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1000字提言

『障害者』とは

堀内生太郎

 どこの世界にも、その世界特有の言葉があり、その言葉を知るか知らないかでプロかアマチュアかを見分けることが多い。福祉の世界にも、一般市民が聞いたら何のことか分からない言葉がかなりある。出所は福祉関係の法令に由来するところが多いのだが、さしずめ『措置費』などという言葉は、理解に苦しむ人が多いに違いない。
 恥ずかしい話だが、私自身、数年前に現職に就くまで『社協』という単語を知らなかった。当然のことながら、社会福祉協議会の存在も記憶になかった。私が使っているワープロは、「しゃきょう」と入力すると「写経」としか変換されないが、その辺りが一般的な常識というものであろう。
 話は変わるが、日頃なにげなく使っている言葉で、よく考えてみると正確な意味を知らずに乱用していることがある。
 例えば『社会福祉』という言葉だが、これを正確に分かりやすく説明することは非常に難しい。
 最近は福祉関係者の海外交流が盛んで、日本との比較で議論されることが多くなっている。古川孝順東洋大学教授はその著書(文献)で、「イギリスやアメリカとわが国とでは社会福祉の概念内容は同一でない」と書いておられるが、『社会福祉』の国際比較に際しては、心すべき点であろう。
 ところで、『社会福祉』と異なり『障害者』の定義の方が簡単明瞭だと思われがちであるが、これも国際的に統一された定義と、それに基づく統計はなさそうである。
 わが国は諸外国に比べて、障害者の定義が厳しいといわれる。なぜならば、わが国で『障害者』とは、一般に法令で定められ、何らかの形で行政の支援を受けることができる障害をもつ人を指すことが多いからだそうだ。
 これに対し諸外国では、行政の支援を受ける、受けないにかかわらず、実質的に障害があればすなわち『障害者』であるという。
 WHO(世界保健機関)の国際疾病分類は今日わが国を始め多くの国で採用されているが、この障害版である国際障害分類を決定すべくWHOの専門家会議が来春、日本で開催されようとしている。
 「国連・障害者の十年」に引き続いて行われている「アジア太平洋障害者の十年」キャンペーンなど、障害者福祉活動の国際的な連携が強まる中で、WHOの国際障害分類の早期実現を目指す関係者の努力に期待したい。

(ほりうちせいたろう 財団法人安田火災記念財団専務理事)

参考文献 略


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年11月号(第17巻 通巻196号)29頁