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特集/21世紀の施設像

施設体系のあり方をさぐる

―知的障害関係施設―

玉井弘之

いま知的障害関係施設は

 知的障害者関係の福祉施策は、児童福祉法、精神薄弱者福祉法、社会福祉事業法など関係法令はもとより、障害者対策に関する新長期計画、これを受け平成7年末に発表された「障害者プラン」等々により、いわゆる行政主導型で福祉事業は展開している。
 平成7年9月、厚生省が実施した知的障害者基礎調査によると、在宅の人を約29万7000人と推計した。同じ時期、施設には11万6000人が入所しており、全国の知的障害者は約41万3000人となる。その在宅の人たちのなかで施設への入所希望は、8%(約2万4000人)となっている。
 児童福祉法には、精神薄弱児施設(第1種、第2種自閉症児施設を含む)と通園施設、重症心身障害児施設があり、精神薄弱者福祉法には、更生施設、授産施設と各通所施設、通勤寮及び福祉ホームがあり、それに補助事業として福祉工場やグループホームがある。また施設には、デイサービス、ショートステイ事業や療育等支援事業など多種にわたる選択肢が用意され、在宅障害者の援助活動を担っている。

知的障害関係施設における課題について

 まず、精神薄弱児施設においては、近年の少子化傾向が、あるいは学齢児の養護学校等就学の義務制、加えて施設が備える在宅福祉サービス事業や諸手当の給付など児童福祉施策の充実から入所対象児童は減少している。このため施設は、暫定定員の設定から定員改定を余儀なくされたり、重度・重複障害あるいは強度行動障害等をもつ児童が在所期間延長の特例を受けるなかで加齢化の傾向は止まらず、建物の老朽化とも相まって成人施設に転換せざるを得ないところもある。
 児童施設では、基本的生活習慣の育成、重度・重複障害、行動障害による心理、行動面にかかる療育、施設が生活の場・家庭的機能の充実、医療的援助、それに家族支援機能の充実を図るなど、本来の施設機能を発揮するとともに、在宅知的障害児の療育・生活支援などにも積極的に取り組んでいるが、これからの施設のあり方として施設の小規模・分散化、有期限・有目的の短期間利用等々についても検討を重ねている。また児童施設は、在宅支援機能、教育や医療分野での専門機能をもつ総合的・基幹的な施設、地域に密着した長・短期利用型施設といった施設体系が求められるなかで、いわゆる施設がもつ独自の「特徴」を活かしていくことも必要であろう。
 一方、児童通園施設については、厚生省の中央児童福祉審議会心身障害児(者)関係合同部会(平成6年当時)において、精神薄弱児通園施設、肢体不自由児通園施設及び難聴幼児通園施設のそれぞれが他の通園施設機能を付加することにより、身近な施設として障害区分に関係なく、また重複障害に対応する処遇体制の確立、早期に適切な療育・指導訓練を行うことができる、として3種別の通園施設を統合した障害児通園施設(仮称)について素案を示している。
 この構想について民間サイドでは、日本愛護協会のほか、全国肢体不自由児通園施設連絡協議会、難聴幼児通園施設連絡協議会等の代表で構成する3種別通園療育懇話会において「発達支援センター」として検討が続けられている。

成人施設について

 平成7年の基礎調査では、施設入所希望者を約2万4000人と推計し、障害者プランにおいて更生施設を1万人分整備するとしている。
 障害者福祉施策は「施設福祉から地域・在宅福祉へ」と流れは変わりつつあるなかで、これが一部にはノーマライゼーションの理念をも曲解し、更生施設は不要とする極端な議論までが飛び交う。日本愛護協会がまとめた「入所更生施設のあり方研究報告」では、施設を地域福祉施策の拠点として位置づけ、更生施設を必要とする人々を、①日常生活上、身辺処理が著しく困難な状態にある人、②行動障害あるいは適応能力が著しく低い人、③常時医療の管理を必要とする人、④保護者の高齢化や家庭環境等で養育困難な状況におかれている人、⑤レスパイトケアによるファミリーサポートなど一定の目的を求めている人、としている。
 知的障害関係施設には、リハビリテーションあるいはノーマライゼーションの理念に沿った内容が求められることは当然のことであり、知的障害者が地域で生活していくことを支援するという視点から、基本的には通過型施設として、また在宅福祉支援機能を兼ね備えた施設としてその役割を担うべきであろう。
 障害者プランでは、障害のある人々が社会の構成員として「地域で共に生活する」ために、住まいや働く場ないし活動の場の確保、あるいは施設サービスの充実として、重度障害者等の福祉、医療ニーズに的確に応えられるよう、地域的なバランスに配慮した施設の整備、生活の場として個室化の促進、加えてデイサービス、ショートステイなど施設の総合的利用の促進等が盛り込まれている。施設を地域福祉施策の拠点として機能させ、入所者や在宅障害者が利用しやすい施設とするためには、施設体系の見直しとともに、いま施設運営を拘束しているさまざまな基準の類をも変えていかなければならない。
 障害者の期待に応える施設であるためには、施設が地域のなかで如何に機能し、役割を果たすべきか。21世紀を目前に、措置制度そのもののあり方が問われている。施設運営にあたる民間施設サイドから積極的な議論が必要である。

施設のあり方について

 去る12月に、厚生省の身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会障害福祉部会、公衆衛生審議会精神保健福祉部会で構成する三審議会合同企画分科会は、「今後の障害保健福祉施策の在り方」について中間報告を示した。
 そのなかで、精神薄弱者援護施設については、①一定期限を限定して指導・訓練及び評価判定をすることを目的とする施設として明確に位置付ける。②重度・重複障害者、加齢により日常生活動作能力(ADL)が低下した知的障害者などに日常生活上の生活支援及び生きがい活動支援を目的とする生活施設の形態を創設する。③施設は、入所及び通所による利用が可能なものとすべきであると報告した。
 また、生活の場となるグループホームの利用要件を緩和することが望ましく、確実な収入が見込まれる場合には就労要件を撤廃すべきである。さらに通勤寮や福祉ホームにおいても、就労要件を撤廃し、入所者が日中の活動のため授産施設等へ通所できるように検討することなどが指摘されている。
 国の財政には厳しいものがあり、介護保険制度の導入をも視野に入れたであろう今回の中間報告に対し、行政サイドの充実した結論を早く得たいものである。
 こうした議論等が続くなか、昨年12月、福島県の白河育成園において暴力・虐待、大量の薬物投与などの人権侵害事件が告発された。施設運営という受け身の姿勢に偏った議論のなかで見落とされた部分があったのではないか。障害をもつ人々は施設に何を期待しているのか。障害者自身の意向を踏まえた福祉施策のあり方全体について見直す必要があろう。

(たまいひろゆき (財)日本精神薄弱者愛護協会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年2月号(第18巻 通巻199号)16頁~18頁