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雇用・職業の立場から

倉知延章

 精神障害者に対するわが国の職業関連施策は、労働省と厚生省で実施されているが、その歴史は浅く、身体障害者や知的障害者(以下、身体障害者等という)と比べて遅れていると言わざるを得ない。それは、障害者の概念が、病気が治癒したあとに障害が残った者としてとらえられていたため、病気と障害を併せもっている精神障害者は、障害者ではなく病者として扱われ、もっぱら医療施策のみの対象とされており、職業関連施策の対象から外されていたからであると言える。
 職業関連施策の始まりは、1982年に国際障害者年推進本部による「障害者に対する長期計画」と、同年に厚生省が「通院患者リハビリテーション事業」を開始したことと言えよう。労働省では、1986年に「職場適応訓練制度」を精神障害者にも適応させたことが始まりと言える。
 本格的な施策の始まりは、1988年の「障害者の雇用の促進等に関する法律」と「精神保健法」の施行である。これにより、精神障害者も公共職業安定所の障害者窓口において、正式に障害者として求職登録され、職業相談、紹介を受けることができるようになり、授産施設などの社会復帰施設が設立できることになった。
 その後は、それまでの遅れを取り戻すかのように、労働省では、1992年に精神障害者に対する公共職業訓練の実施、身体障害者雇用納付金制度に基づく助成金制度の適用、特定求職者雇用開発助成金制度の適用などの前進がみられ、障害者雇用率制度の適用を除けば、ほぼ身体障害者等と施策上の差はなくなってきた。厚生省でも、1995年に「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」が施行され、精神障害者福祉工場の創設が明記され、身体障害者等と形の上では同等となった。
 そして現在の流れは、あっせん型雇用支援センターの設立を中心として、より市町村レベルで支援すること、精神障害者ジョブガイダンス事業や精神障害者自立支援事業の制度化など、労働側からの医療福祉との連携・接近などが特徴的である。まだまだ労働省関連の利用が少ない現状では、流れとしてはよい方向に行っていると思われる。
 今後さらに望まれることは、1.障害者雇用率への参入及び雇用の義務化、2.就労支援担当者の、相談・評価、訓練、就職活動支援、就職後のフォローアップ等の専門的支援技術の向上があげられる。また、1.短時間から徐々に労働時間を増やしていく、2.入職初期に人的支援を強化する、3.気楽に試験的に働いてみる、4.事業主に対する助成期間を延長する等の点を踏まえた、精神障害者の特性に適した制度の創設が望まれる。
 さらに、短時間労働でなければ難しい精神障害者に限って、事業主と個人との雇用契約ではなく、障害者集団を形成して登録し、そこと事業主が雇用契約を結ぶような制度もぜひ実現させたいものである。

(くらちのぶあき 精神障害者地域生活支援センター「風と虹」センター長)