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特集/障害のある人の介護を考える パート2

障害者固有のニードに基づく介護サービスの確立を

尾上浩二

 「介護保険」の報道をはじめ、近年、新聞やテレビ等マスコミで「介護」問題が取り上げられない日はないくらいだ。20年ほど前、学生時代に私が参加していた障害者問題のサークルでは、自立生活のための介護活動に新入生等を誘っていた。しかし、「看護」という言葉は知られていても、「介護」「介助」はそれ程知られていなかった。その頃からすると隔世の感がある。高齢社会の到来とともに、介護への社会的な対応が求められていることの現れだろう。
 施策的にも、1989年の「ゴールドプラン」、94年の「新ゴールドプラン」、そして現在の「介護保険」と、ここ数年、画期的な動きが矢継ぎ早に打ち出されてきた。
 たしかに、ホームヘルパーの数や派遣時間・回数なども以前に比べれば伸びてきている。

ゴールドプランの展開の影で

 だが、障害者の自立生活という視点から見たとき、一種の危惧をもたざるを得ない。それは、荒っぽい言い方をするならば、「高齢者福祉のおこぼれ」をもって「障害者の介護サービス」とするかのような時流があるからだ。
 もちろん、障害者と高齢者のニードが根本的に対立するものではないだろう。だが、ともすれば重度の障害をもつ者のニードが後景に追いやられがちである。
 例えば、私の住む大阪市では1991年以降、障害者ヘルパーと高齢者ヘルパーが一元化され、派遣がなされるようになってきた。供給主体が社会福祉協議会に移ったこともあり、それまでと比べたときに、ヘルパーの数はかなり増えた。そして、まだ一部とは言え、日曜・休日以外の週6日派遣されるケースも出てきた。
 しかし、障害者からの切実な要望になっていた入浴介護がようやく正式に認められたのは、昨年になってからだ。また、就労や作業所通所等の社会参加を前提に考えると、朝7時~9時、夕方6時~夜10時などの朝夕の時間帯のヘルパー派遣のニードは高い。だが、現在の派遣時間帯は朝8時~夕方6時だ。また、同性介護保障のために男性ヘルパーの増員の希望も強い。かねてより要望はしてきているが、なかなか制度の改善は進まない。
 それに加えて昨年は、「巡回型ヘルパー」モデル事業の導入でだいぶもめた。大阪市の場合、1回15分程度の派遣で、介護内容も排泄介助や体位変換等「身の回りのお世話」レベルにとどまっている。特に、脳性マヒなどで言語障害をもつ者にとっては、15分で十分なコミュニケーションを取りながら介護を受けるのは困難だ。また、「巡回型ヘルパー」モデル事業導入に当たって、従来型ヘルパーの朝夕の派遣時間帯の延長等の課題は積み残したまま、それ以外の時間帯を「巡回型ヘルパー」で対応することで「24時間体制になる」としたことも不信を招いた。
 もちろん、障害者の要望に対してすぐに対応の取れないこともあるだろう。しかし、この間の事態を見ると、施策決定の段階で障害者特有のニードが受け止められていないことが1番の問題点だと思う。

障害者プランの展開の中で当事者主導のサービスの確立を

 「巡回型ヘルパー」が脚光を浴びるようになった背景には、「介護保険」の議論があろう。
 「介護保険」は、「高齢者の自立支援」を基本理念に掲げて検討が進められてきた。その中で、サービスモデルについても、いくつかのパターンを想定して議論されている。最重度・重度・中度の障害程度と、単身・高齢者夫婦・他世代同居という世帯状況の組み合わせでサービスモデルは検討されている。本来ならば3×3の9パターンが検討されなければならないが、なぜか、最重度の場合のみ「一人暮らし」は除外され、「高齢者夫婦」世帯が最もサービス量が多いパターンになっている。そのパターンではホームヘルパーは週14回、そのうち半分は「巡回型ヘルパー」で、週延べ11時間20分となっている。
 障害者の自立生活運動の目標の1つは、どんなに重度の障害をもっていても地域で自立した生活を実現することにある。その立場からすると、「介護保険」のサービスモデルの中で「最重度の障害をもつ者の一人暮らし」が最初から外れていることに疑問をもたざるを得ない。おそらく、障害者と高齢者の意識や当事者運動の状況の違いが反映しているのだろう。
 そして、そもそも、現在の介護保険法案では、若年の障害者は対象外である。「介護保険」の検討は、これまでの福祉システムには「権利性」「選択性」の問題があったということから始まった。「介護保険」の対象外だからといって、若年の障害者は、そういった問題のあるシステムに放置されてもよいということではあるまい。
 障害者プランの中では、「障害者特有のニーズにも考慮しながら介護サービス体制を整える」と述べられている。すでに述べたとおりゴールドプラン以降、ともすれば介護サービスの部分では高齢者の付け足し的な扱いを受けてきた面がある。障害者プランの具体化や市町村障害者計画の策定が、障害者のニードに基づいた、真に「いつでも、必要なときに、必要な介護を得られるサービス」の確立につながっていってほしい。そして、特に、「市町村生活支援事業」の創設に見られるように、自立支援の中で当事者主導のサービスの意義が広く認められるようになってきている。今後の検討の中で、自立生活センターの介護派遣サービスや当事者による介護の選択等の意義と重要性が認められ展開していくことを期待する。

(おのうえこうじ 駅にエレベーターを!福祉の街づくり条例を!大阪府民の会事務局長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年4月号(第17巻 通巻189号)20頁・21頁