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『風の歌が聴きたい』を見終えて

坂上譲二

 トライアスロンを通したろうあ者夫婦の物語『風の歌が聴きたい』を鑑賞する機会があった。結論から申し上げると秀逸な作品だと感じた。
 ろうあ者も健聴者と変わらず多様な趣味をもつて生活している状況が描かれているが、今の社会ではそこまでの理解が得られていない現状があるので、余計そう感じたのかもしれない。
 ろうあ者は聞こえないから音楽に興味がないというのが健聴者の通念であろうかと思う。しかし、映画に描かれているように、体で感じて楽しむことが可能であり、ロックなど音量が大きく振動で音楽を感じられるような場所、たとえばコンサートやディスコなどではろうあ者が楽しんでいる風景が垣間見られるだろう。かく言う小生も若き日に出入りした経験がある。
 障害者はピュアであるという、良い意味なのか悪い意味なのか分からないが、そういう通念があるらしいが、健聴者と変わらず学生時代に喫煙や飲酒をしたりすることは、障害の有無にかかわらず同じ人間だということを感じさせてくれる場面であった。また、彼らの生活の中で同じろうあ者が多数かかわってくるが、これは従来の映画にはなかった部分である。ろうあ者は健聴者とコミュニケーションを図りにくいこともあり、手話で意思疎通が図れる同じろうあ者同士が集まって行動する傾向が当然のようにあるし、それが自然である。また、日常生活のうえで音を補完する器具、たとえば「お知らせランプ」やファックスなども映画の中で重要な役割を果たしていたと思う。そこまで配慮された、ろうあ者を扱った映画は初めてであり、気持ちよく鑑賞することができた。
 しかしながら、ろうあ者の役はろうあ者自身が演じることが自然であり、現にアメリカではそうしていると聞く。そういう意味では今後、ろうあ者の俳優が出てきてほしいと思うし、制作会社も積極的にろうあ者を採用していただきたいと思う。
 ともあれ、ろうあ者である私には鑑賞した後の満足感を与えてくれた映画であった。

(さかがみじょうじ 財団法人全日本ろうあ連盟文化部長)