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特集/障害のある人の介護を考える パート2

知的障害のある人たちの地域生活と「介護」(ケアと支援)の現状・課題

白江 清

 国際障害者年を契機とする、ノーマライゼーションの理念の浸透に伴い「地域生活」を望む知的障害者・家族は増大してきています。しかし、福祉事務所での、施設入所の相談が減少しているわけではありません。入所施設は「生活を支えるすべてが提供される」との安心感でしょうか。なによりも、地域で安心して暮らせるほどには、地域での生活援助(ケア)の体制が整っていないからではないでしょうか。
 知的障害のある人が、地域で暮らすためには、①所得の保障、②医療の保障、③就労および日中活動の場の保障、④文化・娯楽の機会、⑤権利擁護、そして⑥日常生活援助(ケア)が保障される必要があります。それぞれに課題は多いのですが、ここでは「介護」の問題について現状を検討します。
 知的障害のある人の「介護」とは、身体・運動機能や感覚機能の代替・補完ではなく、理解や判断力の乏しさや生活経験不足による日常生活での困難を「支援」(ときに介助、見守り、助言等)することだといえます。その点で「介護」より、「ケア(世話)」や「支援」の用語が適当でしょう。
 ところで、知的障害のある人の地域での暮らしには、家族同居もあれば、単身での職場の寮やアパート住まい、夫婦での生活、友達との共同生活、そしてグループホームでの生活などさまざまな居住形態があります。必要とする支援の内容や量は、これらの居住形態と、個々の障害者の生活力によって異なっています。
 家族同居:家族による介助・監護が主体となっています。家族による介護が困難な場合には、ホームヘルパー派遣制度により身体介助や家事援助を受けることができます。一時的に介護が困難になった時には、ショートステイ制度があります。
 しかし、ホームヘルパー制度は、制度の提供時間帯と利用したい時間帯が合わなかったり、地域によっては対象者を低所得世帯のみに限定していたり、ヘルパーの数が少なく、高齢者や身体障害者の派遣待機の山に埋もれてしまっていることもあります。一方で、多様な供給主体で実施しているところもあります。
 ショートステイも、利用の枠に限りがあり、利用したい時に利用できないことも多く、また利用できる期間が短い、施設が地域から離れていて普段通っている施設や作業所の利用ができない等の問題があります。できるだけ地域で普段の生活が維持できるようにと、施設でなく地域にショートステイの場を確保したり、インホームでのケアを行っているところも出始めました。
 グループホーム入居:グループホームとは、「地域社会にある住宅において数人の知的障害者が一定の経済的負担を負って専任の世話人による日常的世話を受け共同で生活する形態」をいいます。平成元年に制度化され、ホーム数は急速に増加しています。
 入居者は、世話人による食事の世話、金銭出納に関する援助、健康管理、日常生活での相談助言、その他行政手続きや余暇活動への助言等を必要に応じて受けることができます。世話人は、入居者が「ふつうのくらし」を送るための最小限度の世話をするものとし、管理性を排除しています。
 利用者は、一定の身辺自立していることが要件とされていましたが、その後重度加算制度が設けられたこと、また一部自治体では独自の運営補助が行われ、世話人が増員されたことから、身辺処理での介護度の高い人の利用も可能となってきました。これからは家庭から自立し、施設(作業所)に通い、グループホームで暮らす「重い障害のある人」も増えてくることが期待されます。
 しかし実際には、グループホームを利用したいと思っても、ほとんどの場合、入所施設か通勤寮もしくは通所施設・作業所が基礎となってグループホームが設置されており、それらの利用者でなければ入居することは難しいのが実状です。
 グループホームが今後、増えるためには土地、住宅事情から借地・借家が困難であり、建築経費も膨大になることから、自治体による土地や建物の貸与や建築費、家賃補助が望まれます。公営住宅法の改正により、公営住宅の利用の道が開かれたのをおおいに生かす努力も必要です。4人以上が入居できる住宅が確保できない場合には、近隣の複数の住宅をもって1つのグループホーム(圏)とすることも考慮されてよいと思われます。
 できるだけ多くの人に、体験入居の具体的な経験を通して、グループホームが自立生活の選択肢の1つになるよう考慮すべきでしょう。通所施設の多くで始まっている「宿泊訓練」もその1つとして有効だと思われます。
 単身・夫婦で暮らす:在宅の知的障害者の約5%が単独もしくは夫婦で暮らしています。障害者本人の将来の生活の場の希望として「ひとりで暮らしたい」「夫婦で暮らしたい」を合わせると31%にもなります。
 単身もしくは知的障害者夫婦の場合、地域生活支援ワーカーによる①生活や職業生活に関する相談、②金銭、衣食住に関することや余暇活動、健康等の日常生活上の配慮、③近隣との人間関係、親族との関係調整などの日常的支援、④緊急時の対応などの支援活動を受けることができることになっていますが、地域生活支援ワーカーが配置される地域生活支援センターは、全国に三十数か所しかありません。

移動支援としてのガイドヘルパー制度

 知的障害のある人は、あまり外出の機会がもてなかったか、出かける時も同伴者は、ほとんど親や家族に限られていました。こうした単独外出が困難な知的障害者が、自立や社会参加の促進に有益と認められる外出(通勤、営業などの経済活動を除く)の移動の介助、移動時の排泄、食事、その他必要な介護を提供する制度で、ホームヘルパー派遣制度の一環ですが、外出支援を実施しているところはまだ多くありません。
 大阪市では重・中度の障害者を対象とし、1か月に51時間の範囲で事前に登録した有償ボランティアを派遣しています。街に出かければ、慣れないことからトラブルも起きますし、誤解も受け、失敗もします。しかしこれらを通して知的障害のある人が「街に慣れる、街が慣れる」し、理解も深まるのです。多くの登録ガイドヘルパーがいますが、需給調整のコーディネートが十分できていないことから、どうしても友人・知人にヘルパーとして登録してもらって援助を受ける人が多く、ガイドヘルパーになってくれる人がいない場合には利用しにくい現状があります。ガイドヘルパー養成とコーディネート機能の充実が求められています。
 地域生活では、日中活動の場の確保が大切ですが、在宅の知的障害者で、卒業後の日中活動の場が「自分の家」という人が38%もいます。大変深刻な状況といえましょう。
 このように、知的障害のある人が「地域で暮らす」うえで必要なサポートやケアのメニューは揃いつつあります。個々には地域によって先進的な事業が実施されてもいますが、残念ながらそのサービスの量は十分に整ったとはいえません。早急に、知的障害のある人が地域につつみこまれて暮らせるように、「必要なケアが必要な人に、必要な時に、必要なだけ」提供できるサービス量の確保が求められています。また、必要な支援を組織し的確に利用できるよう援助するケースマネージャーとしての役割を、福祉事務所のワーカーに期待します。

(しらえきよし 大阪市立心身障害者リハビリテーションセンター療育相談課)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年4月号(第17巻 通巻189号)24頁~26頁