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街なか探検隊

京都へ、おこしやす

谷口明広

◆新しい時代を迎えた京都

 21世紀を目前にした京都は、新しい時代を迎えています。高層建築の問題が論議を巻き起こし、全国的に有名になった京都駅も昨年の秋に完成し、観光都市の玄関が整備されました。新幹線が到着する八条口は、JR東海の管轄ということで代わり映えしないのですが、JR西日本が担当する在来線側の烏丸口は、まるで空港を思わせるような外観を見せてくれています。京都駅からの移動はタクシーやバスもありますが、やはり障害をもつ人たちには地下鉄をお勧めします。
 1200年以上の歴史をもつ都市の地下には、さまざまな重要遺跡が点在しており、「掘れば出る」の原則は“地下鉄東西線”の開通を遅らせていました。以前から利用されていた“地下鉄烏丸線”も各駅にエレベーターが完備された全国有数のアクセシブル公共交通機関だったのですが、あくまでも南北移動のみが確保されているだけでした。京都駅の完成と時を同じくして開通した“地下鉄東西線”は、二条駅から醍醐駅までの京都市内を東西に貫く重要な幹線となりました。
 烏丸線と東西線は、「烏丸御池駅」で乗り換えられるようになっており、障害をもつ人たち(特に車いす使用者)の市内アクセスが確保されたと言っても過言ではないでしょう。皆さんが想像される以上に、実際に観光してみると京都市内は“狭い”という感想をもたれると思います。すべての駅にエレベーターが付いていますので、地下鉄と電動車いすを併用すれば「十分に楽しめる京都」が完成したのです。
 京都と言えば「神社・仏閣」を連想するのが普通ですが、古いものを大切にしながらも新しい感覚を取り込んでいる京都は、脱皮という言葉が似合う状況にあります。

◆アクセスから見た京都

 新しい京都駅は、各ホームにエレベーターを完備しており、個人で自由に利用できます。京都駅からJRを利用すれば、大阪には30分で、神戸にも1時間余りという気軽さなのです。また、アクセシブル地下鉄は、南終点の竹田駅で近鉄電車と相互乗り入れており、大仏や鹿が有名な奈良にも簡単に行けます。さらに、四条駅で阪急電車に乗り換えが可能ですので、大阪や神戸までも安い料金でアクセスが確保されています。車いす等でのアクセスを考えると、JRよりも阪急のほうが利用しやすいと感じられるでしょう。
 アクセシブル地下鉄には、車いす使用者ばかりではなく、視覚障害や聴覚障害をもつ人たちに対してもさまざまな配慮がなされています。車内の放送は分かりやすく、各車両には電光掲示板が設置されており、障害をもつ人たちばかりではなく、障害のない人々にも便利なものとなっています。特に東西線のホームには、線路への転落防止という観点からガードが設けられており、視覚障害をもつ人たちをはじめとするさまざまな人々の安全が確保されているのです。
 市内に目を向けると、地下鉄ばかりではなく「リフト付き市バス(ふれあい号)」も忘れてはなりません。リフト付きバスや低床バスは年を重ねるごとに増加しており、近距離の便利さも保障されるようになってきました。しかしながら、限られた数路線であり、2時間に1台という現状では、「アクセスの確保」という言葉には程遠いかもしれません。とは言っても「ないよりは幸せ」という考え方を大切にし、バス時刻表を見ながら観光するのも楽しいものですよ。「バスは面倒臭いし」と思う人たちには、“福祉タクシー”が最適ではないでしょうか。いくつかのタクシー会社が、リフト付き大型タクシーを保有しており、予約をしておけば誰にでも利用できます。
 街なかを見ると、主要な道路には広い歩道が完備されていますので、安心して歩くことができます。道が狭い裏通りは、車いすにとって歩きやすいとは言えない状況ですが、自動車の交通量が少ない時間をねらって歩いてください。京の街なかには、古い家並みが残っている場所があり、自分の“愛する場所”をさがしてみてください。修学旅行では誰もが歩いた経験がある四条通りはもちろん、お土産屋さんが立ち並ぶ寺町通りや新京極もアーケードがありますので、雨の日も傘なしで歩けるという“ありがたさ”を感じてもらえるでしょう。
 新しく建てられたビルや観光地には、車いす使用者向けトイレが完備されてきましたので、「車いすトイレマップ」が必要とされない時代になってきました。地下鉄の駅には確実にありますし、四条通りや河原町通りの大きなビルやデパートにも気軽にトイレを借りに行けるのです。

