋賀県では、老人や障害者の問題について「福祉圏」という行政単位を設けて検討を進めている(本誌1996年12月号参照)。これは一つの自治体では対象者の数が少なかったり、財政面の対応が困難な課題について隣接するいくつかの市町村をまとめて取り組もうとするもので、信楽青年寮が位置する信楽町は、「甲賀福祉圏」に属する。

 私的契約による地域生活支援が具体的な実績をあげるなかで、利用者からはこのようなサービスが途切れないようにとの声が出始めた。

 このような声にこたえるために、地元福祉事務所を中心により安定したサービスの提供に向けて公的補助制度の導入について検討が始まり、95年度には甲賀郡七町との間で「心身障害児・者ホームヘルプ事業」の適用を、さらに九六年度からは「24時間対応総合型ホームヘルプサービス」を核とした生活支援センターの開設へと具体的な取り組みが始まった。

 これは国庫補助制度が制限している対象や内容について県の単独事業としてそれを補い、障害の程度・利用理由にかかわらず公的な地域生活支援サービスが受けられるようにしたものである。

●地域での生活を支える資源

 現在、甲賀郡で暮らす知的障害者とその家族を支える資源は以下のとおりである。

(1)ホームヘルプサービス

 障害の程度・利用理由にかかわらず、24時間対応のヘルパー派遣が受けられる。

(2)いきいきサービス

 公的サービスの適用が困難なニーズに対応する私的契約によるホームヘルプサービス事業。

(3)ナイトケアサービス

 夜間、突発的な事由により家庭での介護が困難になった時、生活支援センターで一時介護が受けられる。

(4)デイサービス

 就労になじみにくい障害者に対して生きがい作りを中心としたプログラムを提供。

(5)地域生活支援事業

 外来・訪問・巡回などによる療育相談をコーディネーターおよび相談担当職員が行う。

(6)ショートステイ

 家庭での介護が困難になった時、入所施設で一時的に預かってもらう。

 ショートステイを除く、支援サービスの拠点が「甲賀郡障害者生活支援センター」であり、相談機能とサービス提供が総合的に受けられる。

 また甲賀郡では、95年4月より「心身障害児・者サービス調整会議」を設置し、障害児・者を取り巻く福祉・保健・教育・医療関係者が連携して、総合的なサービスの提供が行えるよう個々の相談について協議を行っている。これによりコーディネーターを中心とした相談活動を福祉圏域の課題として取り上げ、それぞれの機関が分担してサービスにあたることが可能になった。

 この意義は大きく、幅広い対象者のニーズを1機関で支えるのでなく、圏域で支え合うことで支援メニューの拡大や課題を計画策定に反映することができるようになった。

●地域で暮らすということ

 入所施設を中心に取り組まれてきた障害者施策は、国際障害者年を境に「ノーマライゼーション」という考え方に大きくシフトした。そのなかで具体的に「地域で暮らす」ことが問われるようになってきた。

 しかし、地域で暮らすことは現状ではごく限られた支援メニューのなかで暮らすことを選択することでもある。そして、介護者である家族(親)は自分が元気なうちはいいが「年老いたら」、「入院や事故でもあったら」という不安を抱えながら生活を送ることでもある。

 緊急時や日常の介護を家族だけで支えるのではなく「地域」を単位とした「エリア」でサービスを受け支え合うなかで、生活を築くこと、すなわち「必要な援助を必要な時に受けながら暮らす」ことが地域で暮らすことだと考えられる。

 そこには従来の施設中心の管理や訓練でない「援助の視点」を基本とした、サービス提供者と利用者の対等な関係が生まれる。さらに利用するサービスへのチェックが働くことも大切である。

●終わりに

 昨年7月に開設した生活支援センターでは60の利用登録世帯に対して、月120件あまりのホームヘルプサービスを提供している。限られたスタッフ数でこのサービスを進めていくには限界もあり、今後は地域のボランティアの育成や啓蒙活動にも力を入れていかなければならない。

 より開かれた「障害者生活支援センター」となるため、障害者とその家族はもちろん、地域のいろいろな人々が気軽に立ち寄れる「地域センター」機能の充実に力を入れていきたい。

(うしたにまさと 甲賀郡障害者生活支援センター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号) 65頁~67頁