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特集/地域での暮らしを支える相談員

北九州市における新たな相談システムの模索について

柳沢 享

はじめに

 北九州市では平成7年12月の「障害者プラン」を受け、平成8年4月に、全国に先駆けた形で「北九州市障害者施策推進基本計画」が出されました。また、同年11月には、実施計画が発表され具体的な数値目標が示され、今後10年間に当市が取り組もうとする社会的サービスの全容が明らかになると同時に、近年まれに見るスピーディーな進捗を見ることとなりました。
 基本計画の柱は、障害の程度にかかわらず、誰もが住み慣れた地域で生活が可能となるシステムづくりを主眼にして、その具現化の1つとして相談窓口とコーディネート機能を合わせ持つ「障害者支援センター」の設置や障害の程度にかかわらず誰もが通えると同時にナイトケアや家族支援をも試みる「(仮称)地域活動センター」の設置が計画されています。
 今回は、社会福祉法人北九州市手をつなぐ育成会が平成8年10月より委託を受け活動を開始している「障害者支援センターレッツ」の活動内容と相談傾向を以下にあげてみたいと思います。

障害者支援センターの設置コンセプト

①官・民が協力してケアプランの作成及び実施を図る。
 
②相談者の立場に立ち、きめ細かな配慮を前提とした相談窓口を心がける。
 
③福祉事務所をはじめ各団体、施設、学校などが有機的かつ横断的な協力体制をもてるように働きかける。
 
④本人活動やボランティア活動の拠点としてバックアップを図る。

図 官・民が一体となった協力体制をもつためのフローチャート
図 官・民が一体となった協力体制をもつためのフローチャート

スタッフ

 スタッフは、所長をはじめ、コーディネーター、ソーシャルワーカーが各1名、主任を含めた相談員が6名と庶務が1名で、計10名が地域別に7か所の保健福祉センター(福祉事務所)担当者と打ち合わせをしながら、相談者のニーズにそってショートステイやその他のサービスの提供や調整を図っています。

支援センターレッツの活動と相談傾向

 本来は障害種別にかかわらず、相談を受けなくてはならないのですが、受託している団体が「北九州市手をつなぐ育成会」であるために相談者の主体は、知的な障害のある方やそのご家族です。
 相談内容の主な傾向としては、

①重複障害(知的+精神)(知的+聴覚)や強度行動障害のある人の受け皿がない。
 
②普通学校を卒業したが、障害の認知が困難(本人のみ、親子とも)で、社会的適応ができずに反社会的な行動を繰り返すことが多い。
 
③就労したが、定着できずに失業するが、社会福祉施設などは賃金が出ない(出ても僅か)ことで拒否をして在宅。
 
④思春期前後にそれまで素直だった人が、豹変し精神科入院。その後社会復帰が図れない。
 
⑤援護者(特に母親)が突然、何らかの事態で援護できなくなり、ショートステイを利用することになるが、そこでの対応も限界がある。ほとんどの場合、早急な対策が急務であり、よって、本人の生活能力や障害の程度にかかわらず、入所施設を選択せざるを得ない。
 
⑥学校の長期休暇(夏休み、冬休み)は、家族にとっても本人にとってもフラストレーショントレランスが図れず、場合によっては、最悪の事態が予想される。

などが主な相談傾向です。なかでも⑤は、ほぼ相談者すべてが同様の傾向であると同時に相談の割合を大きく占めています。その要因としては、家族、福祉関係者の多くが地域で暮らすための社会的サービスの絶対的な不足は当然のこととしながらも、僅かな在宅サービスをどのように利用すべきかさえ知るよしもなく、入所施設を絶対的な選択肢として考えていることは、周知のことではないでしょうか。
 そのことは福祉にかかわっている方一人ひとりがご自分の自己の人生と比較しながらぜひ、考えていただきたいことだと切に感じています。

おわりに

 障害者プランでは平成9年度だけでも約1400人分の入所施設の新規増設が予定されています。確かに現状の福祉施策では入所施設に委ねざるを得ない状況もあるでしょう。
 ここ最近、地域活動や生活にこだわり続ける方々が徐々にではあるにせよ増えつつあります。
 当センターはその方々への声援と微力ながらのお手伝いを通じて、データ上には表れない本音のニーズを集約していくと同時に、効果ある発信をしていかなければと心新たにしているところです。

(やなぎさわとおる 障害者支援センターレッツ)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年11月号(第17巻 通巻196号)23頁・24頁