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会議

RI総会で2000年代憲章宣言を採択

松井亮輔

 去る9月8日~10日、ロンドンで開かれた1999年国際リハビリテーション協会(以下、RIという)年次総会では、「2000年代憲章」及び、RIの機構改革などをめざす戦略プランなど、2000年以降のRIのあり方を方向づけるきわめて重要な議題が取り上げられました。RI総会メンバーは、各国加盟団体代表等から構成されますが、今回の総会には約90か国の加盟国のうち、39か国の加盟団体代表等約150人が出席しました。旅費などを工面することが困難なため、アフリカ、中・南米及びアジア等の途上国からの参加者はきわめて限られていました。このことは、RIが国際組織としての活動を展開していくうえで大きな課題であり、途上国関係者、特に障害当事者が参加できるようにするための中・長期的な取り組みの必要性が痛感されました。
 世界的不況の影響で会費を全納できない加盟団体が年々増えるなど、RIの存続をも左右しかねないような財政問題等を抱えながらも、まもなく迎える21世紀における障害者施策についての独自の構想を、今回の総会で2000年代憲章宣言として採択しえたこと(この宣言は、「2000年代憲章」のエッセンスを取りまとめたもので、憲章案自体はさらに修正のうえ、2000年8月下旬に開催されるリオデジャネイロでの年次総会で正式に提案される予定)は、障害分野でのRIの新たな世界的貢献として十分評価されてしかるべきと思われます。
 以下、2000年代憲章宣言を中心に紹介します。
 RIが憲章という形で障害者施策について提言するのは、今回で2回目になります。最初の憲章は、英国初代障害担当大臣を務めたアルフレッド・モリス上院議員を委員長とする「RI世界計画グループ」によって起草され、各国加盟団体やアジア・太平洋地域等、各地域委員会等での検討を経て、1980年6月カナダのウィニペグで開かれた総会で採択されました。
 新たな憲章及び宣言は、起草委員会(実質的な責任者は、アーサー・オラーリーRI会長)が中心となって原案づくりが行われましたが、幅広い高度な立場から助言するために組織された「世界計画グループ」(委員長は、80年代憲章の際と同じくモリス英国上院議員。メンバーには、理論物理学の世界的権威ステファン・ホーキング博士などの著名人が名を連ねている)メンバーや、各国主要関係者からの意見等を踏まえて修正されたものが、ロンドンでの総会に諮られました。同総会では、宣言については、一部字句修正などを条件として満場一致で採択。当初の予定では、総会終了直後に同宣言をトニー・ブレア英国首相に献呈することになっていましたが、修正作業に手間取り、印刷が間に合わなかったため、実現できませんでした。
 RIではこの宣言を、原則として12月3日の国連障害者の日に各国加盟団体からそれぞれの国の政府首脳に献呈するとともに、今後、RI関係会議を開催する国の元首等をRI会長が表敬する際、直接手渡すことなどを通して、その宣言に盛り込まれた障害者施策の実施に向けて国際的な働きかけを行っていくことになります。

80年憲章と新憲章宣言の違い

 80年代憲章では、「新しい10年にあたり、障害の発生を減らし、障害者の権利が尊重され、障害者の完全参加が歓迎される社会づくりをすべての国の目標としなければならない」と宣言し、その実現のため、1.障害の予防、2.リハビリテーション、支援及び援助サービスの提供、3.地域社会への障害者の統合と平等な参加の確保、4.障害の予防・治療、障害及び障害者の能力などについての市民啓発の四つを列挙。そして、各国はそれぞれの状況に鑑み、これらの目的達成のため総合的な国内計画を立てるよう勧告する、としています。
 それに対し、2000年代憲章宣言では、「私たちはすべての社会においてあらゆる人びとの人権が認められ、保護されるようにするという決意をもって、新世紀を迎える。本憲章はこのビジョンを現実へと変えていくこと」を宣言するとし、その実現に向けて次のことを提案しています。
1.障害を人間の多様な状態の普通の部分として受け入れること。
2.障害者が他の人びとと同じ人権及び市民権を確保できるようにすること。
3.障害者を地域社会生活に完全統合するため環境上、電子情報上、態度上のあらゆる障壁を取り除いて、交通手段、情報技術、教育、公的サービス、雇用等、地域社会の資源にアクセスできるようにすること。
4.政府開発援助(ODA)による途上国の社会基盤整備事業について、最低限のアクセシビリティ基準が条件づけられるようにすること。
 そして各国は、この宣言に表明された目的を実現するため実施期間を明確に定めた総合計画を策定しなければならない、と強調する一方、これらの目的を達成するための鍵となる戦略として国連・障害者権利条約の制定を呼びかけています。
 以上の対比から明らかなように、80年代憲章と比べ、2000年代憲章宣言では障害者の人権、市民権及びアクセス権などにより大きな重点が置かれています。特に、国連・障害者権利条約制定が提案された背景としては、1975年の国連・障害者権利宣言や、93年の国連・障害者の機会均等化に関する標準規則等が、強制力をもたず、それらを踏まえた国内施策を進めるかどうかは、あくまで各国政府の判断に委ねられてきたために、あまり実効が上がっていないことへの反省があります。
 また、国連・障害者の機会均等化標準規則の各国での実施状況をこれまでモニターしてきた特別報告者B・リンドクビスト氏(スウェーデン元社会大臣)の任期が、2000年8月に切れ、いまのところそれ以降、障害者の完全参加と平等をさらに推進するための国際的な手立てがないことから、同条約の制定はそれを打開するためのさらに強力な手段と見なされています。もっとも、2000年の国連総会でたとえこの条約が提案され、加盟国の賛成多数で採択されたとしても、それが実施されるには各国での批准手続きが必要であり、したがってこの条約が実効を上げうるまでには、相当な期間が必要となります。RIとしては、そうしたことを十分認識したうえで、その実現に向けて息の長い取り組みを開始することを決断したわけです。
 2000年のRI年次総会では、憲章自体の提案と合わせ、RIの機構改革を盛り込んだ戦略プランが提案されることになっていますが、RIが新世紀においても、障害分野で国際的なリーダーシップを発揮しうるかどうかは、これらの提案の実現にかかっています。そうした意味では、次回の総会及びそれに併せて開催される世界会議(テーマは、「21世紀における市民権と多様性」)は、RIにとってまさに大きな転換点となると思われます。

(まついりょうすけ RI副会長)