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対談
新世紀、当面する障害保健福祉分野の課題

今田寛睦(いまだひろむつ) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長
板山賢治(いたやまけんじ) 日本障害者リハビリテーション協会副会長、本誌編集委員

厚生労働省の発足と当面の行政課題

板山

 厚生労働省が誕生し、厚生行政と労働行政が一緒になって障害者施策に取り組んでいただける時代を迎えました。また、来年はアジア太平洋障害者の十年の最終年ということで、民間団体が障害の種別やイデオロギーを超えて三つの国際会議と三つのキャンペーンを成功させようという動きを始めています。今回は、今田部長から最近の障害保健福祉行政の方向というものを中心にお話いただきたいと思っています。
 まず第1に、先般来全国の部長会議や課長会議を開催して行政の方針等についてお話をされていると思いますが、当面する行政運営方針の主なものについてお考えをお話しいただければと思います。

今田

 昨年の6月の社会福祉事業法の改正により、福祉サービスの理念に大きな変革がありました。障害保健福祉分野では、この法律改正により、福祉サービスについて措置制度から利用制度に移行することとしました。行政の障害者に対する対し方も、基本的に変わりつつあると考えています。障害者の自己実現のために、われわれ行政はどういう手助けができるのか、それを側面的にどう援助できるのかということが今問われているのではないかと思います。つまり、今まではいいことをしてあげましょう、ということが前面に出ていたと思うけれども、これからはご本人の意向に基づいた行政をやっていかなければならない、と考えています。
 今回の社会福祉事業法の改正の理念もまさにそこにあると思いますし、その理念を現実のものとして動かすものが多い分野が、障害福祉行政であろうと思います。これからは、障害者行政と社会福祉法の両方を一緒に機能させなくてはなりません。ですから社会事業法を所管する社会・援護局と大臣官房にあった障害保健福祉部が一緒になったという今回の組織改正は、障害者行政と福祉事業を一体化させるという意味で、メリットがあったのではないかと思います。
 もう一つは、行政自体が地方分権化の方向にあります。障害者サービスは、市町村レベルで担える規模にしなくてはならない。施設サービスはある程度の規模が必要ですから、必ずしも市町村レベルでは機能しませんが、小規模・多数化して地域で身近に利用できるような仕組みを作らなければなりません。
 しかし、分散化しすぎると今度は体をなさなくなってしまいます。ですからある程度の共同利用、つまり3障害が一緒に使えるようにすることが必要だと思います。小規模化と共同利用によって、初めて身近に地域サービスの基盤ができ、市町村も自らの意思で運営ができます。今回の改正で法定化した小規模授産施設は、3障害共通の財政基盤となっており、施設基準も基本的に共通・相互利用もできますから、一つの先駆的なあり方として注目しています。15人の施設であっても5千か所以上ありますから、従来施設を整備してきたのとは違った世界が生まれるという期待もあります。

重い障害のある人の社会保障

板山

 障害者自身の自己決定などを中心として対等な関係でサービス利用ができる時代、まさに権利の裏づけをもった福祉サービスがこれから展開されようとしています。一方で行政のしくみとしても、広域的なものと地域における小地域分散化という二面性を追求する必要性があるというご指摘でした。
 ひとつここでお伺いしたいのですが、これからの社会保障の将来的展望は、重度重複障害など自助努力の可能性が極めて乏しい人たちに対する、たとえば経済的な保障、リハビリテーションの仕組み、セイフティーネットというべき最後の手当てをすることをとくに障害者福祉には求められてくると思うのですが。

今田

 私は自己実現と自助努力は別のものだと思っています。先ほど申し上げた自己実現というのは、自分の思いを遂げることですね。昔から、自助、互助、公助といってきた意味での自助は、社会復帰のための責任と独立を意味しています。これがある意味で介護保険の理念につながっているわけです。互助は保険料であるし、公助は税による負担、自助は自己負担です。このような保険制度の概念として生まれた介護と障害者の介護の概念は、果たして同じでいいのだろうか。そこは一番議論をしなくてはならないところだと思っています。もし仮に、障害者の福祉サービスにそういうものを求めるとすれば、所得保障とのセットになるんじゃないかと思うんです。

板山

 それはたいへんすばらしいご意見ですね。国会での介護保険法の審議の際の付帯決議で、簡単に障害者の介護も将来制見直しのときに統合だと言われています。みんなで支えあう制度だからといって、比較的お金のある高齢者と統合することについては、かなり異論をもっているところもありますから。今のようなご意見は意をつよくするところがあります。

