音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

地域に根ざし、顔の見えるサービスを
~置賜障害者雇用支援センターの1年を振り返って~

菅洋一

はじめに

 「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正(平成6・9年)により、訓練施設を整備する「施設設置型」と、授産施設などに併設する「あっせん型」という二つの形態となった障害者雇用支援センターは、「福祉部門と雇用部門の連携を図りながら、地域レベルでの継続的かつきめ細かな支援サービスの提供」を目的としています。
 平成12年6月現在、全国各地に「設置型」13か所、「あっせん型」16か所といった状況です。
 東北・北海道では初めての「あっせん型」として、平成11年4月に知的障害者総合援護施設「コロニー希望が丘」の授産施設に併設される形で開所した「置賜障害者雇用支援センター」の現状と課題について、1年間の取り組みを通して報告したいと思います。

「置賜」について

 山形県の南部に位置する置賜地方(3市5町)を管轄区域としていますが、神奈川県全域とほぼ同じ面積であることや、公共職業安定所が2か所あることなど、利用者の利便性を考慮して、同じ法人内の授産1・救護1、別の法人の経営する通勤寮1・授産1の合わせて四つの施設と提携するとともに、雇用支援センターと通勤寮との間で「地区担当制」をとっています(山形方式と言われています)。

支援の流れと実情

 具体的には、就職希望あるいは現に就職されている人を対象に、
 1.相談・訪問
 2.職業評価・職リハ計画
 3.拡大ケース会議・個別カリキュラム(ここから支援対象となります)
 4.基礎訓練・職場開拓
 5.雇用支援・定着支援
といった基本的な流れに沿った支援サービスの提供に努めていますが、平成12年3月までの1年間の相談は53人、このうち支援対象となったのは23人、また、昨今の社会情勢の中で、新たに就職をめざすということは非常に厳しく、雇用に結びついた人は1人だけといった状況です。
 また、支援対象とならなかった人については、高齢であったり、生活面の相談が中心となる人がほとんどで、他機関への紹介を行うとともに、雇用支援センターがすべてを解決できるわけではありませんが、「身近な窓口」として、情報提供や相談などを継続して行っています。

ネットワークづくり

 こうした中で、障害者職業センター、公共職業安定所、福祉事務所、保健所、病院、養護学校、福祉施設など各機関との密接な連携とともに、企業や商工会あるいは自治体との情報交換を行い、地域支援のネットワークを構築することが重要な課題であると認識しているところです。
 また、昨年度開始された労働省と厚生省の一体的事業である「障害者就業・生活総合支援事業」の「拠点づくり試行的事業」も実施しており、この中で、前述した各関係機関と養護学校卒業生の保護者などで構成する「運営協議会」を開催し、支援のあり方や各機関の連携・役割などについて検討しています。
 さらに、この試行的事業では、養護学校在学生を対象とする「体験入寮」という取り組みもあり、現場実習期間や土日などに併設・提携施設を利用して、事業所やグループホーム見学などを行うものですが、卒業後の進路に関する教育・労働・福祉の新たなネットワークづくりとして期待できるものです。

「サポートセンター」について

 希望が丘では地元町内に7か所のグループホームを設置・運営していますが、昨今の雇用情勢や生活環境の変化など、支援の重要性が見直され、昨年度よりバックアップ体制の強化・充実として「地域福祉課」に2人の担当者を配置しています。
 しかし、施設が丘陵地にあることや、路線バスも廃止という交通の利便性などを考えると、利用者の身近なところで相談や支援を行うための「拠点」が必要でした。
 このことは、雇用支援センターが開所以来抱えていた課題でもあり、「何とかしなければ」という思いで検討を重ね、今年1月、町内にある職員宿舎の一室を借りて「サポートセンターおきたま」を開設しました。
 ここでは、グループホームの利用者や世話人をはじめとして、地域の人の生活や雇用に関する相談・支援、レクリエーション行事などさまざまな活動の「拠点」として、雇用支援センターの職員と合わせて4人のスタッフが中心となり、地域福祉課の協力を得ながら土日もオープンしています。
 8か月を経過した現在、平日はスタッフが事業所訪問や関係機関との連携、地域の人の相談などを中心に行っていますが、休日には昼食会やハイキングなどホーム利用者の活動の場として、そして、ボランティア講座など地域の人々との交流の場として、少しずつ町の中に溶け込んでいるように思います。

今後の課題

 雇用支援センターには「運営マニュアル」があり、支援の流れと、各機関の連携が記載されています。しかし、この1年間を振り返ってみると、なかなかマニュアルどおりには進まなかったというのが実感です。
 中央の都市部と違い、企業の絶対数や交通機関、社会的資源などが不足している地方においては、一つの企業にしがみついていくことが必要であり、通勤範囲も限定されるため、企業開拓に多くの時間を費やすことになります。
 また、雇用支援よりは生活支援を必要とする人が多く、相談や支援の窓口と併せて、日中の活動の場を創りだしていくことも重要な課題であると思われます。
 さらに、グループホームに関する課題として、地域の強硬な反対意見により開設を断念したという事実があります。「ノーマライゼーション」の理念と、住民の「生活圏」という意識の間で、自分の暮らす場所さえも決められないというのは非常に残念です。
 粘り強く、理解を求めるための努力を続ける以外に道はないのでしょうか…。

おわりに

 自己決定・規制緩和・地方分権を柱とする社会福祉の基礎構造改革の中で、障害者施策は「施設から地域へ」「措置から契約へ」という「システムの変革」が進められようとしています。
 また、平成13年には労働省と厚生省の統合が予定され、雇用と福祉の一体的な支援がスタートするとの期待が寄せられるわけですが、施策を具現化するのは「人」と「地域」であり、支援にあたっては「利用者主体」と「ネットワーク」が重要であることを痛感した1年でした。
 「地域に根ざし、顔の見えるサービス」を提供するために、より多くの機関やスタッフが連携・協力していくことが大切であり、そのための基礎づくりが始まったという認識のもと、今後の活動に努力していきたいと願っております。

(かんよういち 山形県社会福祉事業団置賜障害者雇用支援センター)