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障害のある子どもたちは、いま vol.16

障害児と家族(2)
-きょうだいの会と専門機関・団体に望むこと-

田部井恒雄

 障害をもつ人の兄弟姉妹(以下「きょうだい」という)は、子どもの時から障害をもつ人(以下「障害のきょうだい」という)との生活が始まるので、その一生を通して課題を抱えています。しかし、その課題の感じ方、取り組む姿勢は人によってずいぶん違います。そのもとの要因は障害の内容や程度、家族の状況、社会の理解、制度等による違いなのですが、私には、幼児期の環境が大きく影響しているように思えます。家族が安定していれば比較的ストレスの少ない育ち方ができるはずです。それを援助するのが専門機関(行政機関、教育機関、福祉施設等)や当事者団体(親の会、きょうだいの会)です。
 最近はずいぶん充実してきたと思いますが、「きょうだい」の視点はあまり考慮されていないように思えます。そこで、今回本稿で「きょうだい」の願いを訴えるとともに、会の存在を知っていただく機会にもしたいと思います。

全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会
(略称きょうだいの会)

 1963年、1人の青年が新聞に投書し、「1人だけで苦しむのはよそう…」と会の結成を呼びかけ、私たちの会は発足しました。なによりも同じ立場の「きょうだい」が励まし合いたいと考えたからです。
 会の事務局には、よく相談の電話がかかってきます。その場で答えられないものはその分野に詳しい会員に連絡したり、役員会で話し合って回答したりしています。また施設の見学をしたり、講演会を開いて勉強したり、正確な知識や情報を得ることも大切です。このように会では、会員同士の交流、相談、研修、機関誌の発行、調査研究、行政への働きかけ等を行っています。首都圏には若い会員たちの自由な集まりもあります。
 きょうだいの会では、同じ課題をもつ仲間・先輩として、正確な情報とノウハウの提供を通して「勇気」を共有していきたいと考えています。
 私たちは「きょうだいとは、それぞれが自立して支え合う存在である」と考えています。「障害のきょうだい」であっても、「保護」される存在ではなく、(健常の)「きょうだい」の人生を縛る存在でもありません。もちろん、社会の援助を受けて「自立」することも含めてです。

年齢によって変わる課題と必要な援助

 きょうだいのもつ課題は年齢によってずいぶん違い、変化します。それに伴い必要な援助も変わります。次のようにまとめることができると思います。

1.幼児期

 この時期は最も大切な時期だと思います。うれしいことに、きょうだいの仲がよいという声はたくさん聞きます。この時期によいきょうだい関係があると、将来も支え合えるきょうだいとなるように思います。
 1995年にアンケート調査をしましたが、家族への支援を求める「きょうだい」の声がたくさんありました。「普通の家族らしくなかった」「親が自分にあまりかかわってくれなく、さびしかった」等です。いつも「障害のきょうだい」を中心にするのではなく、時には(健常の)「きょうだい」を中心にした時間をもってほしいと思います。今日はお父さんが「障害のきょうだい」をみて、お母さんは「きょうだい」と1日付き合うというような家族の工夫や、最近広まってきたレスパイトケア等の家族支援に期待します。親の苦労を見ているためか、何でも言うことを聞く「良い子」が多いのですが、上手に甘えさせてほしいと思います。
 また大事にしていた物を「障害のきょうだい」に壊されてしまったが、母親から「おまえが悪いと言われたのが悲しかった」というような声もよく聞きます。親としてもどうしてよいか分からないのでしょう。このような場合は、療育機関や親の会が「きょうだい」についてアドバイスをしてほしいと思います。
 どの年齢についても言えることですが、何といっても母親が日常生活の大部分を担っており、そのストレスは計りがたいものがあります。その母親を精神的に支えるのは父親です。母親に心のゆとりがあれば「きょうだい」も母親に八つ当たりされることも少なくなるでしょう。

2.学齢期

 学校などでのいじめが辛かったという声がとても多くありました。しかし、いじめられた憶えはほとんどないという「きょうだい」もいます。その違いは、先生方が障害をもつ生徒をどう理解し、対応しているかによるようです。障害児教育のありかたも含め、教職員の理解について強く改善を求めたいものです。

