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街なか探検隊 Vol.19

東京
寅さんの故郷、
葛飾柴又は人情味あふれる町

曽利真一

 「私、生まれも育ちも葛飾柴又。姓は車、名は寅次郎。人呼んでフーテンの寅…」。このせりふで始まる映画『男はつらいよ』の、寅さんシリーズで有名になった柴又の観光案内を、今回はお届けしたいと思います。

門前町

 柴又は奈良の正倉院に収蔵されている養老5年の戸籍に載っている古い歴史の町です。その頃は「島保」と記され42戸、370人が住み、一世帯当たり9人の大家族で暮らしていた、と地元の神社「柴又八幡神社」の拝殿の後ろにある古墳には記されています。
 それから7、800年後に、日蓮宗の開祖である日蓮御上人が、自身で刻んだとされている自画像を祀り、建立されたのが経栄山題経寺という名の「柴又帝釈天」です。以来700年以上もの間、老若男女が参拝に集まり、家内安全・商売繁盛が祈られてきました。
 そしてフーテンの寅さんで有名になるまでは、60日に一度の庚申という縁日だけが賑わい、その他の日は、バラモンの神様帝釈天という戦の神を祀った寺院として、株屋や勝負師等が、江戸川で採れる川魚料理を楽しみつつ参拝していたということです。
 そのため芸者さんもいたし、時折、端唄や三味線の音が聞こえたりもしていました。

時代の推移での観光地

 以前はどこもかしこも田と畑。世界第一の都市、東京というまちに自然がイッパイの柴又も、映画とバブルの影響をまともに受けて、どんどん変わっていきました。寅さんシリーズの第1作目では砂利道だった道路も、48作目には立派な舗装道路になっています。マンションも建ちました。当たり前ですネ。
 工場だった場所が、2年前から「柴又富士」と名づけられ、名所になりました。
 いろいろな場所が、急激に変わっている町、それが柴又。そんな柴又の現実を頭に入れていただいてから、町をご案内いたしましょう。

柴又へのアクセス

 柴又は、帝釈天をメインとした観光地です。その周辺を散策しながら、東京に残っている地方の匂いを楽しむのが、正しい楽しみ方だと私は思います。
 まず京成電鉄、柴又駅で下車します。柴又駅はスロープが完備していますから、車いすでも大丈夫です。しかし、なぜか京成電鉄は柴又駅だけに立派なスロープを作っているのですが、その他の駅にはありません。乗り換えや、途中で下車する時は十分調べてからお乗りください。
 自動車で柴又を楽しむには、駐車場が江戸川の河川敷に用意されています。たくさん停められますし、値段も格安です。「寅さん記念館」では、障害のある人自身が車を運転して来館する場合は、事前に寅さん記念館(TEL03-3657-3455)に電話をすれば駐車場を確保しておいてくれるそうです(確かめてきました)。

柴又の楽しみ方

 柴又になかなか行けないという人には、一般ルートが最もよいでしょう。しかし、近いから何度でも行けるという人には深い楽しみ方を、後半でお教えしたいと思います。
 一般用ルートでの観光とは、門前で団子屋さんを何軒かのぞいて、お店の人と気が合うか否か、味はどうかなどを自分で確かめてみるのも、楽しいことです。ですから少しずつ注文してみるのがよいかもしれません。友達と、分け合って食べるのが一番です。
 お煎餅を、1枚買って食べながら歩くのも楽しいものです。でも、1枚だけ買うのは勇気と愛敬が必要です。売り手も人間ですから、1枚だけ買う人にも、それなりの遠慮とマナーが必要だというのが下町のルールです。その気合いを楽しむのも、小さな旅の楽しみ方だと思います。
 参道を進むと、50メートル足らずで帝釈天の山門に到着します。左手の御神水で手と口を洗ってから参拝します。
 境内は、狭いのですが拝殿や祖師堂、客殿鳳翔会館などがあるので、見学コースのパンフレットを信徒会館でもらうのがいいでしょう。
 帝釈天の山門を出て、すぐに左の道を進み、南門から再び左に曲がって、100メートルほど歩くと「山本邸」に出ます。「山本邸」は、工場の跡地を葛飾区がバブル全盛期に購入し、「寅さん記念館」と共に建設、補修した名所の一つです。大正期に建てられた旧家の住まいが、いかに立派で、かついかに不便で住みにくいかがよく分かります。
 そこの庭を突き抜けると、「寅さん記念館」に着きます。「山本邸」の正門を出ると目の前にそびえているのが、「柴又富士」です。それを登ると、江戸川の土手に出られます。江戸川には、368年続いている都内で唯一の手漕ぎの渡し舟が運行されています。以上が、一般的な見学コースです。

特別な柴又の見学方法

 前述したように、急激とも言える変化の中で柴又は、観光客の多さに戸惑う一般人が住む町です。ですから、私と姉、2人とも電動車いすに乗ってしか外出できない者としては、普通の人以上に戸惑っています。
 障害者手帳1級の姉と私だけで、日々の生活を送ることができるということは、柴又に住む人々が、いかに障害のある人に優しい手助けができる人々かという証だと思います。
 たとえば、35年間通っている床屋さん「帝釈バーバー」のご夫妻。私をいすまで運んでくれ、顔を上に向けたまま頭を洗う方法を考えてくれました。ご夫妻の障害を感じさせることなく扱ってくださる、さり気ない心の触れあいにも感謝しています。また、「寅さん記念館」のすぐ近くのお好み焼屋さん「風車」では、入口の20センチ以上ある段差に、ご主人手作りのスロープが、3回目に行った時にはできていました。
 駅前のコンビニも、柴又で一番古いスーパー「きくや」でも、奥の物や高いところの物は、さっと取ってくれます。姉と私だけではなく、お年寄りにも優しい店で、少しぐらい大店舗より値段が高くても、配達付きなどのサービスのよさで繁盛しています。
 門前のいろいろな団子屋さんも、電動車いすでも大丈夫な場所を探して用意してくれると思います。でもあまりにも混雑している時には、障害者であるかどうかは忘れられてしまいますので、ご注意を!

柴又から

 柴又だけを散策するのならば、どんなに時間をかけても1、2時間で隣の町に行ってしまいます。葛飾の名所として、ほかに水元公園・堀切菖蒲園・亀有公園前派出所などがあります。すべてが、自転車で30分以内で行くことができます。一度は来てみてください。お待ちしています。

(そりしんいち 葛飾区やさしい街づくり委員)


*葛飾区の各種情報は、次のホームページをご覧ください。
http://www.wakate.com/

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2000年1月号(第20巻 通巻222号)