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フォーラム'98

アジア太平洋障害者の十年の後半へのソウル提言(仮訳)

総理府障害者施策推進本部担当室

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 ESCAP/アジア太平洋障害者の十年中間年高級事務レベル会合は、「アジア太平洋障害者の十年」(1993~2002年)の中間年に当たる昨年の9月26日から29日にわたり、韓国ソウル市で開催され、25のESCAP加盟国及び33のNGOがオブザーバー参加しました。
 本会合では、同「10年」の障害者を巡る12の政策分野に関する行動課題の前半5年間の実施状況の評価と、後半5年間の行動計画を明らかにするため、各国から報告がありました。
 我が国は、国際協力事業、障害者プランの他、中間年における各種記念行事等多岐にわたる障害者施策の推進状況及び今後5年間における行動計画について、日本政府政策声明を発表しました。
 各国報告やその基盤となるバックグランドペーパーを総括する形で、ESCAP事務局より「アジア太平洋障害者の十年の後半への提言」(案)が提出され、活発な議論を経て合意されました。
 以下にその全文(仮訳)を掲載します。

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アジア太平洋障害者の十年 1993―2002 中間年
高級事務レベル会合〈1997年9月26~29日、ソウル〉

アジア太平洋障害者の十年の後半へのソウル提言(仮訳)

 アジア太平洋障害者の十年(1993~2002年)行動課題への取り組みが前半5年間に行われたその広がりを認め、そして10年のゴールである障害者の完全参加と平等を達成するために、より一層の取り組みが必要であることに注目して、この会合では行動課題の完全実施を、全ての政府、関連する国連団体や機関、その他の政府間のまたは非政府の団体が改めて関与することの重要性を強調した。
 行動課題を持続的に実施していくに当たり、この会合は、実践的な活動のための指針として10年の後半の5年間の実施のための以下の提言に同意した。

1 国内調整

 政府は、
(a)多分野的アプローチに重点を置き、10年に関係した事業や活動の計画と実施において、全ての重要な関係者の参加を確保するという視点を持って、障害者に関する国内調整委員会の設立と強化を通して、障害者に関する事項についての国内調整の推進に改めて関与すること。(b)10年の後半の活動のための国内行動計画を策定し、全体的な国家開発計画や進行中の計画の中に、これらの分野別計画を組み込むこと。10年の後半に関する国の計画は、年次を設定したものでなければならない。また、その計画には不利な立場にいるグループへの特別な配慮とともに、分野別の連携を強調することを含めなければならない。さらに、資源の配分のための適切な方法のみならず、モニタリングと評価のために組み込まれた機能をも含めなければならない。(c)アジア太平洋障害者の十年のための行動課題の実施において、国連の障害者の機会均等化に関する標準規則をさらに考慮すること。

2 立法

 政府は、
(a)障害のある全ての人の完全参加と平等を阻む障壁を取り除くために、まだ制定されていない場合は、優先事項として法律を公布すること。それは、障害のある女性と子どもが直面している障壁に特に言及したものでなければならない。(b)障害のある人の完全参加と平等を阻む障壁を取り除くための立法が、効果的に実施され、モニターされるよう行動を起こすこと。(c)次の事柄の準備のために、政策規定だけでなく刑事・民事法も含めた全ての実体法及び手続き上の法律を検証し、確認するための適切な仕組みを確立すること。(Ⅰ)障害のある人の完全参加を制限している規定や機会均等に対する差別規定を改正、または廃止すること。(Ⅱ)障害のある人々の権利を保護し、建築やコミュニケーションにおける障壁を含めた差別的な慣行を排除するために、基本法を制定すること。

3 情報

 政府は、
(a)障害に関連した問題に関する情報センターとデータベースを確立し維持すること。(b)必要に応じ、アジア太平洋統計研修所(SIAP)やその他の関連した施設の支援を受けながら、障害問題に関する国の統計調査員の訓練を開始すること。その際には、障害の定義、質問表の作成方法、サンプリングの方法、計数者の訓練やその他のデータ収集活動、そして性別や年齢を特定したデータの表作成などを盛り込んだ、信頼性のある障害統計を作成することに特に留意しなければならない。(c)将来、全ての国勢調査に障害問題に関する質問を盛り込み、障害問題に関する定期的な調査を行うこと。そのためには、調査員は適切な訓練を受けなければならない。(d)障害に関するデータの普及や検索のために、インターネットを適切に活用すること。

4 啓発広報

 政府は、
(a)10年の中間年を記念する国内啓発広報キャンペーンを行い、障害のある人の完全参加と平等を推進する記念郵便封筒や記念切手、記念コイン等を発行したり、美術・舞台芸術祭や障害のある人のスポーツ大会を開催したり、民間部門、民間報道手段、そして草の根活動を含めた全国的またはそれに準ずる報道キャンペーンを行うなど、様々な方法を通して、又、12月3日の国際障害者の日も活用しつつ、1998年から10年の後半が始まることを周知させること。(b)著名な人々を含めた障害のある人に関する情報資料を作成することや、若い人が障害のある人のためにボランティア活動に取り組むのを奨励することによって、障害のある人に対する若い人たちの認識と感受性を高めること。