3.思春期

 だれでもこの時期は大切です。自分の周りのことが分かってくるとともに、自分の将来について考えはじめます。それまでいつも「障害のきょうだい」と一緒に遊んでいた「きょうだい」が離れていくように思える時期でもあります。「きょうだい」は、普通の悩みに加えて「障害のきょうだい」がいることの悩みや不安を抱えています。それがその子を消極的にすることもあるかと思います。しかし、一見しっかりした子でも、このことは自分から親には言えないものです。親から子どもに話しかけてほしいと思います。その悩みや不安とは次のようなものです。

●いじめのこと・家族のこと・障害のこと・自分と「障害のきょうだい」の将来のこと等

 障害のことはもうきちんと「きょうだい」に話してあげてよい年齢です。将来のことは特に不安です。親は、「将来はあなたが頼りだ」「おまえには心配をかけないから自分のことだけを考えればいい」「せめておまえだけは良い学校に行って…」など考えはさまざまですが、いずれも「きょうだい」にとっては辛いことです。現実は、いつかはほとんどの「きょうだい」が親に代わって「障害のきょうだい」の世話をするのです。このことは親にきちんと認識してほしいことです。そして、先輩の仲間や専門家、学校の先生に相談しながら将来の見通しを示してほしいと思います。「きょうだい」も親と一緒に専門機関等に行って話を聞くこともよいでしょう。一方、専門家や先生はこのことをしっかりと認識してほしいと思います。
 ここで注意してほしいのは、「世話をする」ということは「同居する」のとは違うということです。たとえば、「障害のきょうだい」は施設やグループホームなどで生活し、「きょうだい」はいろいろな相談にのったり、施設やホームの職員と協力することなどです。しかし、安心して託せる施設ばかりではないのが現実です。不安と後ろめたさをもちながら「障害のきょうだい」を施設に託さなくてもよいように、施設等のレベルアップを求めたいものです。

4.青年期

 この時期の心配事は、何より「きょうだい」自身の結婚です。アンケートの結果ではほとんどの「きょうだい」は普通に結婚しています。しかし、一部の人は深刻な悩みをもっています。結婚はその考え方など個人差も大きいと思いますが、将来の不安から必要以上に消極的になることもあるようです。実際、アンケートでも、結婚前の不安は大きいという結果でした。将来の見通しをつけることがこの時期にも大切です。偏見の強い地方もまだあるようです。
 仕事の心配は少ないようですが、なかには親が福祉の仕事に進むことを望む例もあるようです。自分から進んで選ぶようにしたいものです。
 この時期には、私たちきょうだいの会で正確な情報を得たり、互いに励まし合うことができます。

5.壮年期前半

 結婚すると「きょうだい」の考え方は変わることが多いようです。それまではよく「障害のきょうだい」を遊びに連れて行っても、「きょうだい」も自分の家庭をもつとそちらのほうが大事になるのは自然です。しかし、「障害のきょうだい」のことはいつも気になっています。

6.壮年期後半~高齢期

 親が「障害のきょうだい」の世話をすることが難しくなってくる時期です。私の場合も最近、弟とのかかわりが多くなりました。施設を利用している「障害のきょうだい」を施設まで送ったり保護者会に出席したりする人も増えてきました。子育てが終わった女性の中には、それまで施設にいた「障害のきょうだい」を自宅に引き取って一緒に暮らし始めた人もいます。そのような日常的な負担に加え、経済的負担も急激に増えてきます。特に、グループホームなどを含め、地域で生活をしている「障害のきょうだい」は収入が少ない場合が多く、「きょうだい」が経済的に援助しなけばならない場合も増えてきます。笑い話のようですが、親が言っていたように「自分は弟より先に死ねない」と言う人もいます。福祉制度のよりいっそうの充実を求めたいものです。

おわりに

 「きょうだい」の中にはいろいろな方がいます。半分程度の「きょうだい」はさまざまな課題に前向きに取り組んでいるようですが、施設に面会にも来ないというようなきょうだいもいます。しかし、きっと心の片隅で「障害のきょうだい」のことを気にやんでいることと思います。私たちきょうだいの会は、その人たちのためにももっと会の存在を知らせていかなければならないと思っています。現状では専門機関も「きょうだい」のことを十分に理解しているとは限らないので、私たちのようなきょうだいの会等との連携が必要と思われます。

(たべいつねお 全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会副会長)


●連絡先
きょうだいの会本部
〒136-0073
東京都江東区北砂1-15-8
地域交流支援センター内
TEL03-5634-8790
FAX03-3644-6808
インターネットホームページ
(URL)http://www1.normanet.ne.jp/~100074/jabs/

●年会費
 正会員 6,000円(上限)
 賛助会員4,000円