音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

紀南障害者雇用支援センターの取り組み

北山守典

施設内訓練の重要性について

 私どものあっせん型障害者雇用支援センター(以下、雇用支援センターという)は、精神障害者の就労支援を主に対象とした全国で初めての雇用支援センターで、平成12年4月に労働省の認定を受けました。対象地域は設置主体の田辺市を中心とした1市9町村で、人口は約14万5千人と過疎化の波に洗われている地方です。対象エリアについては山間部・海岸線と広範囲にわたり、移動については少なからず時間を要します。雇用支援センターの運営主体である社会福祉法人「やおき福祉会」(以下、法人という)は、平成8年に認可されて4年目になる法人です。法人では雇用支援センターをはじめとして、地域の精神障害者を対象とした地域生活支援センター「陽だまり」、通所授産施設「やおき工房」、生活訓練施設「ゆうあいホーム」、小規模作業所「ハモニティ」、グループホームの「クローバーホーム」、就労に就くための施設内訓練所である売店「ピュア」の7か所を経営しています。
 雇用支援センターの職員体制は所長を含め就労支援ワーカー4人、生活支援ワーカー1人、調理員1人、計6人のスタッフです。雇用支援センターは朝7時15分にオープンし、仲間は事業所に通勤する前に一度立ち寄ります。職員はそこで彼らと共にコーヒーを飲みながら、前日の仕事がどうであったか、また勤務後自宅に帰ってからの生活の様子を上手に聞き取り、その日の朝の顔を素早く読み取って少しずつ心を和らげ、なごませて気持ちよく職場に勤務できるように常に心がけています。就労メンバーの多くが服薬しているため、どうしても朝が弱く、頭がすっきりしないことが多く、すぐに仕事を始めることができない時があるため、朝のひとときのカウンセリングは重要です。日々そうすることによって互いに信頼関係ができるメリットがあり、朝、顔を見るだけでもその日の調子が分かるようになってきました。

連携によるサービスの提供

 雇用支援センターのメンバーの多くがやおき工房やピュアで基礎的な作業訓練を受けてきた人たちでしたので、当初はメンバーの能力に応じた職場開拓を進めていけばよかったのですが、7月ごろからは地域で生活している障害者も面接するようになりました。そこで、和歌山障害者職業センターにメンバーの職業評価を依頼して科学的な分析をお願いしているところです。その職業評価を基準とした職業リハビリテーション計画に基づいて職場実習計画を策定しています。それらと並行して、陽だまりと連携しながら、メンバーの特性や障害、生活実態の把握に努めています。総合的な角度から判断して、随時陽だまりと雇用支援センターとの間で生活支援ケース会議を行い、就労支援力リキュラムを策定しています。法人内でも定期的に就労・生活支援調整会議を開催して、関係機関・施設間の連携強化に努めています。

