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インテグレーション

金子 健

 かつて、障害のある人々は、社会から排除され、隔離されていた。1950年代から60年代にかけて盛んになる米国の公民権運動、そして北欧から始まったノーマライゼーションの動き、これまで差別され排除されていた少数者が、多数者中心の社会のあり方に異議を唱えた歴史上きわめて重要な出来事であった。
 これらの運動で共通して目指されたのは、排除されていた少数者の人権の尊重と、社会への「統合(インテグレート)」であった。これがインテグレーション(Integration)である。その線上に、「完全参加と平等」をテーマとする国際障害者年があった。
 インテグレーションは社会のあらゆる場面で追求されるものであるが、狭い意味では、学校教育における統合を指す場合が多い。障害のある子どもが、通常の学級で学ぶこと、それが統合教育である。
 しかし、とかく場の統合のみが重視され、通常学級に参加することをまず第1に求める傾向が一時期、見られた。このような、個別的な支援の手だてを用意しない単なる場の統合は、「投げ入れ(ダンピング)」として批判されるようになった。
 1975年の米国の全障害児教育法は、「最も制約の少ない環境での教育」、すなわち統合教育の追求と、個別の教育計画(IEP)による個別的対応の追求という、両方の側面からの最適化を義務づけるものであった。
 英国でも、1981年の教育法以来、障害種別による分類を廃して、個々の子どもの「特別な教育的ニーズ(Special Educational Needs : SEN)」という概念を導入して、統合された環境での適切な教育を目指してきている。
 こうした経過の中で、インテグレーションは障害と非障害に分ける二元論であるとの批判が提起され、それに代わる概念として登場したのが、インクルージョン(Inclusion)である。学校や地域社会で、個々の必要性に応じた支援の手だてを用意しつつ包み込む(Include)というインクルージョンの方向性は、国連やユネスコによって支持され、「サラマンカ声明」(1994年)によっても確認されている。
 インテグレーションからインクルージョンへの転換は、21世紀の重要課題となるだろう。

(かねこたけし 明治学院大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年5月号(第18巻 通巻202号)29頁