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列島縦断ネットワーキング

北海道・成人式を迎えた札幌いちご会

松田哲征

 「札幌いちご会」は1977年1月15日、脳性マヒの障害をもつ小山内美智子、沢口京子が、当時計画が進められていた北海道立福祉村の構想に、親たちばかりが発言し、入所する予定の自分たちの意見が取り入れられないのはおかしいと、養護学校時代の同級生らに呼びかけて集まった「みんなで福祉村への希望を語り合う会」がきっかけとなり、発足しました。
 「自分で買って、自分で作って、自分で食べた」、これは障害をもっている人が、福祉村において個室で生活するのは無理という行政の考えに対して、個室で暮らすことができることを実証するため、札幌いちご会が1977年に行った合宿の際に生まれた言葉です。
 この20年はまさに「自分で買って、自分で作って、自分で食べた」生活を実現させるために運動をし、さまざまな活動を展開してきた20年でした。
 このたび、札幌いちご会では設立20周年を記念し、さる2月8、9日の両日にわたり、20周年記念事業を開催しました。
 2月8日は「心のバリアフリー社会をめざして―障害をもつ人のケアをハード面、ソフト面から考える」と題し、講演とシンポジウムが行われました(写真1 略)。
 第1部は放送大学教授の三ツ木任一さんによる基調講演で、「自立生活センターによるケアサービスの意義」をテーマに、障害をもつ人自身が中心となって、全国各地で活動を展開している自立生活センターが、いかに利用者のニーズを尊重し、柔軟に対応したケアサービスを提供しているかという点で、高く評価されるかということ、「自立生活センター立川」がホームヘルパー養成研修事業(2級課程)の委託を立川市(東京都)から受け、実施していることなど、自立生活センターが障害をもった人が地域で暮らしていく上で大きな力になっていることなどを話されました。
 第2部のシンポジウムでは札幌いちご会の運動により、1986年に実現した道営ケア付き住宅に入居し、現在、人工呼吸器を使用しながら生活している筋ジストロフィーの障害をもつ鹿野靖明さんが話をしました。鹿野さんは、たんの吸引などの医療行為的ケアはヘルパーでは行えないため、ボランティアに頼らざるを得ない現状の中で、医療行為的ケアをどう保障するか、という課題を自分の生活の様子をスライドを使いながら紹介しました(写真2 略)。
 日本大学理工学部建築学科教授の野村歓さんは、スウェーデンに始まったケア付き住宅運動は、1つの棟に集団で住むことはおかしいという考え方から、障害者が生活しやすい構造の住宅ができ、きめ細かいサービスを提供するホームヘルパーの体制がとれるのであれば、ケア付き住宅に住む必要はないのではないかという考え方に変わってきており、人口規模がほぼ等しいデンマークと兵庫県の在宅ケアの比較を紹介され、デンマークのホームヘルパーの人数は兵庫県の15倍であり、税金が高くても、地域で障害をもつ人が安心して生活していくためのマンパワーを保障するための合意が国民の中でとれていると話されました。
 札幌いちご会の発足時からの支援者である西村秀夫さんは、札幌いちご会は生かされていた障害をもった人たちが、自ら生きていくために活動をしてきたということ。最初から運動をしようとして始まったものではなく、自分たちでボランティアの協力を得て、生活を共に作り上げていくことが運動になったということを話されました。
 札幌いちご会会長である小山内美智子からは、介護の専門家が教えるだけではなく、障害者自身が先生となり、ホームヘルパーや障害者、高齢者を介護する家族、ボランティア等に対し、自らの経験をもとに、障害者、高齢者のケアのノウハウを伝えていくための「ケア塾」(仮称)の開設を近い将来、札幌市内において目指しているということが発表されました。
 会場には小山内が若い頃、子育てをしている姿をテレビで見て、大きな影響を与えられたという同じ脳性マヒの障害をもつ木村浩子さんが遠く沖縄(「土の家」経営)から参加されており、急きょ壇上に上がってもらい、発言をいたただきました。
 9日は札幌グランドホテルにおいて、200名を超える参加者が集まり、「札幌いちご会20周年記念パーティー&黒岩静枝チャリティーコンサート」が開かれました。北星学園大学学長の土橋信男さんのお祝いの言葉、元参議院議員の堀利和さんの音頭による乾杯の後、札幌在住のジャズシンガー黒岩静枝さんを中心に、知的障害をもつ人たちの授産施設である「栗山ハロー学園」のハローブラザーズによる演奏、いちご会で点訳ボランティアを行ってくださっている、視覚障害をもつ大泉昭男さんのオカリナ演奏、そして札幌いちご会の小規模作業所「フルハウス」の若いメンバーが黒岩さんと共演し、大いに盛り上がりました(写真3 略)。
 なお、札幌いちご会の20年の活動をまとめた記録の他、浅野史郎宮城県知事と小山内の対談、一番ヶ瀬康子さん、三ツ木任一さん、野村歓さんらによる座談会などを収めた『札幌いちご会20周年記念誌―生きる手ごたえ』がこのたび出版されました。
 購読を希望される方は定価1000円(送料別)で、札幌いちご会までお申し込みください。

(まつだてつまさ 札幌いちご会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年5月号(第17巻 通巻190号)60頁~62頁