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列島縦断ネットワーキング

滋賀・シンポジウム・障害のある人たちの権利擁護を考える

―サングループ事件の問題を中心にして―

北岡賢剛

 昨今、障害のある人たちの権利擁護に関する議論が盛んになってきました。その背景には、障害のある人たちが巻き込まれるさまざまな人権に関する事件が多発してきたことがあるのはもちろんのことです。滋賀県でも、いわゆる「サングループ事件問題」が起きました。このレポートはその事件を受けて、県内福祉関係者が、事件を検証する意味でシンポジウムを開いた背景と、その内容の要旨をお伝えすることを目的にしています。
 まず、どういう事件であったのかを、シンポジウムのおさそいの抜粋から紹介します。
 「滋賀県神崎郡五個荘町の肩パット加工業者が、知的障害者多数を雇用し過去13年以上にわたり、虐待と預貯金、年金の横領をかぎりなく重ねていましたが、漸くにして、平成8年5月15日に逮捕されました。従業員の死亡、蒸発した者、体罰、貯金横領、年金着服と担保利用、障害者を利用したサラ金からの借入れ、等々があり、さらに、従業員に手錠を掛け足枷までも使い、あるいは、寝袋に入れてガムテープで縛る等等、言語を絶する虐待行為と劣悪な工場環境がありました。環境からのストレスによる拒食過食の繰り返しで、ついには痩せ衰えて栄養失調になり適切な医療介護もなく、死に至った人たちもおられます。具体的な被害は次の通りです。
 死亡者4名、蒸発者3名、栄養失調者2名、サラ金利用者3名、貯金年金横領被害者16名(ただし、調査委任状提出者のみ)、虐待全員」。
 これらの事件を受け、滋賀県では「事件の内容を明らかにする必要がある」という見地から、「滋賀県手をつなぐ育成会」、「滋賀県児童成人福祉施設連絡協議会」、「滋賀県知的ハンディをもつ人の福祉協会」の共同主催で、昨年11月2日(土)、大津市滋賀ビル9階において、シンポジウムを開催しました。シンポジストは5名で、その発言内容を紹介します。
 サングループ事件被害者の会会員で、我が子を10か月の就労で不審死で亡くされた木村和子さんは、「会社で働く同僚たちが時々集まって、今度は誰が殺される番やろというような不安な状況の中で生活をしていたようです。真にこの事件を知って二度とこのような事件が起こらないことを心から願うばかりです」と述べられました。
 世話人の代表である小迫弘義さんからは、この事件の被害の実態や取り組み概要の報告がありました。特に、「被害者の親たちは、出身施設や市町の福祉課、県障害福祉課、手をつなぐ育成会、法務局、人権擁護委員会の集会、労働基準監督署、職業安定所、県社会福祉協議会などに相談に行きましたが、すべて団体の支援はなされませんでした」という報告は、誰もがやりきれない思いとなりました。
 弁護士の田中幹夫さんは、「高齢者や障害者を含め、自らの力で権利が守れない人々のための権利擁護システムを作らなければならない。ただ、その作り方は、市民レベルで、どうしたら本当に権利が守れるかということの理念と方法を積み上げなければならない」と、市民として福祉の土壌を育てていくことの肝要さを指摘されました。
 滋賀県の障害福祉課長の吉岡てつをさんは、事件が起きた背景を、「1点目は、障害者の権利擁護を総合的に取り組んでいく組織がなかったこと、2点目は、多くの機関が連携をし、より迅速かつ円滑に対応していくためのネットワークがなかった。3点目は、福祉施設や職業安定行政サイドにおいてフォローアップが十分にできていなかった。4点目はいわゆる初動体制における問題を上げ、さまざまな情報が部分的にはあったが、個人としての情報にとどまり、組織の情報として共有化されていなかった」と4点に整理しました。
 そしてその対応策として、「まず、権利擁護相談室の設置を行い、権利擁護110番を開設し電話相談や巡回相談などを実施します。2点目は、関係する国県市の行政機関や市民団体からなる『障害者権利擁護連絡協議会』を設置します。3点目は、2つの職業安定所に障害者職業巡回相談員を配置することと、県立施設に退所後のフォローアップ体制を確立します」と制度化することを報告されました。
 全日本手をつなぐ育成会常務理事の松友了さんは、きちんとした受け皿を早急にかつ大量に用意していくことを指摘し、「まず、『自分の身は自分で守る』という、セルフ・アドボケイト(Self-Advocate)といった知的障害がある人自身が自らを守り、主張し、戦えるように、彼らにチャンスと経験を保障しなければなりません。本人自らが、障害と状況を理解し、受け止めて発言できる場と機会を、そのための本人活動の場を、まず与えてほしい。2点目は、育成会こそ強力な支援者になれるように、我が子を守っていくという団体になっていきたいと思う。『親こそ最強の権利の擁護者』であるべきだと思う」と述べられました。
 このシンポジウムを通じて、私たちは多くのことを考えさせられました。それは権利擁護機関とそのシステムの必要性です。そして、いくらそれらのシステムが用意されても、市民としての「人権感覚」やその「力量」が同時に問われてくるのではないかと思います。
 被害者の会は、事件の概要、関係者のコメント、資料等をとりまとめた冊子を発行しました。その題名は『こころよ』とあります。まさにこれからは、心の時代なのかも知れません。参加した多くの人たちは、事件の深刻さはもちろんのこと、共に育ち合う社会の構築に努めていこうと、あらためて誓い、シンポジウムを終了しました。
 最後に、今回の事件で亡くなった方のご冥福をお祈りしたいと思います。

(きたおかけんごう シンポジウム開催事務局、信楽青年寮)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年6月号(第17巻 通巻191号)57頁~59頁