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シリーズ 働く 45

自閉症者の自立支援ホーム
「虹の家」を訪ねて

早坂博志

はじめに

 東北自動車道の「北上金ヶ崎」インターチェンジを下りて、数分のところ、岩手県金ヶ崎町六原に自閉症者の自立支援ホーム「虹の家」があります。梅雨明け間もない暑い夏の日、せみ時雨の森に囲まれたホームを訪れました。

設立の経緯

 虹の家は、自閉症の人たちのバリアフリーをめざし、社会福祉法人「フレンドシップいわて」が平成11年4月に設立したばかりの真新しい施設です。
 設立の経緯を石母田明施設長にお伺いすると、「これまでは、知的障害者へのサービスの中に自閉症者がおかれていましたが、ものごとのとらえ方や判断の仕方など基本的にそれぞれの障害の特性が違っており、80年代から自閉症者が中心となる施設づくりが進められてきました」とのことで、その後親の会が中心となり、県内初の施設として実現しました。従来の「訓練することによって一人前にする」という考え方を、ここでは訓練をするのではなく、利用者自身が経験することや周囲の環境を変えることによって自閉症者にもできることがあるという考えに立って援助を行っています。
 虹の家の定員は男性40人、女性10人の計50人ですが、現在は男性39人、女性6人の計45人が生活しています。養護学校を卒業したばかりの人や、これまでにも入通所の施設を利用していた人たちで、県内各地から集まってきています。

虹の家のめざすもの

 この施設の大きな特徴は、自閉症者に合った環境をどう整えるかという視点で支援が行われていることです。作業場面では、作業を細分化したり、より分かりやすく提示したりするなどの工夫により、一人ひとりの特性に応じてできることを見つけ、能力が発揮できるようにしています。生活場面では、できる限り普通の生活の延長としてとらえ、段階を一歩ずつ踏むように生活スキルを変えていくのではなく、最初から生活に必要な住環境を整え、提供しています。居室にも、それぞれが自分の好みに応じてテレビやラジカセ、ワープロ等を持ち込んで生活を楽しんでいます。そこには、事前に用意されたものをただ行うのではなく、環境を変えて自閉症者の能力を活用できるようにするなどの選択肢を用意することの重要性が強調されています。
 それに合わせて、虹の家を取り巻く地域の人たちからの協力も多く得られ、地域の中に自然に溶け込んで、地域全体でバックアップしようという基盤ができていることを感じました。たとえば、作業の中に農作業がありますが、農業の経験のある援助者が職員にはいないため、近所の方々がボランティアで協力してくれています。また、ハウスの組立を手伝ってもらったり、見るに見かねて草取りや野菜の支柱立てなども手伝ってもらっています。まさに、虹の家がめざすバリアフリーが実践されつつあるのではないかと思います。また、施設という枠に限定して生活するのではなく、地域の一員として生活するという姿勢がみられ、そのことも地域で温かく受け入れられている要因にもなっているのではないかと感じました。
 これらの取り組みを通じて、一人ひとりのできること、できないことを確認し、できないことについては環境を変えたり、人的援助を行うなどの支援方法を検討し、どう対応すれば利用者が地域で生活できるのかを模索し、援助していく体制づくりがなされています。

作業棟の活動

 作業内容は、「食品加工」「被服加工」「農業生産」「独自製品」「外部受注」「外部移動」です。
 食品加工は、山菜等の缶詰加工、真空パック加工や果実のジャム製造を行っています。工程を細分化することにより、だれにでもできる仕事を探し、その人のもつ能力を導き出しています。地域の人が採ってきた山菜も安価で加工し、このあたりにも地域と施設の共存が感じられました。
 被服加工は、端切れの布を使った裂織りを作っています。細く裂いた布を長く結んでいくのですが、ひも結びの上手にできない人は補助具を使って、作業をやりやすいようにしています。
 農業生産は野菜作りと椎茸栽培が中心です。畑作りは近隣の方々が先生役をかって出てくれています。椎茸のほだ木は無償で提供されたものですが、その切り出しや運搬はすべて園生が行いました。訪問した日はとても暑い日でしたが、みんながそれぞれのペースで近くの用水路から水を汲み、一生懸命水やりをしていました。
 独自製品は、牛乳パックの紙漉きや木工等で製品を作っていく予定です。
 外部受注は、地域の事業所から仕事を受け、稼働できるよう準備をしています。
 外部移動は、将来、会社の一角に作業場を設けてもらい、何人かのグループで移動しながらいくつかの仕事をこなしたりする就労形態をめざしています。近くの事業所から、清掃の仕事の依頼が寄せられており、その実現に向けて、今はホーム内の清掃で練習を積んでいます。
 自閉症の人たちはスケジュール管理が難しく、突然の予定変更などへの対応が困難です。
 また、口頭での指示ではなかなか理解が難しい面があります。これらについては、個別のスケジュール表を作成したり、時間ごとにやることを絵で示したりして、常に目で確認できるようにします。清掃場面では床に矢印を貼ったり、色の付いたシールを貼って作業手順が理解できるように工夫されています。こうすることにより、自分1人で手順を追って仕事をすることを可能にしています。
 職員の役割は、「本人たちが仕事をするための援助をする姿勢をもち、ひとつの仕事の中で、各人がどの部分に携われるか、その人のできる仕事を探し出してやること」と援助職員の金澤さんは話しています。また、同じく援助職員の佐藤さんは「普通の生活を送れるようにすることが大きな目標です」と、話してくれました。虹の家の自閉症者への新しいシステムづくりはまだ緒についたばかりですが、2人とも、その表情は生き生きとして確かな目標に向かって援助されていると感じました。

虹のかなたに

 今後の計画としては、3年後にグループホームをつくり、地域社会で働けるようにしたいということです。
 虹の家の入り口には、虹が半分かかっています。その先の虹は、これからの虹の家の活動と支援の取り組みに、利用者の未来が大きくかかっていくのだろうという思いで、虹の家をあとにしました。

(はやさかひろし 岩手障害者職業センター)