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列島縦断ネットワーキング

[宮崎]

知的障害者デイサービスセンター「阿波岐原デイサービスセンター」のオープン

藤森友幸

1 設立の経緯

 宮崎市は、花と緑に囲まれ、温暖な気候と豊かな自然に恵まれた観光リゾート都市です。眺望の素晴らしい日南海岸をはじめ、世界最大級のウォーターパーク「オーシャンドーム」を有するリゾート「シーガイア」など、皆さんもご存じのことと思います。

 今、宮崎市では「思いやりの心にみちた豊かな宮崎」、「人にやさしい宮崎」を基本方針に据え、「九州一の福祉都市」の実現を目指して各種施策を積極的に展開しています。平成8年度中に宮崎市障害者基本計画を策定することとしていますし、また新規事業として「手話ビデオ作成事業」、「聴覚障害者コミュニケーション支援事業」、「福祉機器等リサイクル事業」、「音楽療法普及支援事業」等に取り組み、それぞれ事業をスタートさせました。この新規事業の1つとして取り組んだのが知的障害者デイサービス事業です。

 宮崎市では療育手帳を持っている知的障害者が現在約1,200名います。その約半分が重度障害者で、ここ数年、その在宅化が進む傾向にありました。この背景として、従来重度の知的障害者の場合は、施設入所を希望するケースが多かったのですが、ノーマライゼーション理念の宮崎市民への浸透が進むなか、保護者の意識が「施設から在宅へ」と大きく変化してきたことがあります。ところが、重度の知的障害者を対象とした通所施設は宮崎市内にはなく、家庭にずっといなければならないようなケースが多い状況にありました。このように、在宅で通所を希望する重度の知的障害者が平成6年度当初で30人に迫る勢いでした。

 そのような状況のなか、平成6年9月1日に重度の知的障害者の通所授産施設として、社会福祉法人巴会(今回、知的障害者デイサービス事業を委託した法人)が「阿波岐原通所センター」を定員30名で開設しました。

 阿波岐原通所センターには、近隣町からも通所生の希望があり、各福祉事務所の調整会議の末、宮崎市から23名が通えることとなりました。しかし、それは同時に10数名の通所待機者を生むことにもなりました。また、宮崎市では養護学校の新卒者のなかで、通所施設の利用を希望しながら施設がないためやむなく在宅となってしまう者が毎年6~7名いました。さらに、阿波岐原通所センターによる在宅通所生の掘り起こしもあり、在宅による通所希望者は増える一方でした。

 このような状況において、阿波岐原通所センターの20名増員の計画と知的障害者デイサービス事業の計画がなされ、平成8年度のスタートを目指しました。

2 「阿波岐原デイサービスセンター」事業内容等

 阿波岐原デイサービスセンター(写真1 略)は、平成8年10月1日に阿波岐原通所センターに併設される形でオープンしました。このセンターで行われる知的障害者デイサービス事業は、宮崎市内において、就労が困難な在宅の知的障害者が通所しながら文化的活動や機能訓練等を行って社会参加をし、本人の自立と生きがいを高めることを目的としています。事業自体は、利用決定等の事務的な部分を除き、阿波岐原デイサービスセンターを運営する社会福祉法人巴会に委託しました。

 それでは、事業の具体的内容について説明します。この事業を利用できる人は、宮崎市内に住所を有する15歳以上の就労が困難な療育手帳を所持している知的障害者か、またはその介護を行っている人です。1日の利用定員は15名です。重介護型ですので、そのうち10名以上は重度の人が対象となっています。利用できる日時は、月曜日から金曜日までの5日間で午前9時から午後5時までです。もちろん送迎サービスも行っていますので、市内を循環するデイサービスセンターのバスにも乗ることもできます。昼食についても、希望する人には400円で提供しています。

 さて、肝心の利用メニューですが、青果作業、音楽療法、調理実習等、表のような内容になっています。この中にはパン製造等まだ実施されていないものもありますが、見てのとおり実に多彩な内容が用意されています。利用者は、自分が利用したい日とその日に受けたいメニューを自分で選択し、自分にあった内容を組み立て、趣味や生きがいを高めていくわけです。また、デイサービスセンターが阿波岐原通所センターに併設されるという形式をとっていますので、指導等については、通所センターの通所生と一体となって行っています(写真2 略)。

表 利用メニュー
  午前 午後
青果作業、部品製造、パン製造、窯業 青果作業、部品製造、パン製造、窯業
押し花教室、フォトグラフィ講座 日本舞踊、さをり織り
歩行訓練 プール
買物社会見学、調理実習 買物社会見学、調理実習
青果作業、部品製造、パン製造、窯業 青果作業、部品製造、パン製造、窯業
ちぎり絵 国語教室、カラオケ
音楽療法 歩行訓練
調理実習 調理実習
書道講座、生け花、茶道講座、コーラス 手芸講座、陶芸講座
リズム体操 プール、ストレッチ体操
ドライブ お菓子つくり
青果作業、部品製造、パン製造、窯業 青果作業、部品製造、パン製造、窯業
ペン習字、絵画教室  
  健康増進(体育館)、レクダンス
ドライブ、買物社会見学、調理実習 買物社会見学、調理実習
青果作業、部品製造、パン製造、窯業 青果作業、部品製造、パン製造、窯業
アートフラワー 算数教室、カラオケ
機能訓練 プール
買物社会見学、調理実習 買物社会見学、調理実習

3 福祉体験研修

 宮崎市では、平成7年度から部長以下福祉部に属する職員が実際に福祉施設や作業所等に1日行き、施設等の職員と同様に障害者のお世話をするという福祉体験研修を実施しています。これは、職員が障害者と接する最前線の職場を実際に体験し、頭だけではなく全身で障害者の立場を理解しようとするものです。私も10月の終わり頃に機会があり、阿波岐原通所センターに体験研修に行ってきました。

 朝8時30分、通所バスに乗り、みんなを迎えに行きました。みんな元気良く目を輝かせてバスに乗り込んできました。私が付いたのは最重度の人たちのグループ(このグループには、デイサービスの利用者はいませんでした)で、その日は、午前が歩行訓練、午後が図書館や美術館への社会見学といった内容でした。午前中に担当した人は、下肢機能障害と自傷行為もありADLは全介助の人でした。昼食及び午後に担当した人は、多動であり一瞬たりとも目が離せなく、やはりADLは全介助の人でした。

 慣れない私は、自分の意思をなかなか伝えることができず悪戦苦闘の連続で、暑くもないのにジャージの下は汗でびっしょりでした。そんな私に比べ、体全体でみんなとコミュニケーションを図り、優しく指導する指導員の方々には頭が下がる思いでした。

 夕方になり、みんなを通所バスで送っていきました。みんなを笑顔で迎えるお母さんの姿がとても印象的でした。

4 終わりに

 デイサービス事業が始まって3か月が経過しました。登録者は徐々に増えてきています。また、問い合わせも非常に多く、今春養護学校を卒業する生徒のご両親や、在宅の知的障害者のご両親からよく電話がかかってきて、その関心の高さおよびニーズの潜在性を痛感させられます。

 宮崎市では現在、宮崎市障害者基本計画を策定中です。そのなかで、今後知的障害者デイサービス事業をどのように位置づけ、どのように展開していくか検討しているところですが、目の生き生きとした利用者と笑顔で迎えてくれるお母さんを増やすことができるような事業展開ができればと考えています。

(ふじもりともゆき 宮崎市役所福祉部福祉課)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年2月号(第17巻 通巻187号)58頁~61頁