5 施設の利用しやすさ及びコミュニケーション

 政府は、
(a)もしまだ実施されていない場合は、公共建造物や施設、公共交通機関が障害のある人に利用しやすくなっているかについての国内状況を、障害のある人の参加を得て検証し評価すること。(b)既存の全ての公共建造物や施設、住宅、教育施設、そしてスポーツや娯楽施設を利用しやすくするための対策を講ずる。地方の当局による適切な活動を推進し、全ての改築や拡張工事だけでなく新築の建物にも全てバリアフリー設計の特色を取り入れること。(c)鉄道機関を含めた、全ての新しく造る公共交通施設や機関を完全に利用できるようにするために行動を起こし、既存の交通機関では、障害のある人や高齢者のために、バリアフリーの施設や利用者に優しい配慮を徐々に取り入れるための計画を立てること。(d)障害のある人の情報へのアクセス、移動の便そして自立性を向上させるためのコミュニケーション体制を支援すること。

6 教育

 政府は、
(a)全ての障害のある子どもに対し、インクルーシブ教育(inclusive education)を含む、個別のニーズに応じた教育を以下のような方法により提供すること。(Ⅰ)障害のある子どもの教育の必要性についての理解・認識を高める。(Ⅱ)就学率の向上、アクセスの利便性の改善、必要な教育設備や支援スタッフの充実、早期からの対応の充実と個に応じた教育過程の改善によって、障害のあるすべての子どもたちの教育の機会の拡大と充実を図る。(Ⅲ)障害のある子どもの特別なニーズのための専門家を訓練するとともに、一般の学校の管理者や教師の支援を得る。そして、(Ⅳ)恵まれない環境にいる障害のある子ども達が教育を継続して受けられるよう、経済的、社会的支援を提供する。(b)従来型の学校に通学できない障害のある人のために、遠隔教育の利用を容易にすること。(c)適当な環境にいる障害のある人々のために、職業教育を含めた成人教育やノンフォーマル教育(non-formal education)を促進すること。

7 訓練及び雇用

 政府は、
(a)次のような方法により、障害のある人の雇用機会を向上させること。(Ⅰ)政府職員、NGO職員、民間機関と家族の構成員が、障害のある人の就職活動を援助する能力を強化する。(Ⅱ)障害のある人のために、雇用計画と適切な職業訓練の機会を開発、支援する政策を策定する。(Ⅲ)雇用される能力・資格を有する障害のある人の権利を認識する。(b)現在と将来の労働市場の需要に合致した、障害のある人のための雇用の機会を見出して発展させ、それらの分野での訓練を提供すること。そこには、全身性障害のある人や支援的な環境の必要な人への特別な準備も盛り込まれるべきである。

8 障害原因の予防

 政府は、
(a)対人地雷の製造、使用、販売を禁止する国際的キャンペーンに参加すること。(b)それぞれの国で収集されたデータに基づいて、障害予防計画を策定すること。(c)障害原因の早期発見のために、また、障害の発生率を減らすための予防注射の適用範囲とごく一般的な予防が可能な障害原因の撲滅のために、計画を立て、又、それを強化すること。

9 リハビリテーションサービス

 政府は、
(a)国内のリハビリテーションの必要性に関する研究・調整を行い、特に農村地域において、適切にリハビリテーションサービスを開始し強化すること。(b)この地域の人的資源の開発に重点を置いて、国内の地域リハビリテーション(CBR)戦略の開発と実施を最優先とすること。(c)障害のある人、その家族、地域、民間団体、その他適当な団体を、リハビリテーション計画に参加させる努力を強化すること。

10 福祉用具

 政府は、
(a)福祉用具の構成部品や原材料の標準化の実施とともに、使用者、地域の製造業者、関連した専門施設の積極的な情報交換と連絡を通して、低価格で質の高い福祉用具の地域での製造、流通、維持を推進すること。(b)福祉用具の本体、構成部品や原材料、また、その製造、修理や維持設備を関税免除の対象とするために、行動を起こすこと。

11 自助組織

 政府は、
(a)需要が明らかに示された地域において、地方の障害のある人の自助組織をより一層強化するために、障害のある人々の支援計画を奨励すること。(b)障害種別による自助組織を推進することの意義を認識するとともに、障害の種別を超えた自助組織の連盟をより一層推進すること。(c)障害者の自立生活を目的とした事業の実施が可能となるように、サービス利用者のために、資源を可能な範囲内で直接に障害のある人の自助組織に提供すること。

12 地域協力

 ESCAPとその他の関連した国連機関や国連組織、政府間機関や民間の団体、そして民間の部門は、
(a)あらゆる可能な技術的援助を通じ、前述の事業への各国の取り組みを促進すること。(b)アジア太平洋障害者の十年の行動課題を実施するためにESCAP加盟国・準加盟国が後半5年の国内行動計画を策定する際に、援助をすること。(c)アジア太平洋障害者の十年の進展を引き続きモニターすること。(d)アジア太平洋障害者の十年の終結に当たっては、各国内・各地域内の達成状況について十分な評価を行い、それを検討するために委員会に提出すること。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年2月号(第18巻 通巻199号)52頁~55頁