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スポーツの概念と役割

田川豪太

1 はじめに

 スポーツは障害者の社会参加を推進する。今回の特集では、スポーツによる障害者の社会参加の推進をキーワードに、現在行われている障害者のスポーツ活動がさまざまな切り口から紹介されているが、ここではまず入り口として、スポーツの概念や障害者のスポーツ活動全般について簡単に触れてみたい。

2 スポーツの概念

 スポーツ(sport)という言葉の語源は、ラテン語のデポルターレ(deportare)で、もともとは義務的な活動を離れた「気晴らし・休養・遊び」などを意味した。この語は、中世フランス語でdesportとなり、14世紀にはイギリス人がdisportに転じ、16世紀にsporteあるいはsportと省略されている。近代に入ると、一定のルールに従って競技する、いわゆる競技スポーツが一般的となり、現在のスポーツという言葉のイメージが定着してきた。この間、多くの研究者がスポーツの定義を試みてきたが、ここでは1968年の国際スポーツ・体育評議会(ICSPE)による定義を紹介する。
 「スポーツとは、〈プレイの性格を持ち、自己または他人との競争、あるいは自然の障害との対決を含む運動〉である(1)」
 この定義では、スポーツの要素として遊び(プレイ)、競争、運動が示されていることに注目したい。
 一方、スポーツにはレクリエーションやレジャーといった類似の概念がある。特にレクリエーションには遊び、競争、運動といったスポーツの要素を含むものも数多くあり、スポーツとの区別は案外難しい。一般に体育・スポーツの立場からは、真剣な競技としてのスポーツとお遊び的なレクリエーション、というような対立概念としてとらえる傾向がある。逆にレクリエーションの立場からは、スポーツをレクリエーションの一部ととらえることが普通のようだ。障害者のスポーツ活動の場合、広い意味で身体的なレクリエーションと考えることもできるが、このような区別に必要以上にこだわることはない、というのが筆者の考えである。

3 障害者のスポーツ

 現在、障害者のスポーツは幅広い領域をかかえている。医療施設などで「機能回復や体力の向上」などを目的に行われているもの、地域のサービスなどで「お楽しみ」として行われているもの、パラリンピックのように「純粋な競技」として行われているもの、などがその代表と言えるが、ここではそれらの活動をリハビリテーション過程との関係から分類し、その意義について述べる。
 障害者のスポーツをリハビリテーション過程との関係から分類すると、図のようにまとめることができる。まず医学的リハビリテーションの終了段階として、いわゆる機能訓練の延長線上で導入されるスポーツがある。これは、将来的に自立したスポーツを実施していくうえでのファーストステップで、通常、障害者リハビリテーションセンターのような施設で行われる。筆者の所属する横浜市総合リハビリテーションセンターや障害者スポーツ文化センター横浜ラポールでは、このようなスポーツをリハビリテーション・スポーツ(以下リハ・スポーツという)として位置付け、実施している(4)。リハ・スポーツには、スポーツ活動の入り口としての意義があり、家に閉じこもりがちになることの多い障害者の社会参加を促すための第一歩として大変重要な部分である。ちなみに、リハ・スポーツの詳細については、横浜ラポールの宮地氏の論文を参照していただきたい。

図 障害者のスポーツ活動の分類 ―リハビリテーション過程との関係から―

リハビリテーション・スポーツ 
  • 管理された活動 
  • 機能訓練的なメニューからスポーツ活動の導入へ
  • リハビリテーションセンターなどでの実施
生涯スポーツ
  • 自主的な活動
  • リハ・スポーツから完全に自立したスポーツへ
  • 障害者スポーツセンターなどでの実施 


医学的リハビリテーション 社会的リハビリテーション
(時間) ――――――――――――――――――――――>


 次に、医学的リハビリテーションが終了した障害者が自立して行うスポーツがある。これは一般の健常者と同様に生涯スポーツとして位置付けられる。生涯スポーツには個人の志向によって、健康維持のために行われるフィットネストレーニング的なものから、パラリンピックでの勝利をめざしたものまで、多様な形態がある。生涯スポーツの獲得は、一般の健常者においてもスポーツ指導における一つの大きな目標であり、これは障害者にとってもまったく変わらない。一般的にいって、生涯スポーツには一生を楽しく健康的に過ごすという意義があり、障害者の場合は、さらに社会参加の機会を増大するという大きなメリットもある。なおリハ・スポーツと生涯スポーツは、図に示したとおり、時系列上で連続している。このことから、リハ・スポーツは生涯スポーツの獲得をめざした一連の活動と考えることもできる。
 障害者の自立した活動としての生涯スポーツは、社会参加の機会を提供することによって自立生活を恒常的に支えているといえる。その意味で、生涯スポーツの場を積極的に設けることは重要な課題である。生涯スポーツの一方の柱である競技スポーツでは、パラリンピックを頂点に、ジャパンパラリンピック、全国身体障害者スポーツ大会などの開催が定着している。また、もう一方の柱となる地域でのスポーツ活動も、各都道府県や政令指定都市の障害者スポーツ協会などを中心に充実した活動が展開されており、いわゆるレクリエーションレベルの参加者等に対しても社会参加の場を提供している。特に後者の場合、リハビリテーションセンターなどでリハ・スポーツを経験していない障害者にとっては、生涯スポーツを獲得するための第一歩として、重要な意義がある。このような活動には前述した地域の障害者スポーツ協会とともに、地方自治体の協力も欠かせないが、最近は地方自治体にも新たな動きが出てきているようだ。なお競技スポーツについては宮城県障害者スポーツ協会の小玉氏の論文を、また地方自治体の取り組みについては北海道滝川市における具体的な事例紹介をそれぞれ参照していただきたい。

4 まとめ

 スポーツ活動が障害者の社会参加を推進するということは明白だが、障害者のスポーツの発展に伴って、一口に障害者のスポーツといっても非常に幅広い内容をもつようになってきた。以前のように、脊髄損傷の車いす利用者だから車いすバスケットボールをやりましょう、といったステレオタイプの時代ではないのである。そのような時代的背景も考慮して、現状での障害者のスポーツ活動について総論的にまとめた。この後に続く各論を読むうえで、少しでも全体像をつかんでいただければ幸いである。

(たがわごうた 横浜市総合リハビリテーションセンター)


【引用・参考文献】
(1)岸野雄三編『スポーツ大辞典』522頁、大修館書店、1985
(2)池田勝・他『レクリエーションの基礎理論』杏林書店、1989
(3)R・カイヨワ著・清水幾太郎、霧生和夫訳『遊びと人間』岩波書店、1970
(4)田川豪太、伊藤利之「肢体不自由者のリハビリテーション・スポーツ」総合リハビリテーション、24巻4号、1996