特集/障害のある人の介護を考える パート2
障害者の地域生活援助(介護)を考える
―施設が地域福祉の核機能を果たすために―
五十嵐光雄
はじめに
20世紀末を迎えて、福祉を巡る環境は著しく変化している。その1つに公的介護保険は、2000年に発足することを前提に、いま国会で論議されている。初期段階では、高齢者先行で出発する見通しであるが、やがて保険会計が安定するようになれば、障害者についても、要介護認定された人は、その適用対象となることであろうし、その際のケアマネージメントやサービス評価は、絶対条件となる。
また、在宅福祉志向はますます強まり、併せてそれを支えるシステムが、質・量ともに大きく求められるようになることであろう。
このような情勢の変化に対応できるか否かは、後々障害福祉施設の存在そのものが問われることにも、派生してくることであろう。
そのようなさまざまな事情を勘案して、私たちとしても、次に述べるような形で、21世紀にも社会資源の1つとして、有用な施設であるように、法人あげて可能なものから順次着手してきたところである。
これまでに取り組んだ地域福祉対応策
1.県単独事業として
①障害者地域作業所(3か所:うち2か所は、後に地域活動センターとして合体)
②障害者在宅介護支援事業(昨年10月1日以後、在宅障害者生活支援事業として国の制度に切りかえた)
③通所授産施設併設型デイサービス事業
④ともしびショップ2号店(公共施設内で知的障害者が働く喫茶コーナー:県より委託)
2.国基準の施設
①身体障害者通所授産施設(当初定員20人→30人→50人と増員)
②身体障害者福祉ホーム(定員10人)
③デイサービスセンター
第1ケアセンター(既存療護施設利用型)
第2ケアセンター(専用フロア)
※県単独事業から、現在は国の介護型
④既存の療護施設に10人分の増員(別棟の小舎制で全個室)
⑤ショートステイ専用フロア(定員18人)
⑥在宅障害者生活支援センター
地域在住障害者の援助(介護)について
前述の通り、これまでの20年間で取り組んできた施設づくりは、3年刻みに特徴づけることができ、その前後に関連事業を付置してきた。今年は、地域作業所を開設してから満20年となる。その間、開設した施設のうちで、身体障害者療護施設「湘南希望の郷」を除いては、多かれ少なかれ地域在住障害者の生活を前提として、①施設生活から地域生活へ送り出せるもの、②地域在住生活を維持させていくもの、③さらに地域生活の質を高めていこうとするものなどがある。表題の「援助(介護)」は、これらの施設づくりの中で「すべてに受動的介護」を付すのではなく、訓練や福祉機器などを活用して、要介護者が自立度を高める場合もあるので、固定的「介護」ではなく、「援助」としてとらえ、そこに「介護」も包含して考えることとした。
地域福祉戦略の諸条件
1.サービスエリアの設定
サービスエリアは、関係施設など社会資源の整備度によって大きく違ってくる。一部のサービス(例えばショートステイは全県をエリアとする)を除いて、当法人としては、①藤沢市北部(人口10万)は総合サービスエリア、②PT業務を行っており、肢体不自由関係は全市域(人口40万)、③視覚障害関係は、隣接市町を加え人口70万エリアを想定して、いま準備を進めている。藤沢市全域に社会資源が確保された段階では、②についても、市の北中部(人口20万)にサービスエリアを縮小したい。
2.サービスメニュー
既に制度化されているもの(相談援助、在宅生活支援3本柱など)と、法人独自のものとがある。
3.障害別援助サービス
視覚障害については、主として中途失明者を中心にADL、歩行、コミュニケーションを法制度の裏付けはないが開始している。また70万エリアについては、重度視覚障害者を対象に、ニーズ調査を現在準備中である。近い将来、国の視覚障害者更生施設基準が改定されるよう働きかけをしている。そして視覚障害専門リハビリテーションの通所・訪問型の制度化を実現したい。また聴覚障害者については、幸いなことに市内に神奈川県ろうあセンターがつくられているので、同センターとの連携をもって進めていきたい。さらに肢体障害者ならびに内部障害者については、介護度に応じて既にサービスを提供している。
2つの事例が教えるもの
ケースⅠ
K氏(61歳)、妻T子(63歳)の2人家族。K氏は脳卒中により、1992年デイサービス(機能訓練・入浴・喫食等)の利用開始。
某年某日デイサービスより帰宅後、妻の死亡を発見、急きょショートステイの対応となる。K氏が居住している湘南台地区は、藤沢市の北部の拠点として整備が進められており、新たに私鉄と公営地下鉄が連結するための大工事が進められている新興住宅地域である。30年前に私鉄駅がつくられ、山林・田畑の開発で、新住民が急増し都市化した場所でもある。数年前より、私たちの障害福祉コミュニティグループと、地区社協が共催で開催しているボランティア講座修了者が徐々に増えてはいるが、コミュニティの連帯感が不十分であり、この事例のように急変した家庭状況に即対応できる条件は、まだ備わっていない。
これからの超高齢社会を迎えるにあたって、住民の意識と連帯感を育成し、“ともに生きる”ことが実践される街となるように、当法人としても、講座への講師派遣、相談・援助のシステム化、福祉サービス需給ニーズ調査などを行いながら、新興地域における在宅生活サポートシステムのネットワーク化に努めていきたいと考えている。