今田

 高齢化というものは誰でも避けられないことですから、若いうちから準備できるという条件があり、ある程度所得保障にかかる部分が対応できるんですね。しかし、たとえば知的障害のある人に、ある日突然、自助という概念を求めることができるのかどうか、ということです。

地域生活支援センターの役割

板山

 昭和59年に障害基礎年金が制度化されたとき、実は生まれながらの障害者について、20歳になれば拠出なしに基礎年金を支給するという思い切った制度ができました。その理由は、まさに部長がおっしゃったように、若いときから自助努力によって準備できる人とそうでない人との本質的な相異を考えた制度だからです。
 もう一つ、これからのたいせつな行政の方針だと思うんですが、専門的な広域的な総合リハビリテーションセンターのようなものは別として、できるだけ市町村の地域の中でサービスが得られるように地方分権化していく。小規模作業は今、草の根の運動でさまざまな教育活動、労働行政の活動、福祉サイドの活動など、障害種別を超えて総合的に地域の中で利用しやすい状態ができているんですね。その点に着目することは非常に大事だと思うんですよ。地域生活支援事業と名前を使っていますが、小規模作業所が果たしてきた活動の役割を、ぜひ行政にも生かしていただきたいと思いますね。

今田

 いわゆる地域生活支援センターがありますが、基本的には、いろいろなサービスが障害者の人たちにもっともふさわしく利用されるようにするための、一種のアドバイザーなんですね。利用制度の下では、住民からサービスを求められた時、市町村や支援センターは、アドバイザーとしてケアマネジメントという技法をもって、対応しなくてはならない。そういう意味では、支援センターは、障害者サービスの基地としての役割があると思っています。本当にそこが力をつければ、市町村は業務を支援センターに委託してもいいんですね。
 現在ケアマネジメントの検討会を作っていて、ガイドラインをつくろうとしているところです。これがまとまれば、利用制度になったときの一番の潤滑油になると考えています。

板山

 障害者の自己実現のためのサービス利用の仕方とか、アドバイザーとしてのケアマネジメントは重要な意味を持っています。介護保険のほうでこのケアマネジメントが使われて、これは介護の給付をなるたけ安く上げるためにあるいは、利用の制限をするためにと一部で受け取られている面があります。障害者の場合のケアマネジメントはどのようにお考えですか。

今田

 介護保険では要介護認定がサービスの量を決定しているので、ある意味で厳しくなったり、意見が合わなかったりするわけです。障害者の場合はもし制限を受けるとすれば、その地域にそのサービスがあるかないかで制限を受けるわけです。ですから、介護保険とは若干違うと思いますね。

「障害者プラン」の達成

板山

 平成13年度の予算で、特に重点をおいて打ち出されたものがありましたら、お話しいただけますでしょうか。

今田

 一番のメインが障害者プランの達成です。プラン関係の予算は4.1%で約2880億円です。われわれの第1の使命は、障害者プランの達成に向けた取り組みをすることです。特に重要なのは、市町村で障害者プランを立ててもらうことです。15年度から支援費制度がはじまる中で、利用者がサービスを選択できるよう、市町村としても用意すべきものをある程度念頭に入れた計画づくりをしていかなくてはならないと思います。これまでの進捗状況を見ると、障害者に対する相談支援事業が遅れ気味になっているのが気になっています。このあたりについては、市町村間の連携をある程度踏まえたうえで、そのあり方を考えていかなければならないと思います。いずれにしても、すべての市町村に障害者計画を立てていただくように、お願いをしているわけです。たまたま2002年の最終年記念フォーラムでも市町村障害者計画のキャンペーンをしていただけることは、ありがたいですね。

板山

 昨年の12月に熊本県にいく機会がありました。全国の約3300の市町村の中で熊本は全市町村のうち障害者計画を9%強くらいしか策定をしていないんですね。どうしてこんなに低いのか、介護保険の事業計画を作るのに精一杯で障害者まで手が回らなかったというのが本音なんですね。もう一つは、県内の町村統合が進まなくて、90いくつもあるという。やはり人口の少ないところでは、障害者の数も少なくて、そのために計画を作れといってみても無理だという声が強いんですね。ぜひ市町村計画作りを全市町村にということで関係者への願いを行政的にも、バックアップしていただきたいと思います。

