音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

ネットワークで支援
福岡県障害者雇用支援センターの取り組み

    国武英里子

1 施設型雇用支援センターとは

 1994年から始まった新しい就労支援制度のひとつとして、施設型雇用支援センターは誕生しました。北は北海道から南は宮崎まで、現在13か所の雇用支援センターが、各地域のニーズに合わせて個性豊かな業務を展開しています。
 「雇用支援センターの業務は何ですか?」という質問を頻繁に受けるのですが、私自身満足に回答できた試しがありません。
 「障害者の雇用の促進等に関する法律」が定めるところでは、重度身体障害・知的障害・精神障害のある人を対象として、職業準備訓練と就職後のアフターフォローを行うことが業務の柱だということができます。もちろんそれらの業務は当然のこととして、膨大な「就労生活にかかわるすべてのこと」に着目しながら支援を行っています。13の雇用支援センターそれぞれには、地域性と利用者のニーズが独自に存在するため、雇用支援センターという名称が同じであってもその業務の中身はさまざまです。

2 福岡障害者雇用支援センターのあゆみ

 私の所属する福岡県障害者雇用支援センターは1996年に業務を開始し、現在までに約50人の就職(一般就労)を支援させていただきました。その間約60人の利用者(今年度を除く)があったことを考えると、就職難と言われ続けた昨今にしては悪くない就職率だと言えます。
 しかし50人のうち、開所から2年目までに就職した16人のその後には、大変厳しい現実が待っていました。自己都合による離職者が後を絶たず、半数の8人は就職から1年以内の早すぎる決断でした。毎日のように職場を訪問しては「なぜ辞めたいの?」と尋ねるのですが、8人から返ってくるのは決まってこんなつぶやきでした。「ほかの仕事のほうが自分に合っていると思うから」という、ぼんやりとした期待感。現在の勤務先の仕事内容や人間関係に大きな問題はなく、それ以上に満足する職場と出会える可能性があるとも言い難いケースがほとんどでした。
 また離職していった彼らのその後を見ると、再就職へとチャレンジしたのは8人のうち3人にとどまり、残りの5人は就労そのものに興味をなくしてしまったようです。
 開所2年目にして気付いた、支援者という「おごり」から生まれた失敗でした。企業に就職し働くのは彼らであり、就職を喜ぶのも給料で生活を豊かにするのも彼らであるはずなのに、彼らの「職業選択の自由」という犯してはならない領域にまで侵入してしまったのです。
 「今は厳しい時代、就職できる会社があるだけでいいじゃない」と門戸を開いてくれる企業を声高に評価し、彼らの趣向に耳を傾ける機会を持とうとしませんでした。訓練室で垣間見るわずかな情報を根拠に、指導員主導の勝手な職場開拓。職場実習が無事終了すると、その数日後には就職というケースもありました。就労経験のない訓練生がわずか1か所の実習のみを経験し、就職先を決めることに無理はなかったのでしょうか。そんな数々の誤った支援を見直し、私たちは就労支援そのものの認識からカリキュラムまで、すべてにわたって「見直し」を始めました。

3 訓練室はスピード重視

 まず訓練室内で行う作業内容から検討を始めました。雇用支援センターは専門的な技術を身に付ける訓練機関ではないため、「何を訓練するのか」「何を引き出すのか」ということには頭を抱えました。しかしあくまでも「企業への就職」にこだわる私たちなので、企業が求めるニーズを最優先しました。
 企業の多くは、採用に踏み切る大きなポイントとして作業スピードをあげました。これを受け、各種作業の目標処理時間を細かく設定した、5段階のステップアップ方式訓練を始めました。この訓練は各人の作業スピードを向上させたことに加え、ノルマ意識や競争意識の芽生えという思わぬ成果も生みました。

4 「職場実習は3か所以上」を基本に

 次に手がけたのは職場実習の意義確認です。職場実習が職業準備訓練の最も効果的手段であることは共通の認識ですが、彼らの立場から職場実習をとらえると、さまざまな職種を経験できる絶好のチャンスとも言えます。先に述べた苦い経験の多くは、1か所のみの職場実習から就職していったケースでした。そのため、特に就労経験のない利用者には、希望する職種を聞き、最低3か所以上、異業種の職場実習を準備しました。
 職場実習の経験を重ねるほど彼ら自身にも自信や余裕が生まれ、3か所目を終える頃には「やりたい仕事」「やれる仕事」が具体的かつ客観的に見えてくるようです。そんなはっきりとした就職希望の意志が確認できる頃には、熱意も積極性もあり競争心にもあふれています。あとはマッチングだけですので、私たちが条件の合う企業を探せばよいだけとなります。複数の職場実習が生んだ成果は、「ほかの仕事のほうが自分に合っていると思うから」というつぶやきを聞かなくなったことでした。

5 ネットワークの重要性

 さて、ここまでは雇用支援センター単独で行う就労支援について紹介させていただきましたが、実は多くのケースを福祉機関等と連携した就労支援ネットワークで支援しています。利用者の中には生活基盤の整備(生活費の確保・衣食住の支援者の確保等)から支援を必要とする人も多く、地域生活支援の必要性を痛感しています。また、せっかく就職しても余暇が充実していなければ、仕事をする活力も生まれません。それは早期の離職という結果を招くことにもつながります。
 そこで立ち上げたのが「筑後地域障害者就労生活支援ネットワーク会議」です。これまでの経緯において、雇用支援センター単独では支援しきれなかったケースは、各行政及び福祉施設等の「キーパーソン」に頼ってきました。「この人に相談すれば何とかなる」という、言わば各専門分野のスーパーマンを確保し、本来従事している各業務や事業について、拡大解釈と柔軟な対応をお願いしました。ネットワーク会議はそのスーパーマンや、それに興味のある人が一堂に会する場として始まりました。障害のある人からの就労生活に関する支援のニーズは、一時的かつ部分的なものではなく、永続的かつ就労生活全般のものだと感じます。
 私たちのネットワーク会議の特徴は、これまで断片的な支援を行ってきた個人が集まり、それぞれが就労生活にかかわる諸問題解決のための地域のキーパーソンをめざしていることです。目標は各個人が所属機関のスペシャリストではなく、地域のスペシャリストとして地域の社会資源になることです。
 就労という人生の選択肢を知る、自分が選択した就労への準備を支援する機関に出会う、就労への準備を進める、働きたい企業に出会う、就職する、働き続ける、生活を豊かにする、地域で単身生活をする、結婚や子育てをする、これらのどれをとっても私たちには支援のニーズを感じます。そして、障害のある人が今後ますます在宅・施設・病院から地域へと生活のステージを変化させようとする時、そのニーズは高まるばかりです。

6 おわりに

 これから就労支援に携わる私たちが持つべき技術として、ケア・マネジメント力が重要になってくるのではないでしょうか。またそれは支援現場の実践者であるということも重要です。相談者のニーズも企業のニーズも把握している地域の生の「情報力」があり、あらゆる人的ネットワークを持っていることが、あらゆる問題を解決に導いてくれそうです。

(くにたけえりこ 福岡県障害者雇用支援センター)