ケースⅡ
O氏(48歳、造園業)、8人家族(両親・兄・妻・子ども3人)
この事例は、この原稿を執筆中(1997年2月)、リアルタイムで飛び込んできた事件である。事件発生後の数日間は、新聞・テレビなどで取材報道がなされた。
この事件は、当法人本部のある湘南ふくし村から、2キロメートルも離れていないところで起こった。高齢者・障害者・その他、いくつかの要素が複雑にからみあって、家族5人の傷害事件となり、自殺という形でピリオドを打った加害者のO氏は、日頃から親思い、兄(障害者)思いの温和な優しい人であったと、近隣の人々は異口同音に言っているという。O氏の長男は、重度障害者の通所施設に通っており、将来入所することがあるかもしれないというので、私たちの「在宅障害者生活支援センター」のショートステイも利用された実績がある。
このセンターは4か月前に看板を掲げたばかりであるが、市の広報や商業新聞にも開設当初は、記事として取り上げていただいたり、私どもの地域への広報誌「四季だより」にも掲載して、啓発に努めてきたが、情報過多の昨今のためなのか、なかなか思うように地域住民の間に浸透していないのが実態である。
「もしも事前に相談を受けていたら…」とは勝手なこちらの思いであって、社会資源としての機能を発揮することもできないうちに、目と鼻の先で悲惨な事件が起こってしまったことが悔やまれてならない。
心身の傷が深く残ってしまったであろう遺族の方々にも心痛む思いであるが、それ以上に、事件に走らざるを得ない程に追い込まれたO氏の長い間抱き続けてきたであろう辛苦が、私の心に重く離れない。もはや取りかえしのつかないことではあるが、これを貴い教訓として、今後ますます複雑化し、社会病理現象の募る21世紀において、少しでも有効に機能する地域福祉の担い手として役立つものとなるようにと、法人の役員職員とともに、心に堅く誓っている。
良い地域援助(介護)を進めるために
私の経験を通して、さらにニーズに促した良質な介護(援助)を地域在住の障害者に提供していくために、次のことを提案する。
①デイサービスは、連日利用を認める
②ショートステイは、ベッド数に対する職員配置を明確な基準で行う
③すべての自治体がレスパイトサービスを実施
④ホームヘルプの充実に向けて
- (ア)サービスエリアの縮小と施設活用のネットワーク化
(イ)身障療護も特老同様にホームヘルパー養成を認可し、社会資源として活用(注1)
⑤在宅障害者生活支援センターの充実
- (ア)常勤職員を3人以上に(現行1人)
(イ)各種ハイテク機器が導入できるように、運営費増を計る
⑥受動的介護から能動的援助ができるように、障害別リハビリテーションの制度化
⑦独自のメニューが提供できるような弾力的運営費の上乗せを計る
⑧重度重複障害児者の学校・福祉施設間の職員配置の格差是正(注2)
⑨当事者の福祉選択の時代に備えて、在宅・施設のQOL比較指標を公的に策定する
むすび
これまでに遭遇した数多くの事例(注3)によっても、福祉の光が届きにくい家庭ほど、複雑多岐にわたる問題が山積みしていることが理解できる。「申請主義」から「出前・掘起こしサービス」ができる条件を探りながら、地域社会に“安らぎの光を送り続ける灯台”を目指していきたいと、思いを新たにしている。
(いがらしみつお 社会福祉法人光友会理事長)
〈注〉
(1) (社福)光友会は、平成6年度に県とも事前協議を経て、ホームヘルパー1級養成講座を企画したが、最終的に認められず、やむなく市社協の委託で実施したため、本部会計より多額の支出をせざるを得なくなった。身体障害者療護施設は、特別養護老人ホーム以上の機能をもちながら、認可されない制度矛盾を改善し、社会資源としての有効活用を図る必要がある。
(2) 重度障害児学級には教員が加配され、登校時は1対1で指導とケアがなされている。しかし身障施設では、最高の人員配置が基準化されている療護施設にあっても、次の算式で明らかなように、著しく人手不足で十分なサービスが提供できない状態にある。根本的な解決策が求められている。
(3) 地域サービス業務の年間実績一覧(表)
(1996.1~1996.12)
内容 | 備考 | |||
相談援助業務 | 保健福祉 | 304 | 市内 | 1262 |
施設利用 | 472 | 市外 | 143 | |
日常生活 | 455 | 訪問 | 992 | |
公的福祉 | 146 | 来所 | 652 | |
その他 | 28 | 電話 | 505 | |
(肢体) | (1118) | (視覚) | (178) | |
(知的) | (109) | |||
デイサービス | 給食 | 5008 | 全て市内 | |
健康 | 4751 | |||
入浴 | 2619 | |||
機能 | 4786 | |||
休養 | 5016 | |||
生活 | 307 | |||
ショートステイ | 藤沢市 | 2098 | 男 | 1085 |
女 | 1013 | |||
川崎市 | 288 | 男 | 257 | |
女 | 31 | |||
横浜市 | 227 | 男 | 175 | |
女 | 52 | |||
県域 | 1284 | 男 | 887 | |
女 | 397 |
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年4月号(第17巻 通巻189号)14頁~17頁