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精神保健福祉士

厚生省大臣官房障害保健福祉部精神保健福祉課

1 資格成立までの経緯

 わが国の精神障害者については、長期入院の傾向が著しいことが指摘されており(平成8年現在で入院期間5年以上の長期入院患者が在院患者全体の約46%、約16万人)(図)、その解消を図り、精神障害者の社会復帰を促進することが、わが国の精神保健福祉施策の最大の政策課題となっている。

図 長期在院患者の状況

「長期在院患者の状況」の円グラフ
厚生省統計情報部(患者調査)


(平成8年在院患者数 約33万8000人(厚生省調べ))×(5年以上入院の割合 約46%)=(入院期間5年以上の長期入院患者 約16万人)

 しかしながら、精神障害の特徴は、幻覚や妄想などの顕著な精神症状としての機能障害だけでなく、日常生活能力の低下等の能力障害をもたらすことにある。精神障害者の社会復帰を進めるためには、単に医療的なケアを行うだけでは不十分であり、医療とは異なる観点から精神障害者の生活を支援していく体制を整備していくことが課題となっていた。
 また、社会の複雑化が進み、いわゆるストレス社会となってきた中で、近年、心の病をもつ者の数が急増している(平成5年:157万人→平成8年:217万人)。これは、単純計算でいうと、50人に1人近くが何らかの精神疾患を有していることになり、もはや精神障害の問題は一部の者の特殊な疾病としてではなく、だれにでも起こりうる国民全体の問題として検討する必要がある。
 このような背景の中で、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神障害者の社会復帰に関する相談援助を行う専門職の創設が求められ、昭和62年の精神衛生法改正以来、衆参両院より7回にわたり附帯決議が行われるなどその必要性が指摘されてきた。
 このため、政府として精神保健福祉士法案を平成9年5月6日に第140回国会に提出し、その後継続審議となり、第141回臨時国会において審議が重ねられ、同年12月12日に「精神保健福祉士法」が成立した。

2 精神保健福祉士の誕生

 精神保健福祉士法は、平成10年4月1日に施行され、同年6月9日に同法に基づく指定試験・登録機関として、「(財)社会福祉振興・試験センター」が指定された。
 また、法附則第2条に規定する現任者への講習会の実施団体として、(社)日本精神病院協会、(社)全国自治体病院協議会、(社福)全国精神障害者社会復帰施設協会の3団体が指定され、これらの3団体は、同年8月26日から11月29日まで、合計38回の現任者講習を実施した。
 以上のような準備を経て、平成11年1月23日、24日に第1回精神保健福祉士試験が実施され、4,866人が受験した。同年3月31日に合格発表が行われ、4,338人が合格した。合格者のうち社会福祉振興・試験センターに登録を行った者が初めての精神保健福祉士となる。
 また、合格者の内訳としては、大学卒業者が70人、養成施設等卒業者が174人、現任者が4,094人となっているが、精神保健福祉士養成施設も11年4月1日現在で10校と順調に整備されてきており、また精神保健福祉士の養成カリキュラムを提供する大学も増加しており、今後は前二者の比率が増えていくことが予想される(表)。

表 精神保健福祉士試験合格者の概要

受験者数 4,866人   
合格者数 4,338人 内訳 1.大学卒業者 70人 1.6%
合格率 89.1% 2.養成施設等卒業者 174人 4.0%
3.現任者 4,094人 94.4%

1.大学卒業者:4年制大学において厚生大臣の指定する科目を修めて卒業した者等。
2.養成施設等の卒業者:厚生大臣の指定した精神保健福祉士養成施設において、精神保健福祉士として必要な知識及び技能を修得した者等。
3.現任者:平成15年3月31日までの受験資格の特例による実務経験5年以上の者で厚生大臣が指定した講習会の課程を修了した者。

3 期待される役割

 第145回国会に、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下、平成11年改正という)が提出され、平成11年5月28日に成立し、同年6月4日に公布された。
 平成11年改正においては、都道府県や保健所などで勤務する精神保健福祉相談員になる者の例示として精神保健福祉士が規定され、精神保健福祉士が、地域で精神障害者の福祉に関する相談援助を行う中心的な役割を果たすことが明示された。
 また、新たに地域において、精神障害者の生活全般や福祉サービスの利用についての相談援助を行う精神障害者地域生活支援センターが社会復帰施設として位置付けられたほか、平成14年には精神障害者居宅介護等事業(ホームヘルプサービス)、精神障害者短期入所事業(ショートステイサービス)が創設され、既存の精神障害者地域生活援助事業(グループホーム)と併せて精神障害者居宅生活支援事業として、市町村を中心として実施することなどの在宅精神障害者対策が初めて法律に明確に位置付けられた。
 このことは、従来の精神障害者の社会復帰対策が主として精神病院や精神障害者社会復帰施設などの施設を中心として実施されていたのに対し、今後は可能な限り早期に退院し、地域で社会復帰のための必要な取り組みを行っていくという方向性を示したものであると言える。
 今後、精神障害者の在宅福祉施策の拠点として、市町村や地域生活支援センターが役割を担っていくことが求められるが、まだまだ必要な社会資源の数も少なく、精神障害者の保健福祉に必要な専門的知識を有する者が十分に配置されているとは言い難い実情である。精神保健福祉士がこれらの組織・施設において、在宅精神障害者の福祉施策の中核的な役割を果たしていくことが期待されている。