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特集/これからの障害者運動

これからの障害者運動に一言

新しい障害者運動の視点

菅井邦明

障害者運動に主体的に参加する障害者を育てる教育条件を整えること

 日本の戦後の障害者運動は、両親の声を専門家・行政職員・政治家が支えるかたちで諸問題を解決してきた。しかし、近年のノーマライゼーションを目指した潮流では、地域福祉と当事者参加型の理念が追求され、障害者本人による自己意志決定が叫ばれている。このような社会の流れの中で、障害者運動の中心が両親主導型から、障害者本人主導型になっていくと思われる。そこで、このような時期に、障害者が自己表現し、自己意志を形成し、自己実現し、障害者運動の主役になるための教育条件を考える必要があると思う。障害児に限らず、すべての子どもが自己表現し、自分の思っていることを論理的に話し、対話できる人間になるには、本人の感じたこと、思いを十分聞き、それをもとに対話し、議論する大人の態度が不可欠の条件である。また障害児だからといって、本人の意志を十分聞かずに、援助・介助するような子育ての仕方を変えていかないと、一人で生きていく心が育ちにくい。マザコン、過保護、障害者の自立を阻むのは親だ、等の言葉に我々大人は十分耳を傾け、反省する必要があると思われる。

すべての国民と連携できるネットワーク構築と障害者運動・団体の役割

 日本は、旧来の地域共同体が崩壊に向かい、広い意味の個人主義に移行し、障害者が地域で生きる時代になりつつある。この場合、新しい形の助け合い、ボランティア等による障害者個人のニーズに対応した機能的ネットワークの形成が必要になる。各種障害者組織団体―非組織、官―民、障害別、地方―都市、専門―非専門的知識・技術を超えたネットワークの構築が、新しい人間関係の形成に寄与していくであろう。このようなネットワークは、特定の障害者団体に所属する障害者や両親ばかりでなく、いろいろな情報や技術等をもった全国民の参加が期待できるネットワークであり、従来の各種障害者団体という閉じられた枠を超え、障害のない人々も参加できる開かれたネットワークが構築できる運動を目指すことになる。
 現在、私たちの研究グループでは、「広域高速ネットワークによる情報弱者への支援に関する研究」を行っている。テレビ電話で研究室と日本各地7か所の遠隔地を結んでいる。その中で、既存の病院、福祉関連施設、児童相談所、障害者団体等が、各種障害状況におかれている人を支援できる状況にないことに驚いている。遠隔地はもちろん、都市でも相談・支援に対する不満が多い。つまり、相談や支援の質の変革が問われている。従来の障害者団体や運動が、このような全国の諸問題にどれだけ柔軟に対応しているのだろうか。障害者自身・両親・専門家等の生きるための膨大な経験と知識を、新しいマルチメディアを利用して、家庭や個人支援に役立てる運動や研究も必要ではないだろうか。

(すがいくにあき 東北大学教育学部教授)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年10月号(第17巻 通巻195号)20頁