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シリーズ 働く 54

知的障害者授産施設「銀河ステーション」を訪問して

高橋利明

はじめに

 熊本市内から車で約50分、今回訪問した授産施設「銀河ステーション」は、緑に囲まれた玉名郡菊水町の住宅街の中にあります。施設内にあるガラス張りの喫茶店で、施設長の阿部るり子さんにお話をうかがいました。銀河ステーションは定員20人の知的障害者通所授産施設ですが、知的障害者のほかにも身体障害者や精神障害者など多くの相談者や実習生が訪れています。

設立の経緯

 昭和59年、地域に根ざして生きていきたいと小さな療育の場をつくった、障害をもつ親の会「青いりんごの会」が銀河ステーションの原点です。その後、おもちゃ図書館や重度障害者のデイサービスなどの活動を経て、社会福祉法人「青いりんごの会」として認可を受け、平成10年6月に知的障害者通所授産施設「銀河ステーション」が開設されました。
 ちなみに、この興味を引かれる名前の由来は、法人の理事長が宮沢賢治を尊敬しており、賢治に関係のある名前にしたかったからということです。また、自立していく障害者の旅立ちの場にしたいとの願いも込めて「銀河ステーション」と名付けたそうです。

「銀河ステーション」の活動内容

 銀河ステーションでは、地域に開かれた施設であること、自分たちで何かを作り出すこと(自主生産)を基本にしながら、喫茶店、パン工房、陶芸工房の三つを活動の柱としています。

1 喫茶店

 「だれでもが気軽に遊びに来たくなるような開かれた施設にしたい」そんな思いから、喫茶店の設置を考えました。銀河ステーションをめざして道路から入ると、一番手前に喫茶店があります。喫茶店の玄関は施設の玄関とは別になっており、街の人たちが気軽に立ち寄れるよう配慮されています。30席ほどの落ち着いた明るい店内では、有機栽培豆を使ったコーヒーや手作りの食事を楽しむことができます。
 職員1人、施設利用者3人の態勢ですが、接客は施設利用者が行っています。接客は、料理を出すタイミングやその順序など覚えることが多いため、マニュアルを紙に書き、さらにロールプレイを繰り返すことで練習したそうです。
 私自身も昼食を食べさせていただきました。少し緊張気味のようにも見えましたが、礼儀正しい真剣な接客でおいしい食事を運んできてくれました。また、喫茶店前のステージでは、「銀河ステーションダンサーズ」が楽しいダンスを披露してくれました。
 オープンから2年、毎年2000~3000人の見学者で喫茶店もにぎわっていましたが、3年目を迎え、見学者に代わって常連さんや一般のお客様が着実に増えています。加えて、夏にはオープンカフェ、クリスマスにはイルミネーションフェア、陶器や絵の展示会の開催などでさらにお客様が増えるよう努力しているということでした。
 また、施設利用者が毎週近隣の独り暮らしのお年寄りを訪ね、安否確認のボランティア活動をしており、敬老の日にはパンや箸置きを贈ったり食事に招待したりして、喜ばれています。

2 パン工房

 原材料にこだわりをもち、「きざみ梅干し入り梅アンパン」などほかにない独自の味を作り出すことに努力しており、障害者が作っているから買ってほしいという考えを捨てて、本当に魅力がある商品作りを考えているところです。昨年から、東京のホテルに勤務していたパン職人の方を講師に迎え、職員3人、施設利用者13人の態勢で国産小麦と自家製手作りカスタードなどを使って、20数種類の無添加のパンやケーキ、クッキーを焼いています。昨年は、新商品の開発や製造個数の増加に取り組み、学園祭やバザー等のイベント時のパンの注文も、応じきれないくらいに増えました。
 また、販売は、施設内の喫茶店での販売、物産館等での委託販売のほか、施設職員と利用者で毎日役場や学校等を訪問しての販売も行っています。販売で地域の人とかかわりがもてることも、施設利用者の喜びや自信となっています。

3 陶芸工房

 「菊水窯」という窯元の陶芸のプロでもある副施設長の指導を受けながら、職員2人と施設利用者7人の態勢で箸置きやアクセサリー、小物等を製作しています。技術的に難しい部分もあるようですが、その人に合った作業を続けていくことで技術的にも上達しており、ろくろに向かっている利用者の姿もありました。こうしてできた作品は、施設内の喫茶店はもちろん、県内外の物産館や民芸品店などで幅広く販売しているほか、結婚式の引き出物や記念品の注文も受けています。
 また、地域の人々との交流を目的とした陶芸教室と出前陶芸教室も行っており、陶芸教室では、毎週木曜日に、地元の人たちが施設利用者に混じって陶芸を学んでいます。出前陶芸教室では、県内外の保育園や学校などを訪問して、利用者がたくさんの人たちに陶芸を教えることで、地域とのつながりをつくり出し、たいへん喜ばれています。同時に、利用者の皆さんは、教えるということが誇りになり、熱心に作業に取り組んでいます。

これからの「銀河ステーション」

 銀河ステーションでは就労支援、生活支援、家族支援を三つの柱と考えて取り組んでいます。しかし、施設だけでその機能を果たすことは不可能であり、むしろバックアップ施設として地域のいろいろな社会資源を有効に活用したり、ネットワークしていくことが、引き続き今後の方針です。
 そして、実際にこの7月からは、職場での失敗により自信をなくしている人や、就労先の見つからない人たちのステップアップのため、同じ菊水町内にある、古民家の野外博物館「肥後民家村」内に、軽食と土産物のお店と、陶芸の実演展示販売のお店をオープンさせました。
 また、毎日、保護者の訪問や電話での相談を受けながら、高齢になった人や精神障害を併せもつ人の地域生活をどうサポートするか、家族をどう支えるか等の課題に対して、現在のグループホームや自立体験ステイに加え、さまざまな取り組みを考えていかなければならないということでした。

最後に

 「障害者が作った物だから売れる」のではなく、「魅力があるから売れる」という言葉が、とても新鮮に感じられました。また、施設利用者が生き生きと楽しみながら作った「作品」が、同時に、売れる「製品」であるということが、とても頼もしくうれしく感じられました。
 ここ銀河ステーションは、その名のとおり、障害をもつ人たちの自立への旅立ちの場になってくれそうな、そんな期待を感じさせてくれる場所です。
 なお、ホームページ(http://www.ginga-station.com)にもぜひアクセスしてみてください。

(たかはしとしあき 熊本障害者職業センター)