雇用支援センターのジョブコーチの役割

 障害者の具体的な就労支援の実施にあたっては、施設内作業訓練と職場実習訓練にウエイトを置いています。職場実習については、グループで事業所に派遣している関係上チームワークを乱さず、和を大事にするメンバーを中心に送り出しています。雇用支援センターでは、就労と生活支援をどのようにマッチさせていくかが大きな課題ですが、今後もこのような取り組みを続け、就労支援の形態を模索しながらいくつかの答えを出していければと思っています。
 最近、田辺地方でも経済不況の波をもろに受けてリストラをされた知的・身体障害者の就労相談が多くあります。職業安定所に毎日通い、障害者求職登録をしても現実には就職に結びつくまでには至らないケースが多く、雇用支援センターに来所して話す相談内容には深刻さが伺われます。
 雇用支援センターでは、まず本人にどうして働きたいのかを聞き、本当に働きたいのかを確かめながら面接しています。それは本人の意志か、それとも家族の勧めで来所したのかが重要ですので、同じことを聞くわけです。本人は働きたいと言っているが、何か裏に隠された部分がないか、生活が苦しいので働いて経済的な余裕を求めているのか、家族が社会復帰をうるさく言うのでとりあえず施設での福祉的就労を希望しているかを注意深く聞き分けています。特に大事なのが本人の希望する職業と職業評価に基づく就職とのギャップです。すぐに就職するのではなく、実習訓練を受けた後に職場実習を予定しているので、本人に選択を求めて納得し、理解してもらったうえで職場実習同意書をもらうようにしています。
 職場実習については、ジョブコーチと一緒に職場実習に入り、グループ作業が中心の職場での作業配置については、ジョブコーチが事前にメンバーに説明を行っています。ジョブコーチとして一番気をつけているのは、障害の異なったメンバーが同一の事業所で訓練を受けているため作業能力に問題はないのか、その日の事業所内でのポジション配置はこれでいいのかなどです。また精神障害の特性の一つとして状態の波の振幅があり、発病前と回復途上での自我のギャップ、経験不足、長期入院による社会経験の乏しさや自信のなさから実力以上の高望みをする場合が多く、このことが就職を難しくしています。そのために職場実習等を通じて働くことの意義や職業理解について受容的態度で指導することを私たちは心がけています。これを理解しないで精神障害者の就労対策はあり得ません。その意味からもジョブコーチの役割は大切で、雇用支援センターや事業所と連絡・相談を密にしながら、調子が悪い時にはある期間休息を取りながら再度職場復帰するという試みを行っています。ジョブコーチがそばにいることによってメンバーには安心感があり、ジョブコーチの説得にも素直に応じています。このような事態についての対処は即断しなければならず、本人は職場復帰がもうできないとの思い込みが強く、相当悩むため即応性が求められます。事業所には前もって病気であることを知らせ、常に相談することが大事であり、ただ送り込むだけでは障害者の職場定着化は難しいと思います。実際の作業では絶えず本人に理解可能な具体的な指示を心掛け、作業内容も初めは簡素化することが大事ですが、慣れてくれば与えられた部署の仕事に習熟し、高度な内容の仕事も十分にできることがジョブコーチの体験を通して分かってきました。

障害者の就労状況

 本年4月以後の雇用支援センターへの就労登録者は、3障害全体で33人、内訳は身体2人、知的4人、精神27人で一般就労者17人、職場実習組2班6人、施設内職場事前訓練所5人、工房作業訓練組5人となっています。また、公共職業安定所からの問い合わせが毎月10数件あり、日々忙しさに追われています。就労・職場実習受け入れ事業所は17社を数え、現在就労支援ネットワークづくりを精力的に推し進めているところです。メンバーの主な職種については保険代理店の事務員、建設業のプログラマー、社会福祉協議会のホームヘルパー(2級)、組立作業員、スーパーレジ店員、店舗等のバッグヤード、製造工、加工員等と、多職種にわたっています。

今後の課題

 将来的には、障害者の職場開拓と就労支援は一つの組織では行わず、いかに社会資源を有効に使い、互いの専門性を活かすためには官民あげての就労支援ネットワークづくりが重要となってきています。それらと同じくして、雇用支援ワーカーの育成が急務であり、現在この分野での立ち遅れは否めません。本格的に質の高い、より専門的な知識と、社会経験が豊富なキャリアを持った人を育てていかなければ本当の意味で障害者の就労支援ができないと思っています。労働のほうばかりに目を向けるのではなく、障害によっては医療側の協力が必要となるため、常にホットラインのレールを敷いておかなければ適切な就労支援もできない事実もあります。医療としての立場と就労支援をめざす雇用支援センターとでは、現実にいくつかの基本的な違いがありますが、メンバーが地域で普通の暮らしを願っている以上、それに応えていくのが障害者雇用支援センターの使命であると思います。

(きたやまもりかず 社会福祉法人やおき福祉会紀南障害者雇用支援センター所長)