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特集/21世紀の施設像

施設制度・施設体系の現状と課題

―見直しにあたっての基本視点―

藤井克徳

1 成人期障害者を対象とした施設制度・施設体系の現状

(1)あまりにも過度な分類体系

 現行の障害者施設制度は、あまりにも複雑過ぎる。身体障害者福祉法ならびに精神薄弱者福祉法、精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律などを根拠法令としながら、成人期障害者を対象とした施設制度だけでも40種類近くにも及ぶ(資料参照)。
 制度の種類が多いだけではない。さまざまな観点によって、過度に分類されていることも複雑さを助長している。その内容を詳細に見ていくと、①障害種別による区分、②措置費方式(第1種社会福祉事業)か補助金方式(第2種社会福祉事業)、③通所型か入所型、④通過型か長期滞留型、⑤作業活動型か生活訓練型、などに分類されている。

(2)施設制度ごとに見る諸基準の特徴

 施設の種類によって、建築基準面積や職員配置基準に、かなりの開きがある。例えば、同じ通所型の授産施設であっても(定員20人の場合)、精神薄弱者授産施設と精神障害者授産施設とでは、支弁される公費は精神薄弱者授産施設のほうが2倍以上も多い。こうした支弁される公費と連動するかたちで、職員定数にも差異がある。また、施設整備(建設)にあたっての利用者1人当たりの建築基準面積についても同様で、身体障害者通所授産施設の23.0m2最も広く、次いで精神薄弱者通所授産施設と精神障害者通所授産施設の15.8m2、精神薄弱者通所更生施設の14.6m2となっている。
 こうした制度間の差異について、現時点に至っては合理的な説明がつきにくく、また施設制度の名目とは別に利用者の障害実態に明確な違いがなくなってきている。

2 現行施設制度の問題点

(1)量的側面に見る問題点

 現行の障害者施設をめぐる問題点としては、まず第1点目に量的な面での不十分さが挙げられる。とくに深刻なのは、絶対数が極端に不足していることである。例えば、地域生活と関連の深い通所型の授産施設について見ていくと、3障害合わせてその総数は942か所、定員は3万1943人に過ぎない。とても有効値とはいえない。この絶対数不足に追い打ちをかけているのが、地域偏在という問題である。現行施設制度すべてを合わせてもそれらが設置されている市区町村は38%(1222市区町村)でしかない。約3分の2の市町村が、法定施設ゼロ地域というのだから極めて深刻な状況にあるといってよかろう。
 量的な不足の背景には、「だれが設置を担うのか」ということが明確になっていないという問題がある。設置促進についての法的な根拠はなく、専ら民間と自治体の自主努力に委ねられているといって差し支えなかろう。
 このままでは、絶対数の充足ならびに地域偏在の解消は考えられにくい。

(2)対象者の制限

 第2点目として、各施設制度ごとに対象者を限定し過ぎていることが挙げられる。施設制度の大半は、障害種別ごとの利用を前提に成り立っている。また、通所型の授産施設や更生施設は、人的・物的条件などの面から基本的には重度の障害者を対象としたものではない(デイサービス事業など、一部の「事業」では重度障害者を対象としている)。
 こうした中にあって、障害種別を超えた共同利用がなされにくく、重複障害者はいずれの施設制度でも適合しづらく、脳血管障害などによる中途障害者や難病、アルコール依存などによる障害者に至っては、現行施設制度では事実上対象外にある。重度障害者を対象としている実例を見ると、各種施設制度を拡大解釈的に活用はしているものの、多くの場合かなり無理をしながらの運営となっている。

(3)手薄い公費の裏付け

 第3点目に、支弁される公費の不十分さが挙げられる。全体として障害者施設に支弁される公費は十分ではないが、とくに教育分野と比較するとその差は歴然たるものがある。同じ通学・通所タイプで、養護学校と精神薄弱者授産施設(通所型施設で最も公費が手厚い施設)を比べると、年間1人(児童・生徒・利用者)当たりの公費は、養護学校が4倍以上にもなっている。同程度の障害でありながら、卒業時を分岐点にこれほどまでの格差が生じてしまうのである。このことは、医療分野(精神病院など)との比較でも同様である。
 また、施設制度間の格差も見逃せない。全体的な傾向として入所型より通所型のほうが、また障害の種別では精神障害者関連制度に不十分さが目立つものとなっている。

(4)施設設立に伴う莫大な設置者負担

 第4点目に、施設設立に際して設置者負担があまりにも大きいことが挙げられる。社会福祉法人の取得を前提とし、そのための基本財産(土地など)の準備ならびに施設建築費の設置者負担分などを合わせると、莫大な資金(資産)を確保しなければならない。小規模作業所から授産施設などの法定施設への移行に際して、多額の借金を抱えることとなり、資金面で展望を見い出すことができず無認可の状態に甘んじているところが少なくない。

3 施設制度・施設体系の見直しにあたっての基本視点

 以上、現行施設制度を概観し、主にその問題点について言及してきた。制度疲労的な様相を呈している現行制度にあって、部分的もしくは一時的な修復ではどうにもならなくなってきている。「障害者プラン」という新たな道しるべが指し示された今、施設制度・施設体系についても本プランに込められた思想・理念に基づく斬新な視点での根本的な改革が図られなければならない。
 以下、改革にあたってとくに留意すべき基本視点について列挙する。

①施設体系の基本的枠組みについての改革(現行制度の統合・再編の断行)
②絶対数不足の解消ならびに適正配置の促進(法的根拠の明確化や設置者負担の解消を含む)
③措置費など運営に関する公的費用の改善(教育や医療分野との均衡化・平準化)
④障害種別にこだわらない共同利用・相互利用の促進
⑤重度障害者対象の通所型施設制度の創設
⑥精神障害者や脳血管障害・難病などによる中途障害者、アルコール・薬物依存等による障害者など、新たな障害群のニーズへの対応策

 こうした改革に際しては、障害者福祉に関する実体法の一本化、すなわち「障害者総合福祉法」の制定や知的障害者施策・精神障害者施策の実施体制を身体障害者施策と同様、市区町村に移管するなど、関連法制の見直しが不可欠となり、これらが並行して進められなければならない。

(ふじいかつのり 共同作業所全国連絡会常務理事、本誌編集委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年2月号(第18巻 通巻199号)10頁~12頁