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介護保険制度と身体障害者福祉施策

片岡佳和

1 はじめに

 平成12年度の介護保険制度の施行に向け、国、都道府県、市町村のそれぞれのレベルで準備が進められています。
 介護保険制度は、福祉と医療に分立している現行の高齢者介護制度を再編成し、福祉も医療も同様の利用手続き、利用者負担で、利用者の選択により総合的に利用できる仕組みを構築することをねらいとした制度ですが、制度の対象者や提供されるサービスの内容において共通する部分もあるなど、介護保険制度と身体障害者施策は密接な関係を有しており、介護保険制度施行までの間に身体障害者施策において整理を必要とする事項も残されています。
 本稿では、主に身体障害者福祉審議会における審議状況を参照しつつ、介護保険制度と身体障害者施策との関係、なかんずく、介護保険制度の施行までの間に整理を要する事項について、記すこととします。
 なお、介護保険制度の基本的な仕組みについては、前稿の「介護保険におけるサービスの範囲の概要」にまとめられているので、ここでは詳細な紹介はしません。

2 介護保険制度の身体障害者への適用関係の基本的な考え方

(1) 介護保険制度の適用者等

 介護保険制度は、65歳以上の者からなる第1号被保険者及び40歳から64歳までの医療保険に加入している者からなる第2号被保険者を被保険者とし、介護を社会全体で支える制度です。
 サービスを利用できる者は、

1.第1号被保険者については、
(ア) 寝たきりや痴呆などで常に介護を必要とする状態(要介護状態)にある者
(イ) 常時の介護までは必要ないが、家事や身じたく等、日常生活に支援が必要な状態(要支援状態)にある者

2.第2号被保険者については、初老期痴呆、脳血管疾患など老化が原因とされる15種類の病気(特定疾病)により要介護状態や要支援状態にある者

です。このような要介護状態または要支援状態にあるかどうかの判断は、市町村が行う要介護認定、要支援認定により行われます。
 したがって、身体障害者についても、要介護認定または要支援認定により、要介護状態、要支援状態にあると判断されれば、介護保険の介護サービスを受けられるものですが、身体障害者施策においてもホームヘルプサービス等の介護サービスが提供されてきたことから、両者の適用関係が問題になるところです。

(2) 基本的な考え方

 まず、介護保険制度の身体障害者への適用に関する基本的な考え方を整理しておくと次のとおりです。

1.身体障害者も、前記被保険者の要件に合致すれば、原則として介護保険の被保険者となり、介護保険と共通するホームヘルプサービス等の在宅サービスについては、65歳以降(介護保険制度の特定疾病による障害の場合は40歳以降)は、要介護認定または要支援認定を受けられる場合は、介護保険のサービスを利用することが基本です。

2.しかし、身体障害者施策で実施されているサービスのうち、外出時の介護サービス(ガイドヘルプサービス)や各種の社会参加促進事業など、介護保険のサービスと重ならない部分については、引き続き身体障害者施策からサービスが提供されます。

3.施設については、介護保険施設と身体障害者施設とでは、それぞれ目的・機能が異なっており、身体障害者施設へ入所することが適当と認められるときには、身体障害者施設への入所が認められることとなります。

(3) 補装具・日常生活用具

 なお、介護保険制度では、特珠寝台等の福祉用具については、排せつ等に用いられるものなど貸与になじまないものを除き、貸与(レンタル)されることとしています。
 一方、身体障害者施策においては、車いすなど、身体機能を補完・代償するため身体に装着して常用したり、作業用に使用するものを「補装具」として、また特殊寝台など、日常生活上の便宜に資する福祉用具を日常生活用具として給付しています。
 このため、身体障害者が65歳(介護保険制度の特定疾病による障害の場合は40歳)に達した場合に、両者の関係をどう整理するかが問題となりますが、これについては、平成11年2月に出された「福祉用具給付制度等検討会報告書」において、以下のとおり整理されています。
 まず、補装具については、介護保険で貸与される福祉用具として考えられているものの中に、補装具と同様の品目(車いす、歩行器、歩行補助つえ)がありますが、これらは既製品のレンタルであり、障害者の身体状況に個別に対応できないこともあるため、個別対応が必要な障害者については、身体障害者福祉法による補装具給付制度で対応すべきとされています。
 一方、日常生活用具については、基本的に既製品であることから、その製作過程で身体障害の状況に応じて個別に適合を図るものではないことから、介護保険で貸与や購入費の支給の対象となる品目については、介護保険を優先し、身体障害者福祉法に基づく日常生活用具からは給付しないと考えるべきであるとされています。

3 介護保険と身体障害者施策の関係で調整ないし整理を要する事項

 介護保険制度の身体障害者施策への適用については、基本的に前節の考え方により整理されていますが、さらに調整、整理を要する事項として以下のようなものがあります。

(1) ホームヘルプサービスの提供量の問題

 介護保険制度においては、要介護者、要支援者にはホームヘルプサービスが提供されますが、身体障害者施策においては、身辺介護及び家事援助サービスのほか、身体障害者固有のサービスとして外出時の介護サービス(ガイドヘルプサービス)が提供されます。
 この場合、主としてホームヘルプサービスの利用により在宅での日常生活を維持してきた若年障害者が、65歳に達して介護保険制度のサービスに移行し、介護保険の居宅サービスの組み合わせにより日常生活を維持することとなる場合、たとえば、若年障害者であって月にかなり長時間のホームヘルプサービスを身体障害者施策から利用していた者が、介護保険の要介護度に応じた支給限度額では従来と同様のサービスの利用が継続できない場合など、制度間の円滑な移行について、特に配慮を要すると考えられる場合があることをどのように考えるかとの論点があります。

(2) 費用負担の問題

 介護保険制度では、利用した在宅サービスに係る介護報酬の1割が利用者負担となります(ただし、利用者負担の1か月の合計額が一定額を超えるときは、その超える部分について高額介護サービス費が支給されることとなっており、低所得者については、負担限度額が一般の場合より低く設定されることとされている)。
 他方、身体障害者施策においては、たとえばホームヘルプサービスについては、負担能力に応じて7段階(1時間あたり0円~940円)の費用が徴収されるなど、両制度間においてサービス利用者の費用負担の仕組みが異なります。
 このため、ホームヘルプサービスなどの在宅サービスを利用していた若年障害者が、65歳に到達すること等により介護保険制度から同内容のサービスを受ける場合、利用者負担の仕組みが異なることから費用負担の額が増加または減少する場合がありえます。

(3) 身体障害者福祉審議会の意見具申

 介護保険制度と身体障害者施策との関係については、今後の障害者施策の在り方をめぐる幅広い検討の一環として、身体障害者福祉審議会において検討が進められ、本年1月19日には、意見具申「今後の身体障害者施策の在り方について」が出されたところです。
 この意見具申の中で、前項(1)及び(2)の論点については、「6.介護保険制度との関係」において、介護保険制度について制度の細目が定められていくことに「並行して検討を進めていく必要があるが、その際、介護保険からサービスの提供を受ける者との均衡にも配慮しつつ、利用できるサービスの水準や費用負担の水準が激変するなどにより介護保険への移行によって地域社会における身体障害者の自立した生活や社会参加のための活動が維持できなくなるといった事態が生じないよう留意する必要がある」とされています。

4 おわりに

 障害保健福祉部としては、前記の意見具申等を踏まえ、身体障害者施策との関連においても介護保険制度の施行が円滑に行われるよう、検討を進めているところです。

(かたおかよしかず 厚生省障害保健福祉部企画課課長補佐)