音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

特集/障害者プランの推進に向けて

「障害者プラン」への期待

―二年次予算に寄せて―

板山賢治

はじめに

 「国際障害者年から15年余、障害者をとりまく状況は大きく変わったといわれていますが、どんな点ですか」と問われるたびに、わたしは、次の5点をあげることにしています。
 第1は、障害者の生き方が変わり、自立を目指し、外へ出るようになった点。人権意識に目覚め、自分の可能性を信じ、自立生活にチャレンジし、集会や旅行に出かけ、まちづくりに参加しようとする積極的な生き方が着実に広がっています。
 第2は、家族、市民や地域社会がこうした障害者の生き方を受け入れるようになった点。少しずつではありますが、親も地域も教師も、職場も変化しつつあります。家庭も、街も、交通機関や建物も変わろうとしていますし、テレビや新聞も確実に変わりはじめています。
 第3は、障害者運動の成熟です。不信と対立、非難と中傷の風潮が色濃かった障害関係組織の相互交流、理解が深まり、連携、協力の気運が高まっています。また、中央・地方の行政との関係も改善され、政策提言機能や国際交流の充実には期待してよいものが生まれています。
 第4は、こうした機運を支える障害者施策の変化です。障害者=弱者=福祉というとらえ方から、障害者=生活者=政府・政治総体といった方向への転換です。障害者基本法や障害者プランの誕生は、その象徴といえましょう。
 第5は、障害者行政の地方分権化の進行です。自立と社会参加の実現は、身近な市町村でという方向は、社会福祉総体の動きもあり加速されています。「地方障害者計画」の制度化や「福祉のまちづくり条例」のひろがりは、その証左といえますが課題もあります。
 こうした変化は、いわば、障害者問題に関する啓蒙期、基盤づくりがようやく終わり、いよいよ本格的施策の整備期に入ろうとしているといえましょう。「障害者プラン」こそ、その本格的整備の核となるものです。

「障害者プラン」は、福祉の「物差し」

 「障害者プラン」(ノーマライゼーション7か年戦略・1995年12月)は、「障害者対策に関する新長期計画」(全員参加の社会づくりを目指して・95年3月)の重点施策に関する年次計画(平成8~14年度)として政府・障害者施策推進本部が策定したものです。
 平成9年度予算は、障害者プラン推進の第2年次にあたりますので、この機会に若干の所見を述べてみましょう。
 障害者プランには、「7つの視点」という施策の目標があります。

(1) 地域で生活するために
(2) 社会的自立を促進するために
(3) バリアフリー化を促進するために
(4) 生活の質(QOL)の向上を目指して
(5) 安全な暮らしを確保するために
(6) 心のバリアを取り除くために
(7) 我が国にふさわしい国際協力・国際交流を

 これら7つの視点は、「全人間的復権を目指すリハビリテーション理念」と「障害者が障害のない者と同等に生活し、活動する社会を目指すノーマライゼーション理念」にもとづく障害者施策の方向として大切なものですが、同時にそれは、一人ひとりの障害者の今の暮らしを点検・評価する「物差し」でもあります。わたしたちは、この「7つの物差し」で障害者の家庭や施設、地域社会での生活の実態を点検してみる必要があります。
 広範多岐にわたる障害者施策ですが、そのポイントは、次の4点です。
 第1は、精神、身体並びに感覚の損傷、低下を防ぐための「予防」施策。
 第2は、障害をもつ人々の可能性を活かし自立生活力、社会生活力を回復、向上させるための「リハビリテーション」施策。
 第3は、自立生活力、社会生活力をもつ障害者の参加と平等を可能とする「機会の均等化」施策。
 第4は、障害者がニーズを充足し、生活力を向上するために各種施策を活用し得るよう相談、支援、補完し、障害者の人間らしい生活を総合的に推進する「福祉」施策。
 この「4つのポイント」から「障害者プラン」関連予算も点検・評価することが肝要です。
 なお、平成9年度障害者プラン関係の厚生省予算は、総額2246億円、前年度比10.9%増と厳しい財政状況の中でかなりの前進をみせていますが、なお、障害者プランは緒についたばかりであり、多くの課題が残されています。

「点」から「面」への展開を

 障害者プランを推しすすめるにあたって、課題は4つ掲げられます。第1は、各種施策の量的不足という問題です。プランの重点施策の目標値に向けての努力にもかかわらず、いずれも「点」の段階にとどまっています。1事業当たりの助成額も数量も不十分なものが多くみられます。
 第2は、プランの重要な施策が、制度的に新しいこともあって市区町村当局が消化不良の状態となっています。今後は、全国3250市区町村責任者へのアプローチの工夫、徹底とマニュアルの作成、モデル地区の指定などによる行財政的リーダーシップの確立が求められています。何よりも急がれるのは「市区町村障害者計画」の策定促進で、それが「点」から「面」へのキーポイントとなるでしょう。
 第3は、プランの重点施策目標をも含めて、障害者施策(在宅、施設、福祉用具、情報等)の実情の再点検と内容改善が求められています。特に、専門従事者等のマンパワー問題への取り組みが期待されています。
 第4は、こうした計画の策定、まちづくりの推進にあたって「障害者」ないし「障害者団体」の参加をできるだけ実現することです。それだけの力量をもつ障害者や団体が増えています。

終わりに

 障害者プランの推進は、行政サイドの努力のみに依存してはなりません。障害者関係団体及び専門職団体等もまた相協力して、必要な問題提起とソーシャルアクションに取り組む必要があるでしょう。

(いたやまけんじ 日本障害者リハビリテーション協会副会長・本誌編集委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年5月号(第17巻 通巻190号)10頁~12頁