今田

 今おっしゃったように小さな市町村が単独でできない場合、市町村圏や福祉圏域といった広域で作る方法もあります。滋賀県では全県を広域化して、すべての市町村がすでに障害者計画をつくってしまったんです。広域でやる場合は、県が率先して動いてくれないとダメなんですが、そういうところは少ないですね。

社会参加の推進

板山

 13年度予算等では、障害者プランの推進に関する事業が進んだということですが、障害者福祉施策というのは障害者プランに載っているものだけでもないんですね。社会参加という面では、情報の問題とか、スポーツの問題、あるいは生きがい対策とか、地域リハビリテーションの仕組みもたいへん大事なんですね。このへんについては、どうお考えですか。

今田

 先ほど障害者プランの達成に向けた取り組みをお話ししましたが、もう一つ重要なのは社会参加です。IT化が進む中で、障害者にとっての情報バリアフリー化というのがひとつの大きな課題になるのではないかと思います。昨年の補正予算においては、全国の障害者福祉施設に障害者が利用できるIT機器を配置するための予算を計上し、この3月中には配置が終了します。また、13年度予算では障害者がパソコンなどを使うために必要な補助的用具やソフトを購入するときに、一定の助成をする事業を予算要求しています。たとえば、点字入力するための機器や、拡大文字で表示されるようなソフトの購入などについては、個人に対して一定の助成をするという仕組みです。助成するのは購入費用の3分の2以内で、10万円を上限としています。

新しい利用サービスの基盤整備

板山

 個人給付の道が選べるというのは、すばらしいことですね。さて、平成15年から措置から利用制度に、支援費制度がはじまりますが、それに向けての行政的な面からの推進するための方策をどのように考えていらっしゃいますか。

今田

 まず一つは、利用制度になりますと、ご本人が選択し、契約していくわけですが、その仕組みそのものに本人たちも支援センターも市町村も慣れていないわけです。ですから、どういう契約で、どういう話し合いをし、どういう手続きをとって、どういうサービスを想定できるのかを相談できる窓口において、ケアマネジメントをできる人たち、つまり役場の人たちや支援センターの人たちにそこの絵姿を示さなくてはなりません。
 もう一つは、本人が契約をする際に、本人が意思をきちんと伝えられるよう、それを支援する権利擁護の仕組みとセットになって動かなくてはならない。それから、施設の側はそのサービスの内容を示さないと契約は成り立たないわけです。では、どういう情報公開をするのかということですが、全体を支えるのは、その供給力ですから、サービスの量を増やしてもらわなければなりません。このあたりの構造を市町村などに十分理解してもらうためには、早め早めにその仕組みや手続きなどを示さなくてはなりません。
できれは、今年中には市町村の事務処理の概要や支援費支給決定の手続きについて、市町村にお示しするつもりです。
 それから、平成14年の4月から、精神障害者の福祉サービスが市町村に移行します。これは一昨年の精神保健福祉法の改正内容が施行されるわけですが、身体障害者や知的障害者の支援費制度の施行に1年先駆けて実施されるわけです。平成15年には、お互いに整合性をとって考えていかなければならないと思います。

板山

 支援費制度は、2段階で始まるわけですね。

今田

 そうですね。ですから今、市町村に対して県がどういうことをやっていくべきか、一生懸命台本づくりをしているわけです。

板山

 今度の課長会議では、支援費について、Q&Aの冊子を出されましたね。あれはたいへん反響をよんでいます。

今田

 私たちの気づかない点もたくさんありますから、都道府県などから質問を出してもらいまして、それを全部整理して作ったんです。そういう意味でもQ&Aのようなものは大事だと思います。

2002年、最終年への取り組み

板山

 国連障害者の十年の記念施設(大阪府堺市)の名前は「ビッグアイ」と決まったそうですが、ビッグアイの名前について、ご説明いただけますか。

今田

 まず「アイ」は日本語の「愛」の意味です。もう一つは、見つめていくという「アイ」、「目」ですね。それと、インフォメーション(information)の「I」でしょうか。自立という「インディペンデンス(independence)」という意味もあります。

板山

 2002年はこの記念施設を舞台にして、「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念大会を開催します。札幌では、DPIの世界会議が開かれます。この最終年記念フォーラムを成功させるために、三つのキャンペーン活動を計画しています。全市町村の障害者計画の策定、欠格条項の見直し、情報のバリアフリーを掲げ、今年の夏からキャンペーンが始まります。この国際会議についても行政的な支援をぜひお願いしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。