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知的障害と参政権行使
1.集団的選挙権の行使

河尾豊司

 私たちは、25年前から、知的障害者も日本国民の1人であるとして、20世紀的人権の代表格の一つである政治参画の基本的人権の行使を訴えてきました。憲法14条の理念の下、成人入所更生施設として施設もまた閉鎖的であってはならないとして、後述するような援助のサービスを行ってきました。現在、1000か所以上ある知的障害者入所施設の、参政権行使のほんの一例として理解していただければ幸いです。

 施設利用者は外出が好きなので、初めは楽しい散歩のつもりで、童謡を歌いながら、学園より1000メートル東にある投票会場まで投票に行きました。ご都合主義の施設内での投票などまっぴらご免で、とにかく好きな“外出”をして、そしてそのことが社会の啓蒙にもなってきたのです。

2.国民主権に基づく事前学習の徹底

 当学園成人部60人のうち9割の人は字が読めないし書けません。そのため、現行の選挙公報は役立ちません。それでも、基本的人権の下徹底した厳正さの中で、模擬投票を試み、投票習熟に備えました。さらにそれを補うために、立候補者を呼んで園内演説会を19年前から試みています。立候補者が、実際に自分の目の前に現れることで、だれを選んだらいいのか、投票に役立ててほしいからです。法的には公職選挙法161条の2を援用しました。さらに選管と協議して、自書能力のない人の代理投票では“指さし特定法”を投票方法として公認してもらっています。また、選挙のたびに選挙や政治家や主権在民等について、たとえ精神年齢が3歳であるとしてもきちんと説明するようにしています。

3.現行制度の改善点

(1)選挙公報・審査公報について

 まずは、ひらがなが読める人のためにせめてひらがなの選挙公報の作成か、漢字に振りがなをつけることを、立候補の条件としてはいかがなものか。また、多頁公報で混乱する知的障害者がいるので、1頁縮小版公報を作成してほしいと20年も訴え続けていることの実現。最高裁審査公報は審査を受ける裁判官の顔を載せて少しは視覚化に供すべきなどである。現行は全く誠意がなく、味がない。

(2)代理投票について

 代筆依頼の意思すら浮かばず、代理投票システムでも無効にならざるをえない多数の重度の知的障害の人の政治参加保障をどうするのか、井上英夫編著『障害をもつ人々と参政権』(法律文化社)等の文献を読み、真剣に考え悩んでいただきたい。

(かわおとよし 滝乃川学園成人部)