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ハイテクばんざい!

パソコン要約筆記

高橋郁后

1 パソコン要約筆記とは?

 聴覚障害者の情報獲得には、手話、筆談などの情報保障(※)が必要です。その中のパソコン要約筆記は、話しことばを文字化して伝える手段の一つです。
 聴覚障害者が参加する講演会などでは、いくつかの情報保障を依頼します。
 聴覚障害者はその中で一番自分に合った情報保障を選択します。たとえば、今まで聞こえていて突然聞こえなくなった中途失聴者は、手話も読話も知らないため、それに慣れるまで、また覚えるのに時間がかかります。
 そこで、改めてそうした努力をしなくても、その場ですぐに活用できる手段が「要約筆記」です。要約筆記には、手書きによる要約筆記とパソコンを使った要約筆記があります。
 パソコン要約筆記は、聴者の入力者が講演者などの言葉を聞いて、その場でパソコンのキーボードを使って入力したものを、聴覚障害者に表示して伝える方法です。
 会議などで、聴覚障害者が1人だけの場合、隣の人にパソコンで会議の内容を要約して入力してもらうことができます。講演会など、聴覚障害者が多数参加する場合は、講演者が話した内容をパソコンを使ってリアルタイムに入力し、講演者の横に設置したスクリーンに表示します。
 スクリーンに表示できるのは文字ばかりではなく、工夫によって、講演者の顔も表示できます。たとえば聴覚障害者の集いの記念講演会などでは、大型スクリーンを左右に分割し、講演者の顔の画面と手話通訳者の画面を映し、さらにその下にパソコンで要約した文字を表示することができます。
 歌詞などの表示では、カラオケ風に文字を反転させるといったソフト上の工夫をすることによって、利用者側が見ても、今どこを歌っているのかが分かります。このように、パソコン要約筆記は工夫次第でいろいろなことができる可能性を秘めています。

2 パソコン要約筆記の機材設置方法

 入力者が1人で、利用者が1人または2人の場合、利用者の隣に入力者が座り、エディターなどで発言者の言葉を要約して打ち込みます。入力者が複数の場合、交代で発言者の言葉を要約して打ち込みます。この方法では、LANを用いて入力者のパソコンをつなぎ、専用のソフトを使って自分以外の入力者が発言内容のどこを入力しているかを確認しながら交代で入力することができます(連携入力と言います)。
 主な使用ソフトにはIPTALK(アイピートーク)やTACH(タッチ)があり、初めての入力者でもタッチタイピングさえマスターしていれば、簡単に複数で連携入力ができます。
 入力された文字はパソコン上はもちろん、プロジェクターを通してスクリーンに映しだすことができます。また、こういったソフトは利用者が見やすいように文字の大きさ、色、書体などを調整できる機能が付いています。いずれも利用者の視点に立って開発されたソフトです。以下のホームページにこの使用ソフトがありますので、アクセスしてみてください。
IPTALK http://homepage1.nifty.com/iptalk/
TACH http://www2t.biglobe.ne.jp/ ̄yusuitei/soft/

3 今後の課題

 現在、パソコン要約筆記活動が普及していく一方で、利用者が「いつでも」「どこでも」そのサービスを受けられる派遣体制にはなっていません。
 中途失聴者・難聴者の活動で、一番大切な情報保障の依頼窓口である各地域の派遣元の中で、パソコン要約筆記の派遣制度を整えているところは圧倒的に少ないのが現実です。今後は、難聴者が気軽に依頼できる派遣体制づくりが必要になってきています。
 手話通訳者が「手話通訳士」として登録し、また地域でも登録・派遣制度が用意されているように、パソコン要約筆記の担い手も事前に登録し、その活動が仕事になりうるような資格制度が必要と感じています。手書きの要約筆記者の登録については、各地域で、すでに登録・派遣制度があります。パソコン要約筆記者にも同様に必要だと感じています。
 パソコン要約筆記者が、登録・派遣という制度の下で仕事として活動できるようになれば、その役割や派遣状況に合わせた責任範囲を検討する必要がでてきます。
 また、さまざまな情報保障の手段を、その派遣の状況に合わせて連携できるようにすることも必要になってきます。それぞれの情報保障のメリットなどを活かし、その場にふさわしい情報保障手段を選択できれば、利用者にとって、より分かりやすい情報保障の利用が可能となります。

(たかはしいくみ 東京都中途失聴・難聴者協会)


(注)情報保障:聴覚障害者に音声情報を伝える手段のこと。手話通訳、要約筆記などがあります。