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介護保険と精神障害者

池末亨

介護保険制度と障害者施策との適用関係等について

 厚生省から出されたこの文書では、精神障害者については全く触れられていない。しかし、今後障害者施策の統合化が進むにつれて精神障害者施策にもさまざまな影響が出てくると思われるので、いくつか危惧している点を述べる。 
 まず、身体障害者療護施設など6種類の施設入所者を介護保険の対象から外している点である。保険料を払わないですむというメリットは確かにあるが、それよりも基本的にすべての国民の権利としての介護保険制度の対象からこれらの施設入所者だけが外されるという基本的な問題点を指摘したい。厚生省はその理由として、
1.当該施設から介護保険におけるサービスに相当する介護サービスが提供されていること 
2.当該施設に長期に継続して入所している実態があること
をあげているが、これらのことは重度障害者更生施設にも当てはまることである。さらにこの文書では、身体障害者療護施設等を退所すれば介護保険の対象になるとしている。
 つまり、入所者のその時々の状況で対象になったりならなかったりするわけで、そうなればこれらの施設以外でも同じような扱いをしなければ整合性が保てない。現実的な問題として、低所得者の多い重度障害者の経済的な負担に大きな差が出てくることは問題である。すべての障害者を介護保険の対象にしたうえで、所得に応じた経済的負担の軽減措置を取るべきである。
 私は基本的にはどんな重度障害者でも、施設は永遠の住み家ではなく必要に応じて利用すべきものだと思っている。介護保険の対象から外すことにより、これまで以上に地域社会に出て行く途が閉ざされてしまいかねない。6種類の施設の中に生活保護法による救護施設が含まれている。救護施設には多くの精神障害者が入所しており、その中のかなりの施設が近年、終の棲み家からの脱却をめざしたさまざまな模索を始めている。こうした取り組みに水を差すことになりはしまいか。
 別の角度から見てみよう。今年3月6日の「障害保健福祉主管課長会議資料」によると、知的障害者のホームヘルプサービスの対象に福祉ホームやグループホームの利用者を加えるとしている。グループホームはそもそも住居なので、制度発足時からホームヘルプサービスの対象であるべきだったのだが、施設である福祉ホームもその対象に加えることは、施設そのものの性格を大きく変えることとして歓迎したい。将来的にはすべての施設が利用者と職員だけの場所から脱皮すべきである。入所者が外部から派遣されるホームヘルパーを契約に基づいて利用し、日中は地域社会のさまざまな場所に集団ではなく、個人個人で出かけていくようになれば施設と地域社会の垣根がなくなり、日本の施設の大きな問題である閉鎖性も払拭される。介護保険のもつ機能がそうした部分に発揮されることを期待したい。

5年後の改正を見据えて

 1999年4月1日厚生省から出された「障害者介護等支援サービス体制整備推進事業の実施について」によると、身体障害者、知的障害者のケアマネジャーは介護保険制度における介護支援専門員受験資格者となっている。精神障害者のケアマネジャーは精神保健福祉士などとなっており、幸いなことに介護支援専門員という縛りはない。この半年の介護支援専門員の動きを見ると、対象者の生活全般を見るのではなく、まさに身体的機能(痴呆も含む)だけしか見ていない。これは彼らに責任があるのではなく、要介護認定基準そのものの問題であるが、介護保険の5年後の見直しで、これがそのまま障害者にも適用されたらどのようになるのか不安である。
 全国精神障害者家族会連合会では、1997年から98年にかけて大がかりな精神障害者のホームヘルプサービスについての実態調査を行った。そこで特徴的だったことは、食事・掃除・洗濯などの家事援助と併せて、話し相手、相談助言、人間関係づくりが非常に大きな比重を占めていることであった。おそらく身体障害、知的障害についても同じことが言えるであろう。ホームヘルパーの、そしてケアマネジャーの役割は一人ひとりの生活全般のニーズを把握し、それぞれが自分の人生を自分で選択し、充実した生活が送れるよう援助していくことである。高齢者の介護保険の轍を踏まず、5年後の見直しの時には、高齢者のケアマネジメントが障害者のケアマネジメントに限りなく近づいて統合されることを期待する。そのためにも、これからの数年間の障害者介護等支援サービス体制整備推進事業を通して、しっかりした展望がもてるようになるかどうかが重要である。
 1999年度から全国でいっせいに実施されている障害者介護等支援サービス体制整備推進事業(試行事業)で、精神障害者分野では精神保健福祉士などが生活全般の課題を視野に入れながら実施していると聞く。身体障害者、知的障害者の分野で介護支援専門員という縛りのあるケアマネジャーが、果たして生活全般を視野に入れながら試行事業を実施しているのか不安である。

(いけすえとおる 全国精神障害者家族会連合会理事)