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ワールドナウ

ジンバブエ
ジンバブエにおける点字とコンピュータ

キャサリーン・ジャクソン

 1999年2月に国際図書館連盟・盲人図書セクション(IFLA/SLB)が主催する発展途上国における視覚障害者への情報サービスを支援するセミナーとして、アフリカセミナーが南アフリカのグラハムスタウンで3日間にわたって行われた。この会議には、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、日本、ザンビア、ジンバブエ、ウガンダ、ボツワニアおよび南アフリカ等から90人が参加した。2日目は「点字」と題するセミナーで、コンピュータを使って点字図書を製作している人々の発表があった。ジンバブエのシスター・キャサリン・ジャクソンが行ったドロシー・ダンカン点字図書館と点訳サービス活動の発表は感動的で、多くの企業や個人、ボランティアを積極的に動かした献身的なシスターに対し、大きな拍手が贈られた。
 以下は、シスターのスピーチの概要である。

ジンバブエにおける点字とコンピュータ

 ジンバブエは中央アフリカの内陸部に位置した国で、人口は約1,200万人。1982年の調査に基づく保健教育省の報告によると約10万人の視覚障害者がおり、そのうちの約2万人は学齢期の子どもであるが、現実には800人しか学校へ行っていない。伝統的にジンバブエの文化では、アフリカ全体がそうであるように、障害者は家族にとって何の価値もない者と考えられ、裕福な階層の子どもにしか教育の機会は与えられなかった。

コミュニケーションの手段としての点字―識字の権利

 識字の権利は国連憲章に記されているし、ジンバブエの憲法にも取り入れられている。理論的にはすべての子どもが学校へ行く権利をもっているのだが、使える教科書も教材もなくては、いくら校長といえども目の見えない子どもに対して責任を負いたがらない。しかも点字の本を作っても儲からないので、どの出版社もこのような事業に乗り出さない。政府はその憲法上の義務を果たせないか、あるいは果たす気がないので、そのようなサービスを提供するのはNGOの仕事となる。
 そういう状況の中で、比較的最近まで、点字は視覚障害者にとってコミュニケーションの主な手段であり、唯一の識字への手がかりであった。そのため今までも学校で教えられてきたし、現在でも教えられている。田舎の学校を訪問すると、子どもがテストの答えを点字盤と点筆で苦労して書いているのを見ることがある。点字盤と点筆で悪いことはないが、コンピュータ点字のほうがずっと簡単である。

点字とコンピュータ技術

 点字製作のためのコンピュータ技術は、視覚障害者の世界でここ何十年来の、二つの画期的な進歩をもたらした。一つは、個人作業用の点字キーボードを用いて点字および墨字印刷ができるコンピュータの使用、あるいは、標準英語キーボードと点字ディスプレイによるコンピュータの使用である。二つ目は、点字製作のために、目の見える人でも見えない人でも両方使える標準のパソコンの使用である。私たちはできる限り機器を統一しようと努めてきたが、多様な種類のプログラムや点字プリンタが国内で使われ、今もその種類は増えつつある。それらは皆よく似ていて、しかも扱う技術者のほとんどが点字の読み書きができないという共通点がある。
 ジンバブエの経済は農業をベースとし、また視覚障害者でコンピュータを必要としているのは最下層の人が多いので、点字コンピュータ技術は外国から輸入するしかない。そのための外貨は膨大で、その費用を支払える人はほとんどいない。援助機関(NGO)の善意や寄贈者に頼ることは健全でないが、残念ながら、今のところ仕方がない。私たちは自分たちで資金を生みだし、今の経済状態では不可能だが、「物乞い精神」から脱却できる程度に豊かになるという目標に向かって努力していこうと思っている。

点字プリンタ

 ティール、ポータティール、インパクト、ブレイロ、インデックス、ブレイルエクスプレスなどの各種の点字印刷機がさまざまな研究所で使われている。ティールとインパクトに関しては、英国のテクノビジョン・システム社(Techno Vision Systems)のサポートを受けているので、必要に応じて同社に問い合わせることができるし、ハラーレにいる技術者は機械の分解や組み立てを教えてもらっている。他のメーカーはここまでの態勢になってはいない。

