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ケアについての一考察 第2回

理想のケアシステム

佐賀典子

 私の家族は夫と子ども2人、アイメイトが1頭います。夫と私は全盲です。
 現在、私たちが受けられるケアには次のようなものがあります。ホームヘルパー・ガイドヘルパーの派遣、この二つは市が行っている事業で、所得に応じた負担額がありますが、最低額は無料です。このほかに、生協が行っている助け合いの会、市が身体障害者協会に委託している自立支援プラザ、市の婦人部が行っているファミリーサービス、この秋スタートする生協の配食サービス等があります。これらは、1時間500~1000円位で有料です。
 このようなサービスを受けるうえで大事なことに、利用者側の節度というものがあると、私は思います。やってもらえば確かに楽、でも何をどこまでお願いしていいのか? それは人によってさまざまで、規則などで決められるものではありません。だからこそ私は、利用者が自分に厳しく、良識をわきまえて守らなければならない節度をもつべきだと思うのです。私はそれを「自分にはどうしてもできないこと、または他の人に比べ著しく非効率的なこと」と考えています。
 たとえば、掃除なら床の掃除機かけや水ぶきはできるから頼まない、でも風呂場のカビ取りは見えないとできないのでお願いするとか、買い物は基本的には自分でするが、車で行ってきてもらえば確かに効率的な場合や、重いものやかさばるものを運ぶ時はお願いするとか、といったように、いつも「これは頼んでもよい用事かどうか」を自分なりに考えてからお願いするようにしています。
 私が今、ここ盛岡に住んでいて一番ハンディを感じるのは、交通面です。ここは一家に1台以上の車社会です。そのため公共交通の便が非常に悪く、その割には、この不便さを補ってくれるようなサービスも充実していません。
 十数年前東京に住んでいた時、普段タクシーを使いたいと思うことは滅多にありませんでした。それだけバスや電車で用が足りていたのです。けれども私が住んでいた区では、1か月に10枚のタクシー券が支給されていました。ところが、こちらでは年間24枚しか支給されません。そのうえ、ケアの中でも車の使用はかなり規制されていて、市が行っている事業では、ヘルパーさんが車でいらしていても、ちょっとお金を下ろしに行きたいからと銀行まで乗せて行ってもらうことはできませんし、子どもを病院に連れて行く時も歩くか、自分でタクシーを頼むしかありません。買い物に行って来てもらえる範囲もごく近所のお店までと限られており、片道20分ぐらいのところまでの用事を頼んだ時も、即注意を受けてしまいました。
 最近、郊外にいろいろな施設が新しくつくられていますが、駐車場は完備されても、バス路線は敷かれなかったり、従来どおりの本数の少ないままだったりで、私にはとても不便です。
 この夏、娘が参加したツアーの事前研修会が、そうした郊外の多目的ホールで行われました。車なら家から20分ぐらいで行けるのですが、バスで行こうと思ったら、とんでもなく遠回りをするうえ乗り換えもあるため、3時間も前に家を出ないと間に合いませんでした。しかたなくタクシーで行きましたが、往復で5000円もかかり、割り切れない思いでした。「なぜもっと交通の便の良い所でやってくださらないのですか?」と、一言主催者に申し上げたところ、「全県から来られるとなると皆さん車でいらっしゃいますので、駐車場の広いところじゃないと」と、車社会の大勢主義のやり方をまざまざと見せつけられた思いでした。
 サービス全般に関して言えば、役所が行っている事業は上から下への一方通行的な感じがします。提供者と利用者の懇談会のようなものが行われていないことからも、それは言えると思います。サービス内容も規定が多く、融通が利かないところがあります。それは障害者の生活スタイルに対して固定観念があって、本当のニーズを把握しきれていないのと、起こりうるトラブルを警戒しすぎているからではないでしょうか。それに比べ、民間団体が始めたサービスでは、「困った時はお互い様」の精神を軸に、もちつもたれつの意識で、相互理解のための交流会なども積極的に行うなど、理想的な方向性をもっているように感じられます。
 同じ障害者でも、障害をもった時期、育った環境、住んでいる地域などによって必要とするサービスの内容はまちまちです。けれども、どんなに多種多様のニーズがあっても、その一つひとつに丁寧に対応してもらえる態勢が理想です。
 また、いろいろな人がいろいろな立場で、障害者のハンディを埋めてくれるようなサービスをしてくれることが、ヘルパーさんのような専門家の仕事を軽減することにつながると思います。一部の銀行や企業が始めた点字の残高通知、見えなくても使えるキャッシュサービスの機械の設置、点字の利用明細の発行、デパートの買い物ガイドなど、どれもみんなありがたいことばかりです。
 昨年から、うちの子どもたちの学校では成績表をテープに入れてくれるようになりました。このように、多くの人がそれぞれの持ち場で自分の得意なこと、できることを生かして、障害者のハンディを補うサービスに力を貸してくれたらすてきです。
 私が望む支援サービスとは決して人より楽をさせてくれるものではなく、健康な人、それもごく平均的な生活レベルの人と同じくらいの生活をするために、障害ゆえにできない部分を補ってくれるものなのです。そういうサービスがますます充実していくことを期待しています。

(さがのりこ  岩手県盛岡市在住)