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特集/地域での暮らしを支える相談員

身体障害者相談員日誌

戸井田愛子

 私が相談員を受けたのは昭和60年でした。数多くの相談の中で今でも心に残っている2件の事例をお話したいと思います。

 事例1 Y(男性)41歳。筋ジストロフィー。

 Yさんの相談は性の悩みでした。両親・姉夫婦との5人家族です。夜になると夫婦の性の営みが気になり自分の体がおかしくなる、それに堪えるのが辛いと話されました。私は、男性から性的相談を受けるとは考えもしていませんでしたから、最初の電話の時には戸惑い生返事をしていました。これではいけないと障害になる前の話も聞きました。Yさんには好きな女性もいて、性交渉の経験もありました。
 何度か電話で話しているうちに、日中は身の回りの世話をしてくれる姉が義兄が帰ってくるとそちらに行ってしまう。そんな義兄に嫉妬しながら今の自分がどうしてよいのかわからず苦しむYさんに、時には話の内容を他の話題にきりかえながら、幾度か話し合いました。私も男性の性的苦しみはわかりません。それだけに、どう答えればよいのか私自身が本当に悩みました。その結果、Yさんに現実をみつめ、人のために何ができるかを考え、障害をもつ仲間と頑張り、性的欲望に襲われたら素直に受け止めればよいのではないかと助言しました。半年位たったある日、久しぶりに逢ったYさんが「あの時はありがとう、もう大丈夫」と笑顔で言われました。そのYさんも45歳という若さで障害者の仲間たちから惜しまれながら人生の幕を下ろしました。重度障害者の自立とともに性の問題はこれからの大きな課題であると思います。

 事例2 M(男性)35歳。精神障害者。

 Mさんは母と弟の3人暮らしです。大学を卒業してあるコンピュータ関係の会社に勤務するまでは普通の若者でした。仕事の難しさと人間関係に疲れて心を閉ざしてしまいました。地域作業所に通所するようになり、Kさんを通して身障協会に入会。行事等に参加して徐々に心を開いてきた頃、私のところへ夜7時になると電話がかかってきます。内容は仲間や指導員の話ですが、5か月間、毎晩定期便のようにかかってきました。職場の人たちとレベルが違うと仕事への意欲をなくしかけていたので説得し励ますうち、Mさんは私に恋心を抱くようになり、訳のわからぬことを言い始めました。母親を交えて話し合いました。この時、「わかった自分は死ぬ、生きているのが嫌だ」と大声を出して騒ぎ、母親の希望で仕事も身障協会もやめてしばらく様子をみることになりました。それからのMさんは、私が参加する行事にどこで聞くのか先回りをして待っているようになり、これには私の友人たちも驚き、何かあったら大変と私を配慮してくれ、私も見て見ぬふりをして自然に遠退いていくのを待ちました。その後、病院に入院したと母親から連絡がありましたが、1年後、回復もしないまま若い命は消えていきました。弟のような気持ちで接していたのが恋心を抱かれる原因となり、私自身大変なショックでした。
 女性の相談員として、異性からの相談の難しさを痛感しました。これからもいろいろと壁にぶつかるでしょうが頑張っていきたいと思います。

(といだあいこ 神奈川県身体障害者福祉相談員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年11月号(第17巻 通巻196号)12頁