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社会福祉基礎構造改革と専門職

松本勝明

はじめに

 わが国の社会福祉の共通基盤的な制度は、昭和26年の社会福祉事業法の制定以来、基本的な枠組みが維持されたままになっている。この間、社会福祉を取り巻く環境は大きく変化しており、国民の福祉需要も増大・多様化を続けている。このような状況に適切に対応していくためには、社会福祉事業、社会福祉法人、措置制度などの社会福祉の基礎構造を抜本的に見直す必要があり、そのため、「社会福祉基礎構造改革」が進められている。この社会福祉基礎構造改革においては、利用者本位の利用制度への転換、社会福祉事業の推進、地域福祉の充実と並んで、質の高い福祉サービスの拡充を図ることが改革の大きな柱の一つとなっている。
 福祉サービスの質の向上を図るため、権利擁護、苦情解決、サービスの質の評価、事業の透明性の確保のための仕組みの整備が行われるが、福祉サービスのように人が人に対して行うサービスにおいては、なによりもその担い手となる人材の質の確保・向上を図ることが重要である。社会福祉事業に従事する職員の数は平成9年で約108万人に上っているが、そのなかでも福祉サービスの提供において中心的な役割を果たすことが期待される社会福祉士、介護福祉士、社会福祉主事などの専門職の質がきわめて重要となる。
 社会福祉士及び介護福祉士の資格制度については、昭和62年の制度創設以来、資格取得者及び養成施設数ともに量的には順調な拡大を遂げている。資格取得者数は、平成11年6月末現在、社会福祉士で18,171人、介護福祉士で166,251人となっている。また、社会福祉士国家試験の受験資格が得られるいわゆる福祉系大学等は100校を超えており、介護福祉士養成施設も322校、369課程となっている。
 一方、保健・医療との連携の必要性が一層高まるとともに、介護保険制度の導入に伴う介護支援サービスの実施、民間企業をはじめとする多様な事業者の在宅サービス事業への参入、さらには前述の社会福祉基礎構造改革の推進などに対応し、これらの専門職に求められる役割も拡大している。また、社会福祉主事制度については、社会福祉事業従事者全体の資質の向上を図る観点から制度の見直しが必要となっている。
 こうした状況に対応して、厚生省では、「福祉専門職の教育課程等に関する検討会」(表参照)を開催し、検討を行うこととした。同検討会は、平成10年9月に発足し、平成11年3月に報告書をとりまとめた。この検討会の下には、社会福祉士、介護福祉士及び社会福祉主事の三つの作業班が設置され、延べ26回にわたり会合が行われるなど、養成教育にかかわる関係者の参加を得て、精力的な検討が進められた。それぞれの見直しの方向は次の通りである。

表 福祉専門職の教育課程等に関する検討会委員名簿

氏名(五十音順)

現職
青木孝志 日本社会福祉士会会長
板山賢治 日本介護福祉士養成施設協会理事
浦野正男 全国社会福祉施設経営者協議会協議員
江草安彦(座長) 中央社会福祉審議会人材確保専門分科会会長
大橋謙策 日本社会事業大学社会福祉学部学部長
岡本民夫 日本社会事業学校連盟会長代行
京極高宣 日本社会事業大学学長
澤田信子 埼玉県立看護福祉系大学設立準備室主幹
関家新助 社会福祉士養成施設協議会会長
田中雅子 日本介護福祉士会会長
西村洋子 山口県立大学看護学部学部長
松尾武昌 全国社会福祉協議会常務理事


社会福祉士

 介護保険制度の導入や社会福祉基礎構造改革の推進に対応して、社会福祉士には、契約による福祉サービスの利用、在宅での生活支援を視野においた効果的な相談援助の実施が求められる。これに対応して、社会福祉士は、生活上の援助を必要とする者が抱える問題を的確に把握し、適切な相談援助を行えること、人権尊重、権利擁護、自立支援の視点に立った相談援助ができること、他の保健医療福祉従事者と連携して援助ができることなどの資質を身につける必要がある。
 したがって、教育課程においても、介護保険制度に関する内容の追加、保健医療分野の専門職との連携に必要な医学知識の強化、人権尊重・自立支援などの社会福祉の理念に関する内容の強化を行う必要がある。また、相談援助に関する実践的な技術を向上させるため、社会福祉援助技術に関する演習及び実習の強化を図る必要がある。
 このため、各科目の教育内容などについて所要の追加・変更を行うとともに、市町村と福祉系大学等との連携による在宅援助実習の導入を図ることとしている。さらに、職能団体による体系的な継続研修の実施を推進する。

介護福祉士

 介護福祉士には、施設介護だけでなく、在宅重視の視点から在宅サービスでの活躍の場の拡大が期待される。また、介護支援サービスの実施や他の保健医療福祉従事者との一層の連携なども求められている。これに対応して、介護福祉士は、要介護者との信頼関係を築くこと、要介護者等の状況に応じ介護を計画的に実施しその結果を自ら評価できること、人の生命や人権の尊重、自立支援の観点からの介護ができることなどの資質を身につける必要がある。
 したがって、教育課程においても、介護保険制度、ケアマネジメントに関する内容の追加、保健医療分野の専門職との連携に必要な医学知識の強化、人権尊重、自立支援等の社会福祉の理念、コミュニケーションに関する内容の強化、訪問看護に関する内容の強化を行う必要がある。
 このため、各科目の時間数、教育内容等について所要の追加・変更を行うとともに、訪問介護実習を必須化することとしている。さらに、職能団体による卒後継続研修の実施や養成施設による共通卒業試験の取り組みを促進する。

社会福祉主事

 社会福祉主事制度は、行政機関職員である福祉事務所現業員の任用資格として設けられたものであるが、今日においては、それにとどまらず、社会福祉施設の施設長、生活指導員等に必要な資格としても重要な役割を担っている。
 これに対応して、社会福祉主事を福祉事務所現業員、社会福祉施設長、生活指導員などの共通任用資格として位置付け、教育内容もそれぞれに共通する専門知識の習得が可能なものとする。また、社会福祉施設長、生活指導員等については職務の特性に応じて必要な内容を上乗せして履修することとする。さらに、大学等での任意の3科目の履修により資格が得られる「3科目主事」については、専門的な資質の向上を図る観点から講習会の受講を推進する。

 今後、以上のような考え方に沿って、具体的な教育課程等の内容を定めた規則、通知の改正が行われ、平成12年4月から新たな課程が適用される予定である。

(まつもとかつあき 前厚生省社会・援護局施設人材課福祉人材確保対策室長)