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フォーラム’99

平成11年度身体障害者介護等支援専門員
(ケアマネジャー)養成指導者研修に参加して

中込京子

はじめに

 平成11年7月12日から16日までの5日間、横浜市総合リハビリテーションセンターにおいて、身体障害者介護等支援専門員(ケアマネジャー)養成指導者研修及び知的障害者介護等支援専門員養成指導者研修が行われました。
 この養成指導者研修は、平成10年度より厚生省が主催しているもので、前回は身体障害者部会が名古屋市、知的障害者部会が三重県において行われ、今回は第2回目となります。今年度は両部会が同時開催され、全国から身体障害者部会には106人、知的障害者部会には101人の参加があり、参加メンバーは障害者更生相談所や障害福祉課等の行政機関、各種施設、自立生活センター職員などさまざまでした。参加者の方々はそれぞれが、今後、地域においてケアマネジャーの養成指導者として先頭に立つという目的意識を持ち、新しい制度について少しでも多くの知識を持ち帰ろうという意気込みすら感じられ、研修中はさまざまな質問も飛び交い、まさに熱気あふれるといった印象の研修でした。私は今回、横浜市から身体障害者部会に参加させていただき、その中で見聞きした内容を多少なりともお伝えできれば幸いと思います。

研修概要

 研修の全体の流れは、平成11年7月に発行されたばかりの『障害者ケアマネジャー養成テキスト』に基づいて進められ、講義はその作成にかかわった方々を講師として進められました。前半は、ケアマネジメントについての施策動向や、障害種別による生活ニーズについて理解を深める講義が中心となり、後半は、グループワーク方式による事例を用いてのケアマネジメント演習が行われました。

研修内容

●1日目

 身体障害者部会と知的障害者部会と合同で行われ、「障害者福祉の動向とケアマネジメント」、「ケアマネジメント概論」、「ケアマネジメントの基本的枠組み」、「障害の概念とその特性」の順に講義が進められました。その中では、平成11年1月に意見具申された「今後の障害保健福祉施策の在り方について」の内容が触れられ、今後の障害者福祉では、ノーマライゼーション及び自己決定の理念の実現のため「障害福祉サービスの新しい利用制度」が必要となること、「新しい利用制度」への移行にあたり、利用者の選択権や利用者と福祉サービス提供者との対等な関係を保障するため、障害者ケアマネジメントが重要となることが指摘されました。また、日本における「ケアマネジメント」は、高齢者を対象とした介護保険制度との関連において広まってきた傾向があることが指摘され、これは、障害者対象のケアマネジメントとは実質的には違いがあること、つまり、老後の生活を安心して穏やかに過ごせるように支援することに重点をおく高齢者のケアマネジメントに対し、障害者のケアマネジメントでは、これから人生を築いていく段階の若い障害者に対し、今後の充実した生活設計を支援するために、自立や地域支援、社会参加という観点がより重要になるということが指摘されていました。

●2日目

 肢体不自由児・者、聴覚・言語障害児・者、内部障害児・者、視覚障害児・者、知的障害児・者、精神障害者の障害特性による生活ニーズについての講義が中心となりました。障害当事者の講師もおり、個々の生活ニーズが実体験から語られるなど、より深い知識が得られました。また、「自己決定の尊重」を基本理念とするケアマネジメントにおいて、幼い頃からの環境や重度の障害により「自己決定」を行うことが困難である利用者に対し、どのようにケアマネジメントを展開していくか、ということが今後の課題としてあげられました。状況により、援助者側からメニューを提供することで、「自己決定」から「自己選択」への援助を行うという視点へ切り替えることが重要であることが述べられました。その他、聴覚・言語障害児・者、特にろう(あ)者や重複聴覚障害者に対するケアマネジメントの実践では、まずは利用者のコミュニケーション手段を的確に把握し、利用者が相談しやすい環境を整えることが重要であることが指摘されました。

●3日目

 地域生活支援として「地域リハビリテーションと社会参加」、「当事者支援による地域生活」、「福祉用具と環境整備」についての講義がありました。そこでは、地域・在宅リハビリテーションとは、「障害当事者とその家族に対し最適と思われる自立生活を確立する(生活スタイルの再構築を図る)プロセス」であり、社会参加を視野に入れたより豊かな生活を保障するため、地域において保健・医療・福祉を統合したサービスシステムを構築していくことが重要であることが述べられました。また、ケアマネジメント過程において、当事者相談員(ピアカウンセラー)がケア会議に参加することは、援助者の指導・教育的になりがちな視点に、利用者自身が何を必要としているのかを常に示唆する存在として重要であり、今後も各市町村において、ピアカウンセラーが積極的にケアマネジャーとして登用されていくことが望まれていました。

●4・5日目

 4日目はケアマネジメントの過程全体を把握するという目的で、ケアマネジメント演習が行われました。内容は、グループワーク方式により、事例をもとに実際にケアプランを作成し、モニタリング、ケアプランの修正を行うという形式で、グループごとにインストラクターが配置され、適宜必要な助言や事例の補足を受けることができました。事例内容は、脳血管障害・脳性マヒ・中途障害等の代表的な障害特性をもつ事例からなり、全部で6事例が提供されました。前半のケアマネジメントについての理論的な講義に加え、このグループ演習により、ケアマネジメントを実践するうえでの具体的な手順について理解が深められたことは確かですが、利用者主体という視点や、利用者とともにマネジメントを進めていくという理念をこの方法で把握していくことにはやはり限界があり、今後、地域での実践経験を積み重ねていくことが必要であると痛感しました。
 5日目の最終日は、沖縄県那覇市でのモデル事業実践報告があり、その後、研修のまとめとして、厚生省の助言を受け、地域での養成研修計画を企画する作業が行われ、最後は、前日のケアマネジメント事例の発表、モデルプランの報告という形で終了しました。

おわりに

 「ケアマネジメント」という言葉は、昨今ではあたりまえのように聞かれるようになりましたが、そもそも「ケアマネジメント」とはどのようなもので、どのような経緯で起こったのか、それは今後、新しい制度の中でどのように展開されていくのかなど、私の知識の中では曖昧なものでした。しかし、今回の研修を通して、わが国の障害者ケアマネジメントの動向を再確認することができ、今後の「新しい利用制度」において、どのようにケアマネジメントを展開していくべきかという方向性を改めて確認でき、今回学んだことを少しでも伝達・活用していくことができればと思います。

(なかごみきょうこ 横浜市障害者更生相談所)


【参考資料】
1 厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課監修『障害者ケアマネジャー養成テキスト(身体障害編)』中央法規、1999
2 平成11年度 身体障害者介護等支援専門員(ケアマネジャー)養成指導者研修(追加資料)
3 平成11年度 身体障害者介護等支援専門員(ケアマネジャー)養成指導者研修ケアマネジメント演習(演習マニュアル)