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精神病院入院中の精神障害者の政治参加

古屋龍太

 精神病院入院中の精神障害者に、政治参加する機会はほとんどない。全国33万人の精神病院入院患者の大多数は、選挙の際に投票に行けない。
 公職選挙法は病院内での不在者投票を認めている。しかし、選挙権はあっても投票通知が来ない。病院所在地が本人の住民登録地となっていないからである。
 住民登録にかかわる自治省通達によれば、入院が長期にわたる場合には病院所在地を本人の住所地として定めるよう指導しているが、実際に住民登録の移転がなされることはむしろ少ない。患者の住所地として病院が設定されれば、あらゆる行政の通知が入院中の本人宛に届くこととなり、本人にその行為能力がない場合には、病院職員が代行せざるを得なくなり負担となるため、病院側が拒否しているからである。
 また、精神病院の地域偏在は著しく、精神病院が所在する小規模市町村に、患者が集中することになる。長期入院患者をすべて病院所在地に住民登録すれば、自治体の国民健康保険は圧迫される。本人が世帯分離し、単身で無収入であれば、生活保護世帯が一気に増加する。自治省の指導は空文化しているといわざるを得ない。
 多くの長期入院患者は、居住の実体のない保護者の家に住民登録されており、本人宛の選挙通知は毎回行使されることなく廃棄される。家族が選挙通知を本人に届けても、投票のために外出が許可されることは少ない。入院中の患者の手元には、選挙広報などの情報も伝わらない。投票という権利を行使する環境がまず保障されていない。
 長期入院を強いられている精神障害者の参政権をめぐっては、次のような改善が必要である。
 1.本人の手元に選挙広報・投票通知が届くようにすること。
 2.本人が不在者投票できる病院内体制を整えること。
 3.居住地の投票所まで行けない場合には郵便投票・代理投票等も認めること。
 4.精神病院管理者に対し、入院患者の参政権行使を指導すること。
 5.入院患者の市民的政治的権利を擁護すること。
 しかし、これらは部分的な改善にとどまる。多くの精神障害者が病院内に長期収容されている現実を抜本的に改革しなければ、何も変わらない。精神障害者は、政治参加を含めたノーマライゼーションから、もっとも遠く離れたところにいまだに置かれている。

(ふるやりゅうた 国立精神・神経センター武蔵病院、精神保健福祉士)