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特集/地域での暮らしを支える相談員

精神薄弱者相談員日誌

小西英玄

 事例 自殺未遂

 33歳男性。療育手帳B。現在両親と3人暮らし。高等養護学校卒業後一般企業に就職。兄弟2人いるがどちらも軽度の知的障害者。
 父親が病気入院中、病気の状態がだんだん悪くなり、お見舞いに行った後自分で手首を切り駐車場でうずくまっているのを保護、救急病院に運ばれる。外傷は軽度、しかし精神的なショックで、精神科の病院に転送。母親(軽度の知的障害あり)に連絡がつかず、困っているとの連絡を精神病院の主任指導員よりあり。地域の会員、地域の民生委員の方に母親との連絡を依頼。市福祉担当職員2名と本人の自宅から病院へ向かう。母親とも連絡がとれ病院で合流。以前にも数回自殺未遂の経験あり。本人と母親、医者、福祉担当職員とで話し合い、本人も状態が安定してきたので帰宅。その後、医療機関、福祉機関と今後の対応について打ち合わせ。

 この事例については、関係機関との連携で比較的早く対応できましたが、それ以外に駅前の駐輪場の管理人に注意されたため出社拒否をした事例、交通機関の運転手に注意されたため、バスに乗るのが怖くて会社を辞めてしまい、再就職を斡旋した事例など数多くあります。
 先の自殺未遂に関しては、障害者を十分理解したスタッフがかかわり今後の経過観察となりましたが、それ以外は知的障害者を十分に理解していない市民とのかかわりのため、周囲の理解を求め改善する以前に障害者本人が現状に合わせ、適応するような結果になっています。
 全国で約5000人が活動している精神薄弱者相談員は、原則として精神薄弱者を育てた経験があり更生自立に成功した保護者が優先とされ、その地域の実情に精通している人が好ましいとされています。専門的な相談指導、施設入所などの措置を必要とする事例はすみやかに業務を主管する福祉事務所、精神薄弱者更生相談所または児童相談所の職員の手に委ねるなどの適切な処置をとることとされていますが、現状は大変厳しいものを痛感します。
 施設福祉から地域福祉への転換期にあり、入所施設から出て街で暮らそう、親の高齢化、障害者本人の老齢化、重度重複化など、以前にはない福祉サイクルが生まれつつあります。
 15万人都市に1か所、全国で約690か所設置予定の生活支援センターの機能を十分に生かし、市町村障害者生活支援センターを中心に利用者(障害者)と相談サービス部門のトライアングル、利用者(障害者)と権利擁護機関とのトライアングル、利用者(障害者)と行政とのトライアングルが必要となってきます。
 そして、その潤滑油的な存在が、全国で活動している約5000人の精神薄弱者相談員ではないかと考えています。
 障害者を育てた経験を基に。

(こにしひではる 奈良県精神薄弱者相談員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年11月号(第17巻 通巻196号)18頁