点字と拡大文字

 現在、墨字本が弱視者のために拡大文字でも製作されるだろうという考えに基づいて、すべての本は点字とテキストデータの両方でディスクに収められている。しかしご存じのように視力障害は千差万別であり、それぞれに対応する拡大文字のプログラムはコストの問題を解決していない。データの保存の問題も、満足できるほどの解決に至っていない。しかし、ハラーレのコンピュータと財政の専門家は、その解決に向けて努力しており、今年の最も重要な課題であると考えている。

音声による出力

 ジョーズ、ウィンドーズブリッジ、スキャナ等の出現により、パソコンからの点字ディスプレイ出力は重要でなくなってきている。実際、パソコンの点字キーボードから点字を出力できるコンピュータを持っている経済的に恵まれた人はほとんどいない。そのため、彼らはフロッピーディスクや音声出力を個人的に行い、普通のインクプリンタで印刷して、他の人とコミュニケーションを行っている。このようなやり方は、専門的技術者に頼る必要がないので、彼らを社会のメインストリームにぐっと近づけてくれる。

人材

 南アフリカで点訳をしていたグループがジンバブエで点字の製作を始め、ドロシー・ダンカン点字図書館の当時のスタッフに点字プリンタでの出力フォーマットの規則を教えた。彼らは現在引退し、新しいスタッフがそれを学んでいるが、点字を学ぶ資質のある者を見つけるのは難しい。
 ジンバブエでは点字が少しできる人はたくさんいるのだが、熟練した点訳者はわずかしかいない。最初のコンピュータ点訳ソフトがこの国に来たときから、私たちは文書をコンピュータに入力する墨字タイピストを使い、それを点訳者の技術へとつなげることを方針としている。タイピストに点字の基礎を教えるほうが、点訳者にコンピュータの複雑な技術を教えるよりずっとやさしいからである。現在、大勢のタイピストが家やオフィスで働いており、センターに来て働く人もいる。文書をコンピュータで点字に変換している人は少数である。
 私たちは文書をコンピュータに入力するために大勢のタイピストと、何人かの点訳者を必要としているが、この人員の確保が最大の障壁であり、今のところ解決されていない。私たちは通信教育による研修を試みたが、難しい。
 また障害者のための教師を養成する大学は国内に一つしかなく、彼らは点字コンピュータを持っていないというのがこの国の現状である。

未来―雇用市場

 視覚障害者の職業は限られている。彼らは一般的に自立の意識は低いが、コンピュータはその考え方を変えつつある。音声出力を使い、点字ではなく、音によるコミュニケーションによって視覚障害者が点字をまったく使わずに社会参加できるようになった。企業は、視覚障害者のためにパソコンを買い、それに音声出力プログラムを搭載するよう勧められている。確かに、私個人で言えば、仕事で使うコンピュータを手に入れた人は道が開け、何かが始まる。視覚障害者が社会参加すれば、彼らが扱わなければならない書類の点字コピーの需要は増加するだろう。ドロシー・ダンカン点字図書館でもすでにこの試みがなされ、近い将来、企業でもそうしたことができる日が来るであろう。

結び

 ジンバブエには国内はもちろん、他のアフリカ諸国の需要をも満たすだけの点字の製作、管理能力、専門知識、経験そして国内外からの援助がある。財政が今のところ大きな問題であるが、忍耐と確信をもってすれば乗り越えられる。私たちは点字とその印刷物に関しては、大変明るい未来を期待しており、視覚障害者が、教育の低い段階に留まるべきでないと強く思っている。コンピュータ技術を可能にした人々をこの世に送られたことを神に感謝し、私たちを成功に導くために時間や専門知識、資金を惜しみなく提供してくださった方々に感謝します。

(キャサリーン・ジャクソン ドロシー・ダンカン点字図書館および点訳サービス、ドミニコ会シスター〔翻訳 仲道節子〕)