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列島縦断ネットワーキング

宮城
バリアフリー国体をめざす推進ネット

大久保健一

 宮城県では今年「新世紀みやぎ国体(夏季・秋季)」が開催されます。この国体を宮城県は「バリアフリー国体」にしようと取り組んでおり、国体に向け県内のバリアフリー化をめざしています。
 そのような中で、「バリアフリーみやぎ推進ネット」なる団体が2月9日に設立されました。この団体は事務局である宮城県保健福祉部夢プラン推進室が昨年より準備会合を呼びかけ設立に至りました。活動方針としては「バリアフリー国体の成功とバリアフリー社会の実現に向けてバリアフリーみやぎ推進ネット参加団体間の情報交換や連携を図りながら各参加団体がバリアフリーに関する活動を展開していくことを目指す」とあり、さまざまなジャンルの市民団体がバリアフリーというキーワードのもと、連携のネットワークを築いて「参加団体間の情報交換を促進し連携を図るための交流会の開催、会報・ホームページの作成や県内外にバリアフリー意識を広げていくための広報・アピールを行う」ことが活動内容です。つまり県民・市民の側からバリアフリー国体をきっかけに、バリアフリーの機運を盛り上げていこうということです。
 準備会合から参加している発起人団体は、宮城県内の障害者団体、福祉団体、ボランティア団体が中心です。その中に私たち障害者生活支援TIJも参加しています。今後、福祉関係以外の市民団体の参加も望まれ、ゆるやかな連携団体として、まず情報交換・交流の場としての役割が期待できます。これまで3回ほどの準備会議では方向性などについて活発な議論が行われてきましたが、具体的な活動内容についてはまだこれからです。
 それでは、盛んに宣伝されているバリアフリー国体自体の準備状況はどうかということですが、障害当事者としての県民の立場から見た状況を紹介しましょう。
 まずハード面ですが、国体の競技会場は障害当事者の意見を聞きながら、ほとんどバリアフリー化され、障害者でも不便なく観戦できます。ただ、その会場まで行く導線としての交通手段は、まだまだバリアフリーとは言えない状況です。数字上では、県内の駅のエレベーター設置数が増えたりしていますが、そのエレベーターは使用時間の制限があり、早朝や夜間は使えなかったり、ホームまで行けたとしても車両に乗り込むには大きな段差があり、車いすではそのまま乗り込むことができません。
 特に宮城県の動脈の鉄道である東北本線および常磐線の車両は、乗り込んでから車内に一段の段差(全国の多くの鉄道車両は車内には段差はない)があるので、車いすの者には大変不便な車両となっています。ホームから簡易スロープ(渡し板)を渡して乗り込むのですが、段差が大きいため、その角度が急になっていて大変危険な状況です。実際に、私は列車に車いすで乗り込もうとした際、電動車いすごと後頭部から転倒し、車いすから身体がふり落とされ、後頭部を負傷して救急車で病院に搬送されました。幸い私は軽傷(後頭部を一針縫う)で済みましたが、この段差があるために車いすでは一人で自由に乗り降りできず、乗降車駅での駅員による送迎、簡易スロープの設置、連絡ミスによる降車駅での迎えの駅員の不在など、改善してもらいたいことはたくさんあります。
 私が住む名取市の市民バスは最近、運行がスタート(実験運行)したのに、車いすのまま乗降できるバスが全くないなど、路線バスのバリアフリーもまだまだです。観光地である松島海岸駅等でも階段しかなく、バリアな駅となっています。このようなバリアについては、国体独自で集めた自動車(ハンディキャブ等)で移送し、駅などの階段は人的ボランティアで対応するそうです。果たしてこの人的対応だけで、真にバリアフリー国体と言えるのか疑問です。最低限のハード整備が整い、移動権が保障されたうえでの人的対応でなければバリアフリーとは言えない、と私は思います。
 以前、パラリンピックが行われた長野を見てみると、期間中だけ車いすでも乗りやすいバス等を他の自治体から借り、一過性のバリアフリーしか残らなかった例があります。バリアフリーを心の問題(心の壁をなくす)と置き換える人もいますが、本来、バリアフリーはどんな人でも権利(移動権)が保障されるという意味なので、宮城ではそのようなバリアフリー国体にしたいものです。それを具現化していくのも「推進ネット」の役割の一つかと私は思っています。
 一方、ソフト面の準備状況はどうかというと、国体にかかわるボランティア数は今までの国体の中で最大規模になっており、ボランティアの活躍が大いに期待できます。その国体ボランティアの介助研修用のビデオに障害当事者である私たちも出演して教えたりしています。しかし、直接的には国体運営に参加できず、はがゆい思いがあります。バリアフリーを与えられる国体でなく、一緒につくっていくという意味で、だれもが大会運営に参加できる、運営面でのバリアフリーを実践してほしかったと思っています。
 もっと広い視野で見てみると、宮城県で障害者が自立生活をしようとすると多くのバリアが立ち阻っており、県実施の介助制度が削減(一定期間)されたり、私たちのような自立生活センターへの支援はなく、その輪が広がらないなど、決してバリアフリーや福祉先進県とは言えない状況です。
 このバリアフリー国体は行政が旗振り役で始まりましたが、私たち当事者がそれにどんどん参加していき、肉付けをしていかなければなりません。そのためにも、国体を一過性のイベントの終わりにせず、これをきっかけに、宮城の発展途上なバリアフリーを継続的に広げていくことだと思います。ですから、今年の宮城県でのバリアフリー国体は、バリアフリーを実現する国体ではなく、バリアフリーのきっかけ作りの国体だと思います。「推進ネット」がその核となることを願い、かかわっていこうと思います。

(おおくぼけんいち 障害者生活支援TIJ)