◆観光名所とポイント

 「そんな場所は修学旅行で行ったよ!」という言葉をよく耳にしますが、子どもの時に見たものとは異なった情景が見えることを自分の目で確かめて欲しいのです。まず、京都駅に近い所から言えば、「三十三間堂」をお勧めします。京都駅から歩いても15分で到着しますので、街並を見ながらブラブラしてみてください。自分の車いすや電動車いすで廻ることが可能ですので、千体におよぶ観音像の中から、自分に似た顔を自分のペースで見つけてみるのもよいでしょう。
 次には「二条城」がお勧めです。地下鉄の「二条城前」という駅で降りると、目の前には大きな城が広がります。ここも自分の車いすが使用できますので、自分のペースを大切にすることができるのです。「二条城」と言えば、歩くたびに「キュッキュッ」と音がする“うぐいす張りの床”が有名なのですが、車いすで歩くとどのような音がするのでしょうか。自分で確かめてみるのも面白いですよ。
 「二条城」の北側には京都社会福祉会館があり、その中には「京都ボランティア協会」がありますので、困ったことがありましたら気軽に訪問してください。この他にも清水寺や東寺をはじめとする大半の神社・仏閣は、車いすのアクセスを確保していますので、全国からも気軽に観光へ出掛けてみてください。
 古い京都ばかりではなく、新しい京都も紹介しておかなければなりません。地下鉄の北山駅を降りると、「京都府立植物園」があります。緑が少ないと言われる京都なのですが、この場所だけは別ということができます。季節に合った草花が栽培されており、ホッとした気分になれるスポットなのです。落ち着いた感じのデートスポットでもありますので、車いすでのデートには最適と推薦しています。さらに、植物園東側には「陶板名画の庭」という新しいスポットもありますので、視覚障害をもつ人たちにも、“触れる芸術”としても評価されるのではないでしょうか。いろいろなガイドマップで夢を広げて「行ってみたい!」と思った場所が、あなたの観光地と言ってもよいのです。どんな場所へでも行ける方法は見つかるものですよ。

◆京都で美味しいものを食べる

 京都と言えば「京料理」ということになるのですが、やはり目が飛び出るほどに高価となります。春のタケノコ、夏のハモ、秋のマツタケ、冬の湯豆腐というように、季節折々の名物があり、食べ物からも季節を感じられる場所なのです。京都では安価な居酒屋でも季節の料理を出してくれるところが多いようです。私は“京の漬物”が好きです。多種の漬物は、十分に季節を感じさせてくれます。「二条城」の向かい側に「全日空ホテル」があるのですが、その地下に“京の漬物”を食べさせてくれる店があります。季節の漬物とお茶漬けやお粥をセットにしてくれていますので、昼食には逸品だと思っています。特に、冬の“千枚漬け”、春の“菜の花づけ”は、食べるためだけにわざわざ京都に来たという、観光客も大勢おられます。

◆京都で素敵な場所に泊まる

 京都駅が新築されると同時に、駅ビル内に「ホテル・グランヴィア」が開業されたことをはじめ、近年には「京都ホテル」も新しくなっており、宿泊場所は充実してきてはいます。しかしながら、車いす使用者が安心して宿泊できる場所は、未だ希薄であると言えるでしょう。大きなホテルにはアクセシブルルームが設けられていることが多いのですが、数には限りがありますので、観光地にしては少なすぎるというのが実感です。
 車いす使用者をはじめとする障害をもつ人たちが安心して宿泊できる施設として、洛西の福祉ゾーンにある「ふれあい会館」を紹介しておきます。アクセシブルな部屋には、トイレや風呂も完備しています。介護者とともに宿泊できるようにツインになっています。レストランもありますので、食べることの心配もしなくて大丈夫です。京都市中心部から自動車で30分もかかってしまうところが問題ですが、主要な駅などからのリフトバンによる送迎も考えてくれますので、宿泊場所の1つに加えておいてください。
 新しく生まれ変わった「京都」を紹介してきましたが、この文章を読んだだけで行った気持ちにならないで、本当に来てくださいね。この他にもユニークな観光スポットも増えてきました。とりあえず、「京都へ、おこしやす」。

(たにぐちあきひろ 自立生活問題研究所)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年2月号(第18巻 通巻199号)56頁~59頁