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列島縦断ネットワーキング

静岡・車いすガイドマップをつくりました

―伊東温泉に遊びに来てください―

堀口裕司

 平成9年10月、「ポパイの会 伊東温泉 車いすで泊まれる旅館紹介」という見出しで、地元紙に私たちの作成したガイドマップが掲載されました。
 マップ準備から完成まで1年余りかかりました。それは決して楽な道のりではありませんでしたが、ガイドマップへの反響にメンバーは励まされ、元気づけられました。ポパイの会の活動とマップづくりの経緯を紹介します。

「ポパイの会」誕生

 私たちポパイの会は、保健・医療・福祉に関心のあるメンバーが、自分たちの勉強会と情報交換を目的にして、平成6年に発足しました。
 初めは、毎月1回、交替でテーマ(児童の権利条約、戦争と平和、介護保険法、リラクゼーションなど)にそった資料を用意し、話し合うことで、お互いの視野を広めてきました。勉強会を始めて約1年経った頃、「ポパイの会で何かできることはないか」という思いが生まれてきました。

マップづくりのきっかけ

 メンバーは、特別養護老人ホームの指導員や保健婦などで、それぞれに障害をもつ人と外出や1泊旅行などを行っていました。旅は、だれにとっても楽しく心はずむものであり、心身のリハビリにもなり、生活の質(QOL)が高められます。
 ところが、車いすで外出しようとすると、市内であっても食事やトイレ、観光などの情報が少なく、どこへ行くか大変悩みます。また、遠くに出かける時も、無理なく泊まれる所を調べるのに大きな労力が必要になります。そして何より「心よく迎えてくれるだろうか……」という不安がいつも付きまといます。私たちも、市外の人から「伊東に車いすでも泊まれる所はありませんか」という問い合わせには十分な答えはできませんでした。

観光地「伊東」をバリアフリーに

 伊東は、伊豆半島の東に位置する温泉と自然に恵まれた観光地です。最近では伊豆高原を中心に美術館や植物園、スキューバダイビングなどを楽しむ多くの観光客が訪れています。しかし不況の影響もあり、一時期よりも観光客は減っています。
 私たちの街は観光により成り立ち、施策も観光が優先されています。観光とバリアフリーを結びつけることが、だれもが住みやすい街づくりに役立つものと考えました。
 観光地「伊東」の飲食店・観光施設・宿泊施設の現状を調べることが、バリアフリーの第一歩と考え、その情報を障害をもつ人に役立てて欲しいと思いました。そこで、車いすでも泊まれる施設のガイドマップづくりを始めました。

バリアフリーの第一歩

 最初に伊東温泉旅館協同組合の協力で宿泊施設にアンケートを取り、「車いすで宿泊可能」と回答があった24か所の旅館・ホテルの館内の様子(トイレ・浴室・食堂・客室・廊下)や料金等を一覧表にまとめました。この一覧表に加え、宿の場所を示した伊東温泉の地図からガイドマップは構成されています。バリアフリー度として、エレベーター・スロープの設置状況や段差について記載しました。紙面が限られているため、段差は0~2段・3~6段・それ以上の3つに区分して表しました。
 ガイドマップの中には記載できませんでしたが、アンケートには「身体の不自由な方の宿泊時に、施設を利用しやすいよう工夫し喜ばれた」というエピソードや、今後も積極的に歓迎したいという記載もありました。このような記載とは反対に、施設や接客面で自信がないという宿もあり、バリアフリーの啓蒙の必要性を感じました。
 マップは新聞・雑誌等に掲載されたほか、市役所の関係窓口での配布や、首都圏での観光PRの資料に加えられています。
 反響は予想以上で、障害をもつ本人や介護者、福祉施設からの問い合わせが数多くあり、観光地にバリアフリーの視点は不可欠と確信しました。

伊東温泉ガイドマップ

思いがけないアンケートの効果

 今回のアンケートを始めて間もなく、会員制のリゾートホテルから、障害をもつ人や高齢者に向けた改造についての問い合わせがありました。そこで、車いすや杖を利用する人と一緒にホテル内をまわり、施設の改造プランや介助器具の紹介などをしました。
 ホテルの人が障害をもつ人の意見を直接聞いたり、動作を見たりすることで、バリアフリーへの理解が深められたと思います。また、その時に協力してくれた障害をもつ人の表情の輝きが印象的でした。

ポパイの会の展望

 今回のガイドマップは、まだ十分とは思えませんが、マップづくりによって得られた多くの人との出会いはとても貴重なものでした。
 今後の会の活動は、勉強会と合わせて、「だれもが住みやすい街づくり」のために、飲食店や観光施設などのバリアフリー度を多くの人とともに調べたいと考えています。そして、私たちは「だれかのためではなく、私たち自身のために」やりたいと思うことを活動の基本にしていきたいと考えています。
 読者の皆さん、伊東温泉に遊びに来てください。そして、バリアフリーを進めるためにご意見をお聞かせください。

(ほりぐちゆうじ ポパイの会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年2月号(第18巻 通巻199号)69頁~71頁