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イベント

第一回鹿児島車いす駅伝競走大会

前田究

 平成十二年十月八日午前十一時、全国で三番目となる第一回鹿児島車いす駅伝競走大会がスタートしました。

 鹿児島県車いす陸上競技連盟(現鹿児島県障害者陸上競技連盟)事務局長の私のもとへ、鹿児島県障害福祉課から協力の要請があったのは、平成十一年初秋の頃です。内容は、平成十二年に完成する県障害者総合福祉センター「ハートピアかごしま」の開所記念に、車いす駅伝大会の開催を計画しており、コース試走に協力してほしいという依頼でした。私は、壮大な計画を聞いて驚きましたが、私自身車いすマラソンや車いす駅伝に出場した経験が生かせるならと考え、協力を了承しました。
 県によると、開所記念行事に適当な催事として、障害者の力強さや存在を十分社会にアピールし、バリアフリー社会の実現を先導的に担える障害者スポーツ種目として、公道を使用し、スピード感溢れ、なおかつ全国的にも珍しい車いす駅伝競走大会を計画しているとのことでした。
 現在、国内で全国規模の車いす駅伝競走大会は、岡山県津山市と京都市の二か所で、毎年開催されています。津山市は国際交流色、京都市は都道府県対抗色をそれぞれ強調しており、それぞれ十数回を重ねています。鹿児島大会としては、より多くの人の目に留まる繁華街をコースに入れること、そして、一区間を女性限定区間とすることなど、バリアフリー社会の実現を大きなテーマとした、競技性よりも参加を重視するという特色を打ち出す意向でした。
 県が候補として挙げたコースは、試走してみると車いすレースに適した平坦な地形で、危険箇所も少なく、鹿児島随一の繁華街天文館や、鹿児島のシンボルである桜島を背景に走れる郷土色溢れるものでした。「国道を使用しないこと」とあらかじめ鹿児島県警からの指示を受けていたため、駅伝で必要となる二十キロ以上の距離を公道で確保するのが難しく、一部周回コースを設定し、五区間約二十四キロの駅伝コースの青写真が完成しました。この中の三区は、一・八キロとし、女性と頚髄損傷選手の限定区間と位置付けました。当初この区間は女性選手のみという設定でしたが、女性車いすランナーの数が極めて少数であることと、四肢に障害がある頚髄損傷選手も、女性と同様に、上肢に障害がない脊髄損傷の選手と比較し、スピードレベルが低いために、絶対的なスピードが要求される車いす駅伝という舞台において、今まで活躍する機会が少なかったという理由から、頚髄損傷選手も限定項目に追加しました。
 大会実行委員会が平成十二年二月に発足し、開催が決定し、大会に向けた準備が本格的に始まりました。実行委員会事務局が、一部完成した「ハーピアかごしま」内の鹿児島県身体障害者福祉協会に設置され、私も四月から務めていた会社を辞め、県身体障害者福祉協会の職員となり、駅伝事務局での業務が中心の毎日となりました。
 実行委員会内で会議を重ねていく中で、常に不安だった点は、参加チーム数の問題でした。開催を決定したものの、選手が集まらないのでは話にならないからです。開催時期も車いすロードレースが西日本各地で行われる秋期であるのに加え、大会開催の十日後には、シドニーパラリンピックも開幕するとあって、車いすランナーが多忙なシーズンであることも心配の種でした。私も自分が所属する鹿児島チームの人員を増やし、四チームをエントリーさせたり、個人的なネットワークを使って、各県の選手と直接交渉をするなどし、何とか二十チームのエントリーが得られました(エントリー後、一チームが棄権したため十九チームが参加)。
 車いす駅伝は、車いすマラソンと異なり、選手を区間ごとに配置させなければならないために、選手やボランティアの輸送計画には、頭を痛めました。
ボランティアも車いすレースを初めて見る人が大半を占めていたので、車いすからバスヘの移動の介助や、競技用車いすへの乗せ方など、ボランティア講習会では、鹿児島チームの選手を実験台に徹底指導しました。
 宿舎にも配慮しました。限定区間を競技規則で設けたために、女性や頚髄損傷者など、上肢筋力が弱く、トイレや浴室への移乗動作が困難と考えられる選手が多数宿泊するからです。実際に宿泊に利用するホテル三か所を私たち選手と、専門業者で見て回り、対策を考えました。障害者用の部屋が選手数だけそろっているわけもないので、どのホテルも客室内のバス・トイレの入口は狭く、段差もあるため、何らかの工夫が必要でした。トイレへの移乗は、車いすの幅や上肢筋力の良好な選手にとっては可能ですが、移乗が不可能な選手も多数いると判断し、チームに一台ずつ、高さ調節が可能なベンチを貸し出すことにしました。また、バス・トイレの扉を一時的に取り外してくれるホテルもあり、事前に調査し、撤去を希望された場合は、その客室のバス・トイレの扉を外し、仮設のカーテンを取り付けました。温泉大浴場が併設されているホテルに関しては、スロープやシャワーチェアを用意しました。
 十月七日。大会前日には、全国から続々と選手がやってきました。受付を済ませた選手は、メディカルチェックを受け、バスでコース下見へと出かけます。初回であるため、事前にコースの危険箇所はビデオに撮り、各チームへ送付していましたが、自分の目でコースをチェックしたいと、選手も多くは下見バスヘ乗り込みました。
 開会式・交歓会は、盛大に行われましたが、この時、鹿児島市内は、桜島の噴火による五年ぶりの大降灰に見舞われていました。駅伝コースには灰がたまり、当日の天気予報も雨だったため、そのままでは道路がぬかるんでしまい、駅伝が開催できません。しかし、開会式に参加していた鹿児島県知事や鹿児島市長のご配慮で、ロードスイーパーや散水車が徹夜で除灰作業を施し、ようやく開催にこぎつけました。
 十月八日。当日は予想通りの雨模様でした。選手も競技役員もボランティアも、定時には持ち場につき、午前十一時スタートの号砲が鳴りました。
 レース前に評判の高かったチームは、大分ホンダアスリート、火の国熊本、京都ステイヤーズの三チームでした。いずれも花の一区と最長の二区にエースを配したほか、アンカーにも勝負強い選手がエントリーしていました。中でも大分の一区を走る廣道純選手は、今大会の参加選手の中で唯一のシドニーパラリンピック日本代表で、その世界の走りに注目が集まりました。
 予想通り素晴らしいスタートダッシュで飛び出したのは大分の贋道選手。熊本の岩下選手も、序盤二番手につきますが、ニキロ付近では難されてしまい、廣道選手の独走態勢のまま二位に一分近い差をつけ、二区走者のべテラン二木選手に中継しました。
 大分は最長区間二区でも差を広げ、三区の女性・頚髄損傷者限定区間へつなぎました。この区間で活躍したのは二番手で発進した兵庫ランナーズの野田選手。前を行く大分の藤浦育子選手を猛追し、差を十七秒まで詰めました。
 一位と二位がにわかに接近し、勝負がもつれるかに見えましたが、四区大分の宮平選手が区間賞の走りで後続を引き離し、アンカーの渡辺習輔選手も無難な走りで独走のフィニッシュ。二位には四区で順位を上げた火の国熊本、三位は福岡が入りました。地元鹿児島も私が第四区をつとめた鹿児島Aチームが四位に入賞する健闘を見せ、大会を盛り上げました。
 沿道は繁華街天文館をはじめ、多くの市民が詰めかけ、灰と雨で泥まみれの熱戦を繰り広げる選手への声援が響きました。また、大会の様子は、新聞やテレビでも大きく報じられ、県民に大きな感動を届ける結果となり、大会の目的であるバリアフリー社会の実現に向け、二十一世紀に大きくはばたく一歩を刻む結果となりました。今後も、南からバリアフリーを提言するイベントとして、さらに大会を育てていきたいと考えています。
(まえだきわむ 第一回鹿児島車いす駅伝競走大会実行委員会事務局総務企画係長兼鹿児島Aチーム選手)

