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特集/もう1つのオリンピック 日本の3月、パラリンピック。

長野パラリンピックにかける

樋口太郎

 アジアで初めて開催されるパラリンピック冬季大会である長野パラリンピックの開幕まであと百日余りとなりました。世界トップレベルの競技者が長野に集って繰り広げる障害者スポーツの祭典が刻々と近づいています。

史上最大規模の冬季大会に

 長野は今、目の前に迫った大会の開催に向けて、最後の準備に追われています。感動の炎を運ぶ聖火リレーの走者が決定され、大会の幕開けを告げる開会式の概要も発表されるなど、大会に向けた気運も徐々に盛り上がってきています。
 ホスト国となる日本の代表選手も先頃発表され、日本身体障害者スポーツ協会を中心に、長野でのメダル獲得を目指して、海外遠征を始め、懸命に選手強化が進められています。
 パラリンピックの冬季大会は、1976年にスウェーデンのエルニスケルドスヴィングで初めて開かれました。92年のフランスのアルベールヴィル大会からは五輪と同じ都市で開催されており、長野大会は7回目となります。五輪に比べると歴史は浅いのですが、最近では競技のレベルも上がり、「もうひとつのオリンピック」と言われています。
 長野パラリンピックは、来年の3月5日から14日までの10日間、長野市でアイススレッジスピードレースとアイススレッジホッケー、山ノ内町志賀高原でアルペンスキー、白馬村でクロスカントリースキー、野沢温泉村でバイアスロンの5競技34種目が、五輪で使用した施設を利用して行われます。第2次エントリーでは、31か国約1200人の選手・役員の参加が予定されており、冬季大会としては、史上初めて1000人を超える大規模な大会となる見通しです。特に、今大会では肢体障害や視覚障害の選手に加え、クロスカントリースキーで知的障害者も正式参加することになっています。

「ふれあいと感動」を目指して

 日本ではまだ、障害者のスポーツがリハビリの一環として受け止められることも多いのですが、パラリンピックに出場する選手は厳しい練習を重ね、ハイレベルの競技を展開します。目の前で実際に世界最高レベルのスピードと技を見ていただければ、障害のある人もない人も、すべての人の心に新たな勇気と感動が沸き起こってくることでしょう。
 長野パラリンピックの大会テーマは「ふれあいと感動」です。世界中から集う選手たちが存分に力を発揮し、観客の皆さんには競技を見て、応援をしてもらうことによって、多くの人々の間にふれあいと感動の輪が広がっていくことを願っています。そのためにも、大勢の方々に会場に足を運んで競技を観戦していただき、選手にも最高の競技条件を提供できるよう努力したいと考えています。

素晴らしさを伝えたい

 大会の準備は順調に進んでいます。競技運営については、今年の2月にクロスカントリースキーとバイアスロン、3月にアイススレッジの前大会を開いて経験を積み、世界各国から高い評価を得ています。選手の輸送についても、東京都をはじめ、国内各地からリフト付きや低床式バスを借りるなど万全の対応をとることにしています。
 障害のある観戦者の方々に対しては、輸送手段など、きめ細かな配慮をしなければなりません。会場以外でもスムーズに過ごしていただけるように、行政や公共交通機関など多くの皆さんの協力もお願いしているところです。
 一番の課題であった大会のPRも、マスコミ関係者をはじめ、多くの方々のご協力により、徐々に盛り上がってきています。組織委員会の公式ホームページには、各界著名人や一般の方々から、力強い応援メッセージが多数寄せられており、長野パラリンピックが着実に人々の間に浸透しつつある確かな手応えを感じています。
 しかしながら、パラリンピックは五輪の陰に隠れがちなのが現実です。多くの方々にパラリンピックを知って、観戦していただくために、引き続き、積極的なPR活動を行っていきたいと思っています。単に大会の開催をアピールするだけでなく、大会の目的や意義を訴え、パラリンピックの素晴らしさを伝えたいと考えています。

大会の成功に向けて

 大会を成功に導く大きな鍵として、大会の運営をお手伝いいただく多くのボランティアの方々の存在があります。前回のリレハンメル大会では、ボランティアの温かな笑顔と応対に高い評価と称賛が与えられました。長野大会でも、選手団車両の運転や競技会場での観客誘導など、ボランティアの皆さんにあらゆる場面で大会を支えていただくことになりますので、皆さんの力を存分に発揮してもらえるような体制づくりを進めています。長野パラリンピックでの活躍は、大会の成功につながるだけでなく、ボランティア活動が日本においても根づいていく好機となってくれることでしょう。
 今の日本では、障害者や高齢者が気軽に出かけるということが難しい状況です。パラリンピックで大勢の障害者を長野に迎え、街で一緒に生活したり、最大限の可能性を求めて競技に臨む選手たちの姿を見ることで、高齢化社会や21世紀に向けてだれもが幸せに暮らせる社会をつくるにはどうすればいいかを考える契機となってほしいと願っています。
 4年に1度、世界各国の障害者スポーツ選手の代表が集う、そして20世紀最後に開催される「長野パラリンピック冬季競技大会」の成功は、組織委員会が関係団体や一般の方々と一体となって、いかにこの大会を盛り上げられるかにかかっています。
 大会開催まで残された時間はわずかとなってきましたが、素晴らしい大会となるよう、多くの方々の温かいご支援とご協力をお願いします。

(ひぐちたろう (財)長野パラリンピック冬季競技大会組織委員会事務総長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年12月号(第17巻 通巻197号)8頁~10頁