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リハビリテーション・スポーツの実践と課題

宮地秀行

はじめに

 障害者にとってのスポーツは、それそのものがQOLを高める活動であると同時に、心身の機能・体力を維持・増進し、生涯にわたって楽しく健康的な生活を営むうえでの活力となる。こうしたスポーツとの出会いをより多くの障害者に提供し、生涯スポーツに結びつく支援をすることは、障害者の社会参加推進という点でも大変意義深いと考えられる。ここでは、障害者の生涯スポーツ定着を目標として行われる「リハビリテーション・スポーツ」(リハ・スポーツ)について紹介する。

リハ・スポーツの概念

 障害者のスポーツ活動の形態は大きく二つに分けられる。一つは、健康増進から競技志向的な活動に至るまで本人の自由意志に基づいて行われる「生涯スポーツ活動」であり、一方は、主に医療機関において治療やADLレベルの体力回復を目的として行われる「管理的・訓練的スポーツ」である。
 この二つは全く異なる性質をもつ活動形態であるが、障害者の自立したスポーツ活動に至る経緯をリハビリテーションとの関連から時系列で見てみると互いに無関係ではない。事実、現在自発的にスポーツを楽しむ障害者の多くは、かつて機能訓練の一環としてスポーツ訓練を経験しているのである。
 このことは、障害者のスポーツ振興を図るうえで、個々の障害に対するさまざまな配慮が必要であることを示している。すなわち、医療機関でいわゆるADL自立を目的に行われる訓練の過程と同様に、障害のレベル、機能・体力、障害の受容レベルなど個々の状況に応じた適切なスポーツプログラムを導入することこそが、その後の生涯スポーツ活動への移行をよりスムーズにすると言えるのである。
 リハ・スポーツとは、言わば医療領域で行われるスポーツと自発的な生涯スポーツの橋渡しを担うプロセスであり、これまでスポーツに触れる機会のなかった障害者に対し、その機会を気軽に提供するプログラムなのである。

リハビリテーション・スポーツの実際

 図に示したように、リハ・スポーツの展開は大きく3段階に分けられる。

リハ・スポーツの位置づけと展開
リハビリテーション・スポーツ
機能訓練 ――――――――――> 生涯スポーツ
導入期 展開期 完成期
体力強化 種目選択 仲間づくり
トレーニング 技術習得 自主活動


 まず導入期では、「社会生活レベルの総合的な体力獲得」を目標にしたトレーニング指導を行い、その習慣化を図る。内容としてはたとえば脳卒中片マヒ者の場合、患側を強調する局所的なトレーニングを避け、全身的な動きやその耐久性を意識したプログラムを処方する。スポーツ活動に対する動機づけと、患側の機能回復に対するこだわりを軽減していくことがねらいである。
 この時期の対象者は障害受容の過程が途上で、スタッフに対する態度も過度に依存的な場合が多いが、不必要な援助は避け、徐々に自立を促す配慮が必要である。
 展開期では具体的なスポーツ種目を選択し、個々の障害レベルや活動能力に合わせて「基礎的技術の獲得」を図る。技術指導の場面では、既存の型やルールにとらわれず、それらを柔軟に改良していくことが大切である。そして段階的な目標設定を行い、それを一歩一歩到達していくことで自信の回復や意欲の向上といった心理面の高揚を図る。
 さらに、非日常的な動作の中で事故を未然に防ぐために、過不足のない個々の能力の限界について自覚を促し、スポーツ活動における健康と安全に対する自己管理の意識を徹底していくことも重要な課題である。
 完成期では「仲間づくり」を目標としてグループの組織化を図りながら、徐々に自立活動に向けた準備を進めていく。
 一般に余暇活動を継続するには、同じ嗜好をもつ仲間の存在が重要な要素となり、特に障害者の場合、同じ障害もしくはその障害を十分理解している者同士の仲間づくりは、その後の活動を大きく左右すると考えられる。そこで、まずはグループ全体としての自立を図り、個々のスポーツ活動の継続を可能にする基盤をつくるのである。

リハ・スポーツの効果

 リハ・スポーツプログラムを終了した後1年以上を経過した脳卒中片マヒ者173人を対象に「スポーツの継続状況」を調査した結果、週1回以上の高頻度で継続している者が45%を上回り、全体の67%が定期的な活動を継続していた。非継続者の理由としては、1.病気・けが、2.職場復帰、3.交通手段、4.介助者の都合などがあげられたが、多くの者がスポーツ継続の意欲を示していた(平成9年 横浜ラポール)。
 同様にリハ・スポーツ終了者97人を対象に、社会参加の一指標として「外出頻度」について実施した調査では、スポーツの継続に伴い外出頻度が増えるとともに、外出先での活動が個人的・依存的活動から社会的・自発的活動になるといった変化が見られた(平成7年 横浜ラポール)。
 また、自立グループの事例としては、スポーツ活動だけにとどまらず、大会・イベントへの積極的参加、勉強会の開催、地域におけるボランティア活動の実践などを行うグループも現れている。
 こうしたことからリハ・スポーツは生涯スポーツの定着率を高め、かつその後のグループ活動を通じて社会性の(再)獲得や社会参加の推進に貢献していると考えられる。

リハ・スポーツを実施するための社会的条件

 このようなリハ・スポーツ活動を展開するに当たって必要な条件として、「指導スタッフの確保」があげられる。当然、この分野に精通する専門指導員のかかわりが望ましいが、まだ確立していない分野での人材養成も今後の課題である。そこで、たとえば地域のスポーツ指導員が、その地域の障害者について最も状況を把握している保健婦と連携を図ったり、リハビリテーション専門スタッフとの協力関係を築くといった体制づくりが必要であろう。
 また、障害や障害者の運動について、医科学的な助言を得られる医師(医療機関)の協力も条件としてあげられる。参加者の運動実施上の留意点等については個々の担当医に相談し、助言を得ることが望ましい。
 施設側の受け入れ体制や交通の利便性など環境の整備、活動の継続を支援するボランティアの確保といった条件については、リハ・スポーツに限らず、障害者の社会参加を推進するための一般的な課題としてあげられる。

今後の課題

 リハ・スポーツを普及させるために、障害別、種目別の評価・指導方法を確立することが当面の課題である。また、障害者にとってより身近な地域でスポーツ参加の機会を提供できるよう、地域の医療・福祉施設やスポーツ施設との情報交換を進めていくことも重要である。

(みやじひでゆき 横浜ラポール・スポーツ課スポーツ指導員)