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ほんの森

日比野 正己編著
図解バリア・フリー百科

〈評者〉八藤後猛

 本書の特徴は、教科書的な著作物とは対をなすもので「日比野氏こだわりのバリア・フリー論集」である。内容はたいへんエキサイティングである。徹底的にバリア・フリーにこだわり、“挑戦する”日比野が随所に展開されている。最近話題の「ユニバーサル・デザイン」は、『バリア・フリー・デザインを「障害者など特定のデザインである」と歪曲するなら礼を失する』と、バッサリである。こうした挑戦的で、痛快な記述があふれている。
 内容は、「親孝行のすすめ」から「ゴミ拾い」を通して地球環境の保全、「読書法」まで、その内容は幅広く、筆者らの懐の深さをうかがわせる。読者は、本書を読みながらしっかりつかまっていないと振り落とされそうである。読書法は、日比野氏の著書の絶賛であり、バリア・フリー年表は、さながら筆者の業績集である。日比野氏を知らない人でもこれを読めばその偉大さにひれ伏すであろう。日比野氏の著書をもっと読んでみたい、触れてみたいと思ったあなたは“日比野ワールド”の住人である。
 共著者らは日比野氏によってよく統率されている。というのは、著者の多くは日比野氏に師事した人たちである。氏の言う画期的な「HM教授法(日比野式とでも言うのでしょうか)」によって育った人たちである。それぞれの書いた内容はしっかり教え込まれた「広い視野で社会を見据え、心を大切にする」という一貫したスタンスがある。これだけの人々を輩出する「HM教授法」とはどのようなものか。むしろ私の関心は、次第にそちらへ移行してしまうのである。しかし、これは読者を巧みに“日比野ワールド”へ誘導していることに気づく。マイッタ。
 個性豊かな本書の素晴らしい点は羅列しきれない。そこで、あえて欠点を述べる。本書の、かわいいイラストと美しいカラーページにつられて「福祉の入門書」と思って初学者が購入すると、とんでもないことになる。というのは、流れはやはり事典である。読者は、いきなり最高の知見と思想の展開に目がくらんでしまう。次に、若い学生さんがこれを読むと、“日比野ワールド”へと誘われてしまうであろう。教員である私は、これには警戒感を抱くのであるが、「どうすれば学生を引きつけられるか」お悩みの大学教員には、一読の価値があろう。

(やとうごたけし 日本大学理工学部建築学科)