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大空をかけ水面をわたる
―滝川市におけるグライダーとカヌーをとおした障害者スポーツの取り組み―

日口裕二、長瀬文敬、庄野雅洋

空はみんなのもの
当たり前のことを当たり前に

 滝川市では、昭和56年よりスカイスポーツ(グライダー)をとおしたまちづくりを地域振興の一策として位置付け、各種事業に取り組んできました。施設面では、国や北海道の支援を受け、平成元年より「滝川航空公園事業」に着手。800メートル×20メートルの舗装滑走路や航空動態博物館(格納庫兼用)、管理棟(身障者対応)等を有する、日本でも有数のグライディングセンター「たきかわスカイパーク」が平成7年に竣工しました。また、運営組織として、平成元年には社団法人滝川スカイスポーツ振興協会を設立。航空機の運行にかかわるソフト事業を展開するとともに、施設管理を受け持つ行政の組織「教育委員会スカイスポーツ課」と密接に連携を取りながらスカイスポーツ振興を進めています。そして、これまでに14,000人余りの人たちを体験飛行により大空の世界へ案内してきました。
 障害者のスカイスポーツ活動参加への取り組みは、平成5年に開催したスカイスポーツイベント「スカイレジャージャパン’93」において、脊髄損傷により車いすでの生活を余儀なくされた元グライダーパイロットと、西欧諸国ではすでに当たり前のようになっているハンドラダー機(足のペダルを手で操作できるように改造したグライダー。当時は日本に1機しかなかった)を紹介。このことをきっかけに障害者に対する航空身体検査基準が見直され、このパイロットはグライダーパイロットとして正式に復帰することができ、あわせて障害者スポーツ活動参加への道を大きく広げることとなりました。
 また、平成10年には「空のノーマライゼーション」を柱に「スカイえきすぽ’98」を開催しました。これらのイベントをとおして、障害者のフライトに対する問い合わせが格段に増え、私たちも少しずつ障害者と接する機会が増えてきました。さらに、昨年から札幌を中心とした障害者(脊髄損傷による車いす生活者)グループと協調して障害者のフライト活動を支援するとともに、市内の障害者グループの体験飛行会や連合北海道主催「障害者にやさしい北海道検証の旅」の受け入れ等を行ってきました。
 特に私にとって印象的だったのは、初めての飛行を終えたある障害者の「障害をもっている人は、常に障害のことが頭から離れない。なのに、今日空を飛んでいるときには、障害のことが全く頭に浮かばなかった。こんなことは初めてだ」という一言でした。この一言が、どれだけ私たちを勇気づけたことでしょうか。私たちが考えていたとおり、空の世界では障害者を特殊な人と意識する必要は全くないわけですから。
 今まで身近に障害者と接する機会が少なかったため、障害者の抱える悩みを理解するまでには多少の時間がかかりましたが、福祉課や保健課といった障害者と接する機会の多い職員の協力も得ながら、障害者がフライト活動を行うために必要な知識や情報を増やしているところです。
 現在では、障害者をも含めた一般体験飛行はフライトシーズン(4月~11月)をとおして常時行っており、これまでに延べ100人程の障害者が大空の散歩を楽しんでいます。
 現時点での課題としては、障害者が「空を飛ぶ」ことについてはほぼ分け隔てがなくなったのですが、次のステップとして、障害者が健常者と同じように操縦訓練を行い、自分たちの力だけで大空を飛ぶことができるようになるための条件整備が必要だと考えています。具体的には、上記イベントで紹介したような機材を早期に導入するとともに、障害者がフライト活動を行うのに必要な法整備を進めることです。もちろん航空機を操縦するということは、比較的健常者に近い身体的能力が求められ、障害の程度によりまさにケースバイケースになるものと思われますが、基本的にはすべての人に「空を飛ぶ」という行為は開かれています。そして、障害者にとって健常者と何ら変わることなく行動できるという自信は、やがて生きがいとなって、障害者の心の中に醸成されていくはずです。
 「空を飛ぶ」という当たり前のこと(私たちは心からそう思っています)を当たり前のようにできる世界を求めて、私たちはこれからも空の世界をより多くの人に知ってもらう努力を続けます。そして、滝川市や北海道だけでなく、全国の障害者にスカイスポーツ活動への積極的参加を促していきたいと考えています。

