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精神医療の立場から
1 現状と問題点

浅井邦彦

 わが国の精神障害者施策は、1900年の精神病者監護法による私宅監置、1950年の精神衛生法制定により私宅監置の廃止と社会防衛的見地も加味された入院中心の病院精神医療が推進されてきた。精神障害者の人権擁護と社会復帰の促進を柱とした精神保健法が1988年に施行され、病院からコミュニティーへという方向が法の中で初めてうたわれた。さらに精神保健福祉法で、精神障害者福祉を積極的に進める方向が示され、欧米先進諸国と同じ路線を歩んできてはいる。
 しかし、人口万人対28床に対し、居住施設0.6床(障害者プラン最終年の平成14年度末でも1.5床)という現状は、脱施設化と急性期入院治療中心の欧米先進諸国の精神医療施策とは異なった様相である。その結果、精神科病院の機能分化も遅々とした歩みであり、全病床数の22%を占める精神科医療費は5.1%に過ぎず、平成12年の診療報酬改定で、精神科医療費はマイナスとなっている。精神科医療のみ他科の入院医療費の2分の1以下であってよいのか?質の高い医療とリハビリテーションを提供するには、医師、看護及びコ・メディカルスタッフによるチーム医療が十分に機能しなくてはならない。精神科専門療法としての技術料の評価は極めて限定され、低い点数である現状を大きく変えていく努力を精神医療関係者はしなくてはならない。

2 展望

 わが国の精神科医療、福祉の将来展望-進むべく道を、私見であるが、簡潔に述べてみたい。入院医療は多くの問題を抱えており、いわゆるNew Long Stayに対するストラテジィと共に、多くの Old Long Stay(5年以上長期在院者)に対するしっかりした戦略が重要である。Old  Long Stay患者群の一部は、病状が重症で、薬物療法抵抗の難治例であるが、その他の中等症から軽症群については、欧米先進諸国で進められているような部分入院または、昼間病院(デイ・ホスピタル)としてのデイケアまたはデイ・ナイトケア、ケア付き居住施設等(永住可能な)を含めた多様な居住リハビリテーション施設が整備されれば、ある程度の患者群は社会復帰可能である。
 米国では、25年前には州立病院を中心に人口万対30床を超えていたが、現在は司法精神科病床万対2床を含め、人口万対13床に減少し、種々の居住施設は万対15床で、トータルで人口万対28床である。バンクーバーモデルで知られるカナダでも20年前、万対35床あった病床(州立病院中心)が、現在は万対16床(司法精神科病床万対2床を含め)と種々の居住施設は万対11床で、トータル人口万対27床である。システムの違いはあるが、わが国の至適病床は、すでに万対20床以下の在院患者数の自治体が10余りみられることからすると、永住可能な居住施設を含めた居住プログラムを十分に整備(人口万対8~10床)することができれば、人口万対20床程度まで減床することは可能であろう。そうすれば、精神科病院の機能分化が十分に進み、急性期~亜急性期病棟では、一般医療とほぼ同水準のマンパワー配置(コ・メディカルも含めて)が可能となり、診療報酬上の差別もなくなる世界が実現するのではないか?
 コミュニティーケアも「ケアガイドライン」の制度化に伴い、新たな精神障害者地域サポートシステムがすべての障害者を対象として、介護保険制度とは別体系で実現する可能性がある。今後の精神科医療・福祉の展望が、現実となる日は10年先となると予測している。

(あさいくにひこ 日本精神神経学会・理事)