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特集/検討中!これからの障害者施策 パート2

関係三審議会合同企画分科会中間報告の評価と今後への期待

行政関係者の立場から

三宅 亨

 少子高齢社会の到来を迎え、国においては、子育て支援施策や高齢施策の分野で、エンゼルプランや新ゴールドプランを推進するとともに、介護保険法の制定、児童福祉法の改正など施策の再構築が急ピッチで進められている。
 戦後復興期に、基本的枠組みが構築された我が国の社会福祉施策は、その後の時代の変化とともに「制度疲労」ともいうべき状況に陥っていることは、これまで広く指摘されてきており、その意味では、国の施策再構築に向けての取り組みは高く評価されるものである。
 障害者施策の分野でも、各地方自治体においては、新たな時代背景を踏まえて、それぞれの立場から施策の見直しに取り組んできているものの、施策の根幹をなす国の方向性がこれまで必ずしも明確でなかったことが、施策の検討を進める上での大きなネックとなっていた。
 今回の合同企画分科会中間報告は、このような意味で、障害者施策の分野における施策の再構築の方向性を示すものとして注目すべきものであり、今後の展開に向けて、地方自治体をはじめとする関係者の期待も強いものがある。
 以下、簡単に中間報告に対する感想と今後への期待を述べる。

1 基本的理念及び施策の方向性について

 基本的理念及び施策の方向性については、障害者の主体性、選択性の尊重や障害保健福祉施策の総合化など、全般的に高く評価されるものである。特に、保健福祉サービス決定権限の市町村への一元化の方向は、平成2年の福祉八法改正時からの懸案であり、早期に対応すべき課題であると考える。
 ただ、高齢化への対応については、介護保険との政策的整合性が依然として曖昧なままであり、より一層の整理が必要である。
 また、障害者の当事者活動への支援、行政施策の決定への参画の推進については、新たな施策の展開が期待される。

2 具体的施策の方向性について

地域での生活支援

 基本的な方向性は評価するが、重度・重複の障害者に対する施策の充実については、若干、踏み込みが浅いという印象を受ける。
 自治体の現場では、病院における濃厚な医学的管理の対象となるような者を含む重度の障害者に対し、在宅介護などの生活支援に苦慮しているのが実態であり、医療と福祉との連携による総合的な取り組みが、早急に求められている。
 なお、障害者の在宅保健福祉施策としてのデイサービスについて、通所施設を含む施設体系との関連で、在宅介護支援策の一層の体系的整理が必要ではないかと思われる。
 地域における総合相談窓口の確立については、ケアマネージメントとの関連を明確化するとともに、障害別に支援事業が設けられている現状について、総合化の視点から今後の方向性を明らかにすべきではないか。

施設体系

 施設体系の整理の方向性等については、関係者の長年の期待に応えた内容であり、高く評価したい。特に精神薄弱者更生施設における「生活施設」の形態の創設については、早急な具体化が望まれる。

サービスの提供体制

 障害保健福祉サービスの市町村一元化については、全く異論はない。
 しかしながら、市町村圏域、障害保健福祉圏域、都道府県圏域の三層構造によるサービス提供体制は、中間の障害保健福祉圏域に実体的基盤がないことから分かりにくく、自治体の現実から見れば、理念的に過ぎるのではないか。特に今後、保健福祉サービスの実施が市町村に一元化されていく中では、基盤となる市町村圏域を基本とした、自主的な広域行政圏域の設定を誘導する方策が必要となるのではないかと思われる。
 利用者本位のサービス提供の仕組みについては、基本的には評価できるが、公的責任により提供されるサービスと私的(インフォーマル)サービスとの整理、住民参加型サービス提供組織、特に障害当事者団体によるサービス提供活動への支援等についても積極的に検討すべきである。

その他

 障害者の所得保障については、利用者負担との関係にとどまらず、重度障害者の介護サービスとの関連や、幅広く自立への支援という観点から、総合的な検討が必要である。
 関連施策との連携についても、特に福祉的就労と一般雇用との中間的な領域の問題をはじめ、さらに具体的な検討が望まれる。

3 今後への期待

 以上、個別的な意見を述べたが、全体的に見れば、この中間報告は、これまで関係者の間で課題とされていた事柄に対して、従来の国の施策の枠組みから大きく踏み出す、意欲的かつ斬新なものであり、その積極的な姿勢については、高く評価したい。
 しかしながら、自治体関係者にとっては、平成12年度の介護保険制度導入後における障害者施策の在り方の検討が焦眉の課題であり、その点では、今回の中間報告には物足りなさも残る。
 合同企画分科会においては、この問題について精力的に検討を進められ、早急に一定の方向性を打ち出されることを期待する。

(みやけとおる 東京都福祉局障害福祉部長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年5月号(第18巻 通巻202号)27頁・28頁