一番の助言者は障害者
カヌー体験の受け入れ

 滝川市B&G海洋センターは、滝川市が財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団の協力により、平成6年7月に海洋性スポーツ・レクリエーション事業を軸とした実践活動と海事思想の普及を図るために建設したものです。
 当施設は、石狩川の旧河川であるラウネ川(三日月湖)を活用し、カヌー、ヨットを中心に、個人・団体を問わずいつでもだれでも老若男女が、海洋性スポーツ・レクリエーションを楽しむことができる施設(休館日は毎週月曜日・祝日の翌日)です。また、身体障害者を受け入れることができるように、スロープや車いす用のトイレも完備しています。
 近年、アウトドアブームや小・中・高校の体験学習活動の増加により、年間利用者が1万人を超えるようになり、開館当初は3人だったスタッフも平成8年には5人体制とし、利用者のさまざまなニーズに応えています。
 指導体制が充実したことにより、体験プログラムの内容を整備し、学校及び団体・グループに対しての体験内容の説明及び利用者側からのリクエストの打ち合わせ、引率者のカヌー体験が可能となりました。また翌平成9年には、一般・団体の利用促進を図るべく体験施設のPRを新聞・旅行雑誌などマスメディアを活用し、積極的に行いました。
 その結果、聴覚障害をもつ人のグループからの利用申し込みがありました。当初は、どのようにして、カヌーの指導にあたったらよいか迷いましたが、スタッフで話し合った結果、筆談で陸上シミュレーションを行い、転覆する確率の少ないカヤックのペアカヌー(2人乗り)の後部座席にインストラクターが乗艇し体験してもらうことになり、早速そのグループに話したところ、快諾してくれました。
 体験者の感想は、「最高!」とのことで、水の上からの視線で自然を観察したり、カワセミなどの鳥を見ることができ、感激してくれました。このことがきっかけとなり、障害をもった人でも、できる範囲で受け入れていこうという雰囲気が生まれました。
 平成10年には、福祉課からの障害者のスポーツ普及のアドバイスを受けながら盲学校・聾学校の体験学習、あるいは知的障害者施設の体験試乗など、手さぐりの状態ながら担当の先生方と打ち合わせを重ね、少人数ではありますが受け入れを行いました。
 さらに、今年の3月に福祉課から「8月の上旬に下肢障害や上肢障害の人たちにカヌーをぜひ体験させたい! 受け入れが可能だろうか?」と相談されました。私たちスタッフは、健常者と同様に障害者もアウトドアスポーツに興味を示してくれているのであれば、受け入れようということになり、早々に受け入れ可能の返答をしました。しかし私たちは、障害は障害でも下肢障害や上肢障害の人たちの受け入れをしたことがなかったため、どのようにその人たちを陸上からカヌーに乗り込ませ、水上へ出してあげられるか検討を重ねました。6月には、札幌で開催された身障者のカヌー大会にも出向きました。
 また、引率する方と障害の程度・部位などを聞きながら検討を重ね、安全性を重視するためツーリング用カナディアンカヌーとカヤックのペアカヌーの2艇を横に連結させ、使用することに決定しました。座いすを固定し、エアーバックを取り付け、乗降しやすいようにヨーク(1人でカヌーを運搬するときに使うもの)を可動式にして対応することとし、下肢がしっかりしていてある程度パドルを使える人は、介助者あるいはインストラクターがペアカヌーの後部座席に乗り、体験してもらうことにしました。
 当日は、天候にも恵まれ風も無風に近い状態で、絶好のカヌー日和となりました。体験者の方々には、水のある風景を思う存分に楽しみ、自然を満喫してもらいました。体験終了後には、異口同音に「とても楽しかったよ!」「水の上は、気持ちよかったよ!」「また、カヌーに乗ってみたいよね」など、私たちスタッフに声を掛けてくれました。
 私たちは、当初この団体の受け入れに戸惑いはあったものの実際に受け入れをし、体験してもらい、障害をもっていても何も変わることがないことを実感しました。
 今後、私たちスタッフは、障害者の方々にも海洋性スポーツレクリエーションをよりいっそう楽しんでもらうために、利用者の助言をいただきながら、カヌーの魅力をより多くの人に広げたいと思っています。

障害をもつ人がかかわることによって社会参加は広がっていく

 以上紹介したように、滝川市では体験型のスポーツとして、グライダーやカヌーへの関心が高まっています。
 二つとも新しいスポーツで、試行錯誤の連続ですが、障害をもつ人を受け入れるということに、実に素早い対応がとられています。それは何よりも、大自然と向き合っているスタッフには「空」や「川」はみんなのものという考えがあるからです。何かを楽しむことに障害のあるなしは関係がないと思っています。こうした職員やスタッフが障害者スポーツを、そして社会参加を推進してくれています。
 福祉の職員はこうした人たちがいてくれることで、障害をもつ人に「何かやろうよ」と声をかけることができるのです。
 同時に、障害をもつ人自身が関心をもち、実際に参加して体験をし、楽しむ人がいることによって受け入れ態勢の充実につながっています。
 いずれにしても障害をもつ人に限らず、社会参加やスポーツは、体験する側も援助する側も一緒に楽しまなければと思っています。

(ひぐちゆうじ 滝川市教育委員会スカイスポーツ課スカイスポーツ係長、
ながせふみたか 滝川市教育委員会スポーツ振興課海洋センター係長、
しょうのまさひろ 滝川市保健福祉部福祉課障害福祉係長)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1999年10月号(第19巻 通巻219号)