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特集/21世紀の施設像

施設体系のあり方をさぐる

―学校教育の立場から―

渡辺健治

1 はじめに

 最近の福祉領域の変化は教育領域の人間からみるとめざましい。それは一言でいえば、施設福祉から地域福祉への転換ということであろう。教育領域でも、公立の小学校や中学校ではまさしく学区という地域割での教育が行われている。しかし、障害児教育においては必ずしもそうではなく、盲学校や聾学校は県に1、2校であり、それよりは設置数の多い養護学校であっても小学校や中学校のようなわけにはいかない。地域での教育ということでは障害児・者の施設などと同じ問題を抱えているといえる。従って、教育領域における問題とからめながら施設体系、とりわけ児童福祉施設を中心にして考えてみたい。

2 障害児教育における教育改革問題

 ノーマライゼーションは教育の領域ではインテグレーション(統合教育)として論じられている。国際的にもインテグレーションは着実に進んでおり、1993年に国連総会で採択された「障害者の機会均等化に関する基準規則」の「6.教育」でもインテグレーションの方向が明確に示されている。また、1994年にユネスコとスペイン政府の共催で開かれた「特別なニーズ教育に関する世界大会」ではインクルージョンの原則が強調されている。インテグレーションが通常の学校と特殊学校・学級という分離を前提としているのに対し、インクルージョンは分離を前提とせず学校を一元化し、障害がある子もない子もすべて地域の学校で教育を受けるというものである。また、従来の特殊学校や学級に就学させることは例外であるべきとされている。
 周知のように、日本の文部省はインテグレーションを認めておらず、主に学校行事を中心とした小・中・高等学校と特殊学校・学級との学習活動の交流を推進しようとしている。また国は平成5年度より「通級による指導」を制度化し、実施した。この「通級による指導」で障害児が通常学級に在籍しているというのを公的に認めたことになり、その意義は大きい。
 インテグレーションの先進諸国と比較すると、日本の障害児教育とは大きな隔たりがあるのは否めない。しかし、教育改革への提言はさまざまになされている。例えば、養護学校などの「特殊学校」を地域の障害児教育へのサービスのための機能をもたせ、センター化すること、そして都道府県立から小・中学校と同じように区市町村立に移管すること、「特殊学校」や「特殊学級」に措置されていた子どもの学籍を地域の学校の同学年の学級に所属させ一元化すること、盲・聾・養護学校という障害種別ではなく、「特別学校」という名称の学校に一本化し、各種の障害にも対応する。いずれも、地域性や統合性を意識しての提言である。

3 現行の施設体系をどうみるか

 現在の施設体系を教育サイドからみてみると、就学前期では、家庭の事情や障害の重度・重症という問題もあろうが、できるだけ入所施設の利用は少ないほうがいい。施設にもよるが、現在の入所施設は専門家の配置などにより、療育等も充実してきているとみている。この時期の障害児には通園施設での療育が中心になるだろう。ただし、障害の種類によっても異なる。聴覚障害の場合であれば、聾学校の幼稚部などが教育相談を開いて、0歳から実際は指導をしている。しかし、聾学校の数は少なく、本来こうした機能は区市町村立の通園施設がそなえるべきである。区市町村立の通園施設は地域に根ざしているものの、やや専門性という点で物足りなさを感じている。むしろ民営の施設が独自の活動を展開していて、魅力を感じる。その場合、通園可能かどうかが利用に際して問題になる。
 障害児が家庭にあって困難なく利用できるのは保育園や幼稚園である。最近では障害児を入園させる保育園や幼稚園も多くなってきている。熱心な指導者によって保育されていることも確かだが、しかし、障害児の発達を考えると専門家による療育的アプローチが必要である。保育園や幼稚園に専門家が配置されるということは財政的にみてきわめて困難なことであろうが、専門機関(障害児の入所施設や通園施設など)からの巡回療育や巡回指導により適切な療育が可能になるだろう。
 就学期になると、児童福祉施設から学校に通学する、あるいは訪問教育ということになる。知的障害や自閉症の場合は、利用人数も多いので、スクールバスの通学であったり、訪問学級の設置となる。視覚障害や聴覚障害であると盲ろうあ児施設は設置数も少なく、遠隔地への入所となる。いずれも指導の面はほとんど学校で行われることになり、生活面の支援が施設の仕事となろう。そうすると、障害に対応した施設ではなく、多少の専門性は求められるとしても、障害の種類を問わない施設が必要となろう。
 学校側からみると、施設利用者は放課後も施設で支援が受けられるが、家庭から通学している子どもの放課後は、学童クラブやいくつかの児童福祉施設でのサービスが行われているにすぎない。重度の子どもが地域で生活するには施設などによる介護など十分な支援が不可欠である。また、通常は、家庭で生活できるが、どうしても支援が欲しいときに受けられるレスパイト・サービス的なものを家庭では求めているように思える。

4 施設への期待と今後の課題

 北欧などの影響をうけ、施設の存在意義について議論されているところであろう。教育の領域でも最近、一部で「特殊学校」の幼稚部、小学部の原則廃止という提案がなされており、同じような問題と捉えられるので、そうした点をふまえ、施設体系への課題を提起したい。
 私には日本においてはすぐさま施設が廃止されるような状況にはなっていないと思える。しかし、施設福祉から地域福祉へという転換は着実に進むであろう。平成8年度から予算化された「市町村障害者生活支援事業」などが各地で実施されれば、在宅の障害者の家族にとって有効な支援となる。それは施設機能の地域福祉への転換を意味するのだが、そうした事業に施設が積極的に関与するかどうかも大きな課題である。
 児童福祉施設の利用は現在、原則として0~18歳までである。基本的にはそれでいいとしても、実際の機能面では就学前期と就学期とを分化させる必要がある。つまり、就学前期では発達などへの療育的取り組みが十分可能なようにし、障害に対応したスタッフを配置する。就学期では学校での教育に大部分はまかせ、訓練などの働きかけは最小限にして、生活面の充実に配慮する。
 障害種別の施設はなくし、「生活支援施設」というような統一した施設にし、そのなかに主たる障害に対応できるスタッフを配置する。これまで対象としてきた障害、たとえば情緒障害などに対応できる施設であったならば、その特徴を生かしつつ、他の障害にも対応できるようにするということである。ただし、重症心身障害児施設は現在のままにしつつ、療育センター的機能をもたせる必要があろう。
 これまでの児童福祉施設のすべてにセンター的機能をもたせ、通所あるいは入所している障害児だけを療育するというスタンスから、地域の障害児・者サービスに転換することが必要である。地理的に障害児・者が利用するのに困難な場合には、サテライト方式で、施設機能を分散させるなどして対応することも考える。
 最後に、学校卒業後の成人期施設であるが、従来の施設に加え、重度障害者を対象とした通所型施設制度を確立するとともに、身体障害者通所更生施設や精神障害者関連施設の整備充実も重要な課題である。

(わたなべけんじ 東京学芸大学助教授)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年2月号(第18巻 通巻199号)23頁~25頁