 1 大分ホンダアスリート(廣道、二木、藤浦、宮平、渡辺)     57分51秒
 2 火の国熊本     (岩下、安達、西島、黒田、山本)  1時間 0分23秒
 3 福岡SPEED   (副島、安川、今泉、早聞、大津)  1時間 2分16秒
 4 鹿児島A      (岩切、川路、中崎、前田、早瀬)  1時間 2分27秒 
 5 兵庫ランナーズ   (川上、藤川、野田、村上、萩原)  1時間 4分14秒
 6 京都ステイヤーズ  (栗山、寒川、藤重、赤松、西原)  1時間 4分29秒
 7 宮崎A       (松浦、山下、小阪、田崎、高館)  1時間 4分51秒
 8 岡山        (松永、山本、児玉、見船、川原)  1時間 6分20秒
 9 山口        (竹重、福場、伊藤、右田、富川)  1時間 8分37秒
10 ハイパー福井    (島田、用田、高田、北野、竹廻間) 1時間10分 7秒
11 沖縄タートルズ   (池原、山入端、砂川、伊芸、川満) 1時間11分20秒
12 長崎        (伊藤、嘉松、菊屋、藤田、佐藤)  1時間11分22秒
13 宮崎B       (津島、有馬、関谷、外山、小川)  1時間12分31秒
14 鹿児島・天草    (平野、大田、江口、宮崎、下川)  1時間14分13秒
15 鹿児島C      (下堂薗、下村、小峰、床並、寺田) 1時間18分27秒
16 鹿児島B      (宮元、坂元、阿部、渡辺、西田)  1時間21分19秒
17 熊本あそBOY   (内賀島、中神、岡村、桑原、池田) 1時間30分17秒
18 茨城PⅡC     (島田、星、小林、鈴木、今泉)   1時間34分 0秒
   佐賀        (村上、川尻、小川、森永、田中)  1時間16分 1秒

区間賞

1区(6.17キロ)  廣道 純(大分ホンダアスリート)   12.44
2区(6.43キロ)  川尻 信二(佐賀)          14.32
3区(1.81キロ)  高田 稔冶(ハイパー福井)       4.48
4区(4.14キロ)  宮平 盛男(大分ホンダアスリート)  10.02
5区(5.56キロ)  山本 行文(火の国熊本)       13.28

※佐賀はオープン参加。ただし3区以内の